第334話 ベノン大沙漠
草原の都市、ガデニアにある帝国の施設、その門の前で一旦止まると少し間を置いてから開けてくれた。開ききると中へと車両を進める。
白い塀に囲まれたその施設は結構広い敷地を持っていた。倉庫のような、ガレージのような建物にバックで入っていき駐車する。
すると、ようやくついたと言う実感を得ると同時に疲労感が襲ってきた。
時刻はもう深夜十二時を回っている。二十時間近くぶっ通しで運転を続けてきた。その間、魔術を使い続けていたのだから当然と言えば当然か。
ジュジュが座席の上で伸びをすると同時にあくびをする。ずっと寝ていたが到着を察知して起きることにしたようだ。
リエラはそんなジュジュをわしゃっとひと撫でして車から降り、近づいてきたスタッフと話を始める。
俺はジュジュと連れだって車から降りた。するともう一人のスタッフが俺に話しかけてくる。
「お疲れ様です。レインさんですね。後は我々がやっておきますので休憩していてください 」
「ああ、助かる 」
物資の積み込みは任せて勧められるまま休憩に入る。案内で食道に通されるとそこには随分と豪勢な食事が用意されていた。ビュッフェ形式でいろいろな料理が机の上に並べられ、「どうぞっ、食べてください」ってこちらに訴えかけているかのようだ。
いいにおいがするな…
鼻腔をくすぐられ胃が騒いでくる。ジュジュも尻尾をピンと立てて嬉しそう。目がキラキラしている。
魔導具が使われていて、温かいものは温かいままに、冷たいものは冷たいままに提供されている状態だ。そこに帝国の威信を感じた。
俺達をもてなそうという意図も勿論あるだろうがそれだけではやり過ぎな気がする。
まあ、何はともあれ食べることにしよう…
運転中にゼリー飲料とかビスケットと言った携帯食料は食べていたが最低限にしか食べていなかった。簡素で味気ない感じだったしこれだけ手の込んだ食事は有難い。
とにかく皿に盛り付けて食べていく。胃の容量が一杯になったら魔力で分解吸収して再び料理を取りに行った。この体ならそれが出来る。地球では無理だった全制覇も容易い。
俺が遠慮なく食べている所為かジュジュもいつになく催促してくる。
じゃんじゃん食うと良い… いくらでもある
普段食べないような野菜をしれっと混ぜておいたらそれも勢いで食べていた。気がつかなかったのか、食べられるようになったのか?
まあ、何にせよ食の幅が広がるのはいい…
そんな感じで食い尽くすように食べていたらリエラがやって来てちょっと呆れたような顔で見られた。
だが、観察していたらリエラも似たような感じで食べていた。
五十歩百歩じゃねぇか…解せぬ
食べ終わったら部屋に案内されて、しばしの休眠を取った。
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目の前には一面の砂が広がっている。
見渡す限りの砂、砂、砂……
それだけでも絶景だが、雲一つない青空とのコントラストが美しい。無限に広がっていると言われても信じてしまうかも知れない。
翌朝、ガデニアを立って草原と沙漠の境界までやって来ていた。道なき草原を走ってきて草木もまばらな土地に入り、今、土の大地の上から砂の海を見つめている。
「何をしている? さっさと準備をするんじゃないのか? 」
景色に感動している俺にリエラの催促が飛んできた。リエラもベナン大沙漠を見るのは初めてだそうだが思うところはないのかねぇ?
死の大地という異名もある。進んで来たいと思う場所ではないのかも知れないが少しは感動を分かち合いたいものだ…
とは言えリエラの言うこともわかる。今は非常事態だ。急ぐ必要はそれなりにあると言って差し支えない。
「そうだな、始めるとしようか… 」
後続もいることだし…
トラックを降りると後ろにもう一台別の車両が止まっている。荷台をを備えた大きめの車両だ。
それに始めると声をかけて作業に移る。
まず、タイヤをとめているナットを全て外す。そして、車体をジャッキアップしてタイヤを外した。外したタイヤはスタッフが運んで後続車両の荷台に収納される。
次は剥き出しになった車軸へ特殊な器具を取り付けていく。それにより車軸の回転を分散させて歯車状の突起が付いた複数のドラムを回転させる仕組みを付加させる。
そこに履帯を取り付け車体を降ろす。これで砂の海に乗り出していく準備は整った。
幅の広い履帯が車体の横から飛び出していて非常に安定感がある。これが砂にかかる圧力を分散させて優しく推進力を生み出してくれるだろう。
「それでは我々はこれで… 」
「ああ、よろしく頼む 」
後続車両は外したタイヤを持ち帰って保管するために帰っていった。
俺達も行くとしようか…
はみ出している履帯の上に足を掛けて運転席に乗り込む。一応、コアの演算でシミュレーションはしたので自信はある。だが、実際に走らせるのは当然初めてだ。
果たしてちゃんと動くのか…
緊張をはらみながら魔力を込めていきタービンを回転させていく。車体はゆっくりと滑り出し、土の上を越えて砂地へと乗り出した。
とりあえずは大丈夫のようだな…
