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公爵令嬢は悲運の王子様を救いたい  作者: 田鶴


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22.証拠

 ジークフリートが先代・当代伯爵夫人からサンルームの蘊蓄を聞いていた頃、エミールは買収した伯爵家の使用人から入手したツヴァイフェル伯爵邸の見取り図を参考にして伯爵の執務室へ侵入を果たしていた。


 部屋の鍵はかかっていたが、そのぐらいの開錠はエミールにとって容易いことだ。彼はそういう手先の器用さや身のこなし方からは諜報員向きだったのだが、子供の頃に盗賊に襲われたトラウマを克服して戦うことができず、王家の諜報部隊から離脱してジークフリートに拾われた。


 エミールは冷静かつ手早く執務室の書棚や机の引き出しなどを調べていったが、目に見えた収穫はなかった。次に棚の本の背表紙もひとつひとつ触って違和感がないか確認していった。


 その時、階下のサンルームの方向から数人の声が聞こえた。ジークフリートが伯爵達をこれ以上足止めできなかったのかもしれない。


 エミールは、急いで残りの背表紙の感触を探っていった。ここには仕掛けはないかと思われた時、手がダミーらしき本に当たった。そのダミー本を引くと、ガコンと小さな音がして隣の数冊の本の背後に小さな空間ができた。


 エミールが本を取り出して中の空間を確認しようとしたその時、声の主達が廊下から執務室に近づく足音が聞こえた。エミールはダミー本を慌てて元に戻し、窓から外へ出て窓枠を足場にし、室内から見えないように身をよじった。


 その直後にツヴァイフェル伯爵と使用人のお仕着せを着た男の2人が、ガチャガチャと鍵を開けて執務室の中に入って来た。2人は部屋の中をキョロキョロと見まわし、部屋に異常がないか確認している。


 男の態度は、伯爵に対する使用人のそれには見えず、立場が逆転しているように伺える。


「殿下の護衛が1人見当たりません」

「どこか触られた痕跡はあるか?」

「あ、いえ……特に変わったところはないようです」

「じゃあ気のせいだ、厠にでも行っているんだろう。連絡は読んだら全て燃やしているだろうな?」

「もちろんでございます」

「だったらビクビクすることはないだろう。アレは滅多に見つかる所には隠していない。それとも寝返る時のために何か証拠を取ってあるのか?」

「滅相もない!」


 その時、女性のヒールらしき足音が近づいてきて『閣下、殿下が……』と伯爵を呼ぶ声が聞こえた。ジークフリートは、伯爵が執務室に行ったのを察して彼を呼び戻してくれたのだ。

 だが、それは諸刃の剣でもある。ジークフリートが伯爵をわざわざ呼び戻すのなら、彼が別れの挨拶をする以外、特に理由が見当たらない。伯爵達が部屋から出て行ったら、エミールは目的の物を盗んで早く持ち場としている馬車番に戻らなければならなかった。


 2人が執務室から出て行った後、エミールは急いで執務室の中に再び侵入し、もう一度ダミー本を引き抜いて隣の本の後ろの空間に手を伸ばした。

 空間の中は金庫になっていて鍵がかかっていた。少し手間がかかったが、エミールは無事に開錠し、中身の文書を白紙と入れ替えて本物は畳んで内ポケットに入れた。

 それからエミールは、急いで動かした物を元の位置に戻して窓から外へ出て伯爵家の厩に行き、何食わぬ顔で馬車の番に戻った。


 ◇ ◇ ◇


 ツヴァイフェル伯爵家から王宮に戻ってきたジークフリートは、ルプレヒトとエミールを除いて人払いをさせた。


 エミールが伯爵家から盗んできた文書を渡されて開くと、ジークフリートは興奮を抑えきれなかった。ルプレヒトも続けて文書を見せてもらい、顔を紅潮させた。


「おお! これで革命派を追い詰められるかもしれないぞ!」

「やりましたね、殿下!」

「でかしたぞ、エミール!」

「ありがとうございます……!」


 いつも冷静なエミールもずっと探してきた証拠を見つけられた興奮と褒められた嬉しさを隠しきれていなかった。


 エミールが伯爵家で発見した文書は、ソヌス王国の革命派が王弟アウグストに協力を説得するためのものだった。アレンスブルク王国がソヌス王国の革命に手を貸すのであれば、革命派はアレンスブルクで革命運動をせず、アウグストをアレンスブルクの国家元首として認めることを保証する書状だ。

 ツヴァイフェル伯爵はこの書状を携えてアウグストと交渉しただろうが、用心深いアウグストはなかなか了承しなかったようで、彼の署名は見当たらない。


「しかし、殿下、この文書はアンドレが革命派に直接関与している証拠にはなりません」

「ツヴァイフェル伯爵を捕縛して尋問しよう」

「そうしますと、王弟殿下は謀反の意思を隠すのではないでしょうか。どうせなら、王弟殿下も一網打尽にしたほうがよろしいのでは?」

「ルプレヒトの意見ももっともだが、この書状がないことに気付かれたら、ツヴァイフェル伯爵はアンドレに口封じされるだろう。叔父上のことはいずれ何とかする」


 ツヴァイフェル伯爵とその家族が連座で捕まったのは、それから間もなくだった。財産は没収され、王都の屋敷も接収された。


 だが捕縛から数日後、ツヴァイフェル伯爵はアンドレとの関係を打ち明けることなく、牢で冷たくなっていた。

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