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17.夜会の報告

 ジルヴィアと知り合いの令嬢達がジークフリートと夜会で踊った晩、アマーリエは自室でジルヴィアの帰りを待っていた。いつもなら瞼が落ちてしまっている時間だが、ジルヴィアの報告をわくわくして待っているので、眠たくない。ノックが聞こえてすぐにアマーリエは、扉の所まで飛んで行った。


「ジルヴィア! どうだった?」

「あのパオラとかいう女が殿下にくっついてましたよ。でも引き剥がして殿下には私と知り合いのご令嬢5人と()()()()踊ってもらいました」

「ジルヴィアを入れたら6人連続?! わざと意地悪したの? 酷い」

「そのぐらいの罰を受けても当たり前でしょう」


 ジルヴィアはツンとしたすまし顔でそう答えた。


「ねえ、ジルヴィア。それより殿下とパオラさんの関係は何なの?」

「浮気でも何でもないけど、理由はまだ言えない、でも信じてほしい、だそうです。その前に色々噂になっていたのも同じく本当は浮気ではないけど、理由はまだ言えないとおっしゃっていました」

「ふーん……どうして理由を言えないんだろう?」

「私も聞いていないですから、推測の限りですけど、王国のためではないでしょうか」

「女の人と()()()()のが王国のため?」


 ジルヴィアは途端に吹き出した。


「笑うなんて酷いよ、ジルヴィア」

「申し訳ありません。焼きもちを焼くお嬢様がかわいらしくて……」

「子供扱いしないで! 焼きもちなんて妬いてない!」

「それが焼きもちなんですよ。でもお嬢様はまだ子供です。子供時代は二度と返ってきません。たっぷり楽しんで下さい。私はもっと遊べばよかったってちょっと後悔しているんですよ」

「遊ぶって……王妃教育の勉強もしなきゃいけないのに、そんな時間ない。それに私はもう13歳なんだよ、そんなに小さい子じゃない」

「今が一番小さいんですよ。さあ、お話はこのぐらいにして今夜はもう寝て下さい。たっぷり寝て明日いっぱい遊んで下さいね。おやすみなさい」

「はぁい……」


 アマーリエは、部屋を出て行くジルヴィアを見送って渋々寝台で横になった。


 翌日、アマーリエはジルヴィアから聞いたことを父ルートヴィヒに報告するため、執務室へ向かった。


 この時代にアマーリエとして目覚めてから、彼女はこの重厚な木製の扉をもう何度ノックしたことか分からない。だが、今回は決意を秘めていただけにノックする前に深呼吸して気持ちを落ち着かせた。


 アマーリエが入室すると、ルートヴィヒは予想していたかのように待ち構えていた。


「お父様、私です」

「おお、アマーリエ。ジルヴィアは昨日の夜会で殿下と何を話したか、教えてくれたかな?」


 ルートヴィヒは妻シャルロッテと夜会に出席していたので、ジルヴィアとジークフリートの会話の内容以外のことは見聞きしていた。


「殿下は、パオラさんやその前に色々な女の人と噂になってたのは浮気でも何でもない、理由はまだ言えないけど信じてほしいとおっしゃっていたそうなんです。ジルヴィアは、殿下が王国のために何かしているからだと思っているみたいなのですが、お父様はどう思いますか?」

「殿下は殿下なりに頑張っているんだろう。そのやり方に私は賛成できないが、殿下は私の意見を聞き入れて下さらなかった」


 ルートヴィヒは、ため息をついた。


「お父様、殿下のために諜報員として働きたいと私が3年前にも頼んだことを覚えてますよね?」

「ああ。私はもちろん今も反対だよ。アマーリエは女性でしかもまだ子供だ。いくら殿下が王族でも、婚約者を守るのは殿下のほうだよ。殿下のことは近衛騎士団と我が諜報部隊が守っているから安心しなさい」

「殿下が私を守ってくださるのは私もうれしいです。でも逆に私が殿下を守ってもいいじゃないですか。お互いに守る関係って私はいいと思います。私はやっぱり殿下のために働きたい。駄目ですか、お父様?」

「ハァ……我が諜報部隊で働くなら、純……オッホン……殿下と結婚できなくなる場合もあるんだ。お前だって殿下のことをこんなに慕っているのに、結婚できなかったら悲しいだろう?」


 ルートヴィヒは言い淀んだが、現代で女子大生の歴女だったアマーリエには分かる。純潔を失えば王室に嫁げないのだ。


 ルートヴィヒの言葉は娘を思いやっているように聞こえるが、アマーリエは転生直後に聞いた彼の発言を忘れていない。彼にとって王国と家門は、娘の未来を犠牲にしても守らなければならないようだ。


 それでも彼なりに娘を愛しているらしいことは、家族として日々接しているうちにアマーリエも徐々に分かってきている。ルートヴィヒ達の両親としての愛情を感じるたびに、中身が彼らの本当の娘ではないことにアマーリエは良心の呵責を覚えて複雑だ。


 アマーリエの顔から笑みが消え、真剣な表情で父を見つめた。


「お父様。私が殿下の隣にいられなくなって殿下が他の女性と結婚したら、やはり悲しいです。でもそれ以上にもっと悲しいのは、殿下がこの世からいなくなることです。殿下さえ生きていてくれるなら、私は何でもします」

「アマーリエ……殿下がそれほどまで命を狙われているとは思えないが」

「予知夢のようなものを見ることがあるんです。それで殿下が……言いたくないんですが、その夢の中の未来では殿下が……最悪な結果になりました。その殿下も今と同じように()()()()()()()()()()()いました」

「それはただの夢だろう?」


 アマーリエは、160年以上後の世界からやって来たと話してもルートヴィヒに理解してもらえるとは思えない。それにジークフリートが男爵令嬢と心中した史実が未来の世界で知られているというのも話したくないし、話したとしても信じてもらえないだろう。


 アマーリエは言霊を信じているわけではないが、口に出してしまうとそれが現実になりそうで怖い。それどころか、話した相手が父でなければ、アマーリエの真意を疑われることになりそうだ。


「夢と片付けるには、あまりに生々しくて本当の出来事のようだったんです。お父様、殿下の周りの方々で殿下を害しそうな方はいませんか? 王妃陛下が()()()している方とか……こう言っては何ですが……王妃陛下ご自身とか?」

「滅多なことを言うんじゃない!」


 ルートヴィヒは、アンドレが王国の利益に反することをしないか諜報部隊に見張らせているが、彼がしっぽを出したことはまだない。


「お父様、お願いです! 私を諜報員にして下さい!それでどうなっても覚悟はできています」

「そんなわけにはいかない」


 ルードヴィヒは、眉間に皺を寄せて重々しく答えた。

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