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公爵令嬢は悲運の王子様を救いたい【改稿版】  作者: 田鶴


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10.高級娼館

「殿下、本当に行くのですか?」

「ルプレヒト、しつこいぞ。私は何が何でも行く。お前が一緒に来ないなら1人で行くだけだ。ほら」


 茶髪のかつらをかぶって眼鏡をかけたジークフリートは、ブルネットのかつらをジークフリートの側近ルプレヒトに差し出した。茶髪のルプレヒトはため息をついて主人からかつらを受け取った。


「予約した私が行かなくちゃ殿下は入れないじゃないですか。仕方ないですね。私は殿下の行く所にはどこにでもついていきますよ。でも覚えておいて下さいよ。私は本心では反対です。こんなことはオルデンブルク公爵家に任せておけばいいんです」

「王族じゃないとできないこともあるだろう?」

「未来の義父を信用していないのですか?」

「そういう訳ではない。人には立場上、できることとできないことがある。あの股の緩い女が王妃であって父上が調査を命じない以上、オルデンブルク公爵家は手も足も出ない」

「殿下!」

「構わないさ。本当のことだ。父上には困ったものだ。どうしてあの女を見限らないのだろう。あんなのが母親なんてゾッとするよ。でも少なくとも僕が生まれた頃はまだ浮気してなかったらしいことだけには感謝しないといけないね」


 ジークフリートはヘルミネに母親としての情など最早持てない。それどころか、堂々と王宮で愛人を侍従として囲う貞操観念に反吐が出る。父が命じさえすれば、不貞の証拠を掴んで離婚できるのに、父はそうせず、未だに母の潔白を信じている。情けない父にもジークフリートは失望していた。


 ジークフリートはルプレヒトと共に王宮を秘密裡に出た。2人は王都郊外へ向かい、ある瀟洒な館を目指した。その周辺に他の家はなく、入口の反対側は美しい庭園になっていて貴族の別邸のような趣であるが、実は王国で最高級の娼館である。


 予約は既に23歳になっているルプレヒトの名前で行い、この娼館ナンバーワンの娼婦を指名しておいた。


 ジークフリートとルプレヒトが娼館に着くと、仮面のように無表情な執事が2人の身元を確認し、ジークフリートを一瞥して冷たく言い放った。


「お連れの方は未成年ではございませんか? 私どもは未成年のご利用をお断りしております」

「彼は今年成人した私の従弟だ。そのように予約の手紙にも書いたはずだ」

「ヴァッカーバート伯爵令息にその年頃の従弟がいらっしゃるとは聞いておりませんが」

「つい先日まで市井に隠されていた庶子なんだ。身元は()()()()()()の私が保証する。騒動は起こさない」


 実際にはジークフリートは14歳で来年成人だが、ルプレヒトはそう断言し、執事をじっと見て彼の手に金貨を何枚か握らせた。執事がまた何か言いかけると、ルプレヒトは遮って『帰りにも顔を出す』と言った。


 ジークフリートとルプレヒトは、上位貴族の寝室と言っても違和感のない豪奢な部屋に通された。そこで待っていたのは、20代半ばか後半ぐらいの妖艶な美女でカトリンと名乗った。彼女の艶やかなヘーゼルブラウンの髪は丁寧に巻かれ、滑らかな白磁のような肌を誇る顔に新緑のように輝く瞳と赤いさくらんぼのように艶やかな唇が目立つ。胸元が大きく開いたドレスからは豊かな乳房が零れ落ちそうである。貴族夫人なら絶対にしないような組んだ脚がドレスのスリットから太腿まで見えてなまめかしく、どんな男も鼻息を荒くしそうだ。そんな色っぽい女性を目の前にしても、ジークフリートとルプレヒトは全く顔色を変えない。


「それで何の御用ですか、殿()()。まさか3人で一戦交わおうという訳ではございませんでしょう? 3人でというのも困りますが、未成年はもっと困るのですよ。なにせ未成年を客に取るのは禁止されていますからね」

「『殿下』? 何のことかな? 私は幼く見えるかもしれないが、これでも15歳だよ」

「私を見くびっていただいては困りますよ、王太子殿下に側近のヴァッカーバート伯爵令息ルプレヒト様」


 ジークフリート達の変装は見破られていた。カトリンは、この最高級娼館でも最も高い値がつく娼婦であると同時に、知る人ぞ知る情報屋である。それどころか彼女自身がこの娼館の所有者であり、他の娼婦も情報屋として使っていることはほとんど知られていない。


「……分かった。お互い正直にいこうじゃないか」

「何をお知りになりたいのですか?」

「革命派の動向だ。ソヌス王国から革命派が我が国に浸透してきている。最近では我が国の貴族の中にも通じている者がいるようだ。君の顧客にもいるだろう?」

「秘密厳守ですので、他の方の話は致しません。私はどちらの味方でもなく、求められる情報を探って渡すだけです」

「では君の顧客かどうか関係なく、王宮に出入りする貴族で革命派に通じている者を洗い出してくれ」

「いいでしょう。報酬の条件は?」


 ジークフリートは、テーブルの上に金貨を数枚置いた。カトリンは明らかに馬鹿にされたように感じて眉間に皺を寄せた。


「これは前報酬だ。成功報酬は金貨20枚、革命派の名前1名分につき2枚ずつ増やそう」


 金貨1枚あれば中流市民が家族で1ヶ月暮らせる額だ。ジークフリートの提示した条件は悪くない。カトリンは話を聞く気になった。


「名前が分かったら動向調査も頼む。それはまたその時に詳しく話すが、報酬も別に出す」

「いいでしょう。それじゃ話はそれまでにして3人で遊んでいく? 本当は3人でのプレイも大丈夫なのよ。今日だけ特別に内緒で14歳も許してあげるわ。でも次回からは殿下が15歳になるまではアレックス君だけにしてね」

「け、結構です!」


 2人はそそくさとカトリンの部屋を立ち去った。


 ジークフリートが15歳になるまではカトリンとの連絡の橋渡しをルプレヒトが行ったが、成人してからはジークフリート自ら彼女に会いに行くようになった。お忍びで変装していても、いつしか娼館通いが噂になり、ジークフリートはカモフラージュで別の娼館にも行くようになった。

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