15.ルプレヒトにも春が来る?
ジークフリートは、夜会から自室に帰って正装も解かずにソファの上にドサッと身を投げて寝転がった。会場から付いてきたルプレヒトが向い側のソファに座っていてもお構いなしだ。
夜会の前にエスコートの事で母ヘルミネと口論してしまい、パオラもそれに便乗してジークフリートにべったりくっついてきてジークフリートは精神的にも肉体的にもぐったりした。
「あーあ、美形の遊び人王子様が台無しですよ」
「何だよ、ルプレヒト。美形はあってるけど、遊び人なんて知らないな」
「茶化さないで下さい。今日は殿下らしくありませんでした。どうしてパオラと2人きりで易々とテラスに出たのですか? 万一あの女が殿下に襲われたとか嘘を吐いたら、大スキャンダルでしたよ。最悪、アマーリエ様との婚約を破棄されて彼女と婚約しなくてはならなくなったかもしれません」
「そのぐらいでパオラなんぞと婚約しなきゃいけなくなるわけがない。僕の悪い噂なんてもうとっくに流れてる」
「それにしても不用心です。今まで2人きりになったのは男性同士か、女性だったら未亡人か既婚夫人、未婚でも阿婆擦れだと有名な女だけだったのに」
「お前、何気に僕のことを落としてるな。不敬極まりないぞ」
「今更ですよ。それより今日の失態はいったいどうしたのですか?」
「ツヴァイフェル伯爵家への潜入のためのお茶会がまだだからな。パオラをまだ誤魔化して伯爵を油断させないといけない。それに僕はお前に合図を送っただろう?それだけお前のことを信用してるんだ。感謝してくれ」
「本当ですか。とってつけた言い訳みたいに感じます」
「正直言えば、疲れててうまい言い訳が思いつけなかったんだよ。アマーリエの侍女、わざと知り合いの令嬢を5人続けて送り込んできやがって……意趣返しだな」
「そりゃわざとだな……やるなあ、その侍女。トロイ子爵令嬢でしたっけ?」
「なんだ? 興味があるのか? 僕はああいう強気の女性は好みじゃないけど、お前は好きなんだな」
「ち、違います! 面白いと思っただけで……強いのはアマーリエ様も同じでしょう?」
「アマーリエはあんなんじゃない。かわいいよ」
ルプレヒトは、ジークフリートの目は曇っていると思った。アマーリエはまだ13歳なのに芯が強い。後4、5年も経ったらジルヴィアみたいになるんではとボソッと呟いたが、ジークフリートには聞こえなかったようだ。
「トロイ子爵令嬢は確かまだ独身で婚約者もいないぞ。20歳ぐらいだと思うな。26のお前にピッタリじゃないか? これを聞いたらお前の母上が喜ぶだろう」
「絶対に余計なことを言わないで下さい! うちの母が聞いたら次の日には相手の実家に突撃しますから」
「はいはい、言い訳はいいから」
ルプレヒトは、今まで我儘な王太子の補佐をするので精一杯だからと言って両親の勧める縁談をいつも断ってきた。ルプレヒトがそもそも特定の女性に興味を持つのが珍しい。ジークフリートは潜入調査が終わったらお節介を焼いてやろうと決意した。