着実に砂の地面に力を伝えられている。砂地を崩すことなくキャタピラは回転していってる。
徐々に速度を上げていくと砂地が大きく崩れて空回りするような手応えが伝わってくる様になった。これ以上回転を上げても速くはならない。どうにもここいらが限界らしい。
回転を落としていき効率よく進める速度を割り出す。どうにも時速五十キロぐらいが限界になるようだ。
まあ、わかっていたことだ。焦ることはない…
目指す第二チェックポイントはエルシテ・ヴントと言うオアシスの町だ。直線距離で七百キロ程度の道のりになる。
時速五十キロを維持するなら十四時間で辿り着ける…そう言いたいところだが無理だ。
砂は平らではなく山になっていたり谷になっていたりと直進することは出来ない。速度も調整していかなければならないから順調に進んでいくことは最初から諦めている。
まあ、それ以外にも理由はあるんだけどな…
早速、目の前に大きめの砂丘が見えてきたのでハンドルを切って曲がる。山の部分が低いところに狙いを付けて進んでいった。
前輪部分が乗り上げると車体は大きく跳ね上がる。乗り越えると今度は逆に沈み込んで体が浮き上がるように力が加わる。
波打つ砂は激しさを増していきしっかりコースを選ばなければ横転してしまいそうになった。ハンドルさばきと速度のコントロールが重要だ。
なかなかに大変ではある…しかし……面白い…
今までのただ滑らかで真っ直ぐな道と比べたら退屈などしていられない。マシンと一体になって荒波を乗り越える楽しさがそこにはあった。
いざとなったら魔術で何とか出来る保険があってこそだが冒険をしている実感が俺を高揚させる。
そんな俺に対して危惧を覚えたのか、リエラがチクリと釘を刺してきた。
「おい… わかっていると思うが整地術は使うなよ 」
「ああ、もちろんわかっている。好き好んで危険を呼び寄せたくはない 」
このベノン大沙漠では整地術を使ってはならない。それは砂虫を呼び寄せてしまうからだ。
砂に魔力を浸透させた時に何かしら魔力波が生じてしまうらしい。それに引き寄せられて深い場所から砂上に上がってくると言う。
その為、ここでは砂に足を取られようとも整地術を使ったりしない。過酷な環境を考えればなるべく速く移動したいところだが非常に移動しにくい場所だ。
同様の理由で砂を使った魔術も使用してはならない。ベノン大沙漠に生きるもの達は砂人も含めて砂術を使えるものではあるがあまり使うことがないそうだ。
いざという時に使ってくるだけでここでの戦いは肉弾戦が基本になる。砂人達も安全な場所で砂術を使うだけだ。
まあ、必ずしも砂虫に出くわすということでもないようだが…
むしろ、来ない確率の方がずっと高いだろう。砂の下がびっちりと砂虫で埋め尽くされているなんてことはない。生息密度はだいぶ低いのだ。
こんなトラックを走らせても大丈夫なことからもそれがわかる。砂虫だけでなく他の魔物も密度は低い。あまり会うことはないだろう。
「それにしても暑いわね… 」
リエラはぼやくようにぼそっと呟いた。俺とジュジュには少し暑いぐらいで済んでいるが彼女にはちょっとキツいようだ。服の端をつまんでパタパタと空気を入れ換えている。汗ばんで来ているのだろう。
日光がキツいというのもある。砂が光を反射して車体に当たっているのもあるだろう。しかし、暑さの要因の大部分を占めるのは魔力だと言う。
表層の砂に含まれる魔力は深い場所から上がってくる。熱せられたその砂から魔力と熱が空気に伝えられ、空気は魔力を伴って熱を発散させる。魔力防御を貫くように熱が伝わってくるからとても暑くなる。それが一応の解釈だ。
トレーラーが進むにつれて車内はどんどん暑くなっていく。このままでは俺やジュジュですら不快に感じるほどの暑さになるだろう。
魔力を上げれば凌げるのだがそれでも気温が高いのは感覚として理解してしまうのでなんとなくの不快感を消し去ることは出来ないようだ。根本的に気温を下げるのが一番いい。
エアコンを付けるべきだったか…
今さらどうしようもないことを後悔しつつ、俺は低温熱変換を使って車内温度を下げていく。これも魔力を消費してしまうがこの際だからしかたがない。
トラックを動かすための魔力は速度を抑えているからその分の余裕がある。大きな負担にはならないだろう。
だが、リエラにはそれがわかるはずもない。危惧するところを伝えてきた。
「こんなことをして魔力は大丈夫なのか? 温存して置いた方がいいんじゃないのか? 」
「節約はしている。枯渇するほどじゃないさ 」
「わたしに気を使っているんじゃないだろうな? 耐えられるように訓練は積んでいる。それにいざとなったら自分で魔術を使うから大丈夫だ 」
気を使っていないわけでもないが一番の理由は俺が快適に運転したいということだ。ただ、それを正直に伝えて良いものか…?
お前は二の次だ、たいして気に掛けてないと言ったら怒りそうな気がする。そして、快適に運転したいだけだとわかったら呆れられそうな気がする。
困ったね…
「沙漠で精神を消耗させるのは危険だ。正常な判断が常に求められる場所だからな。多少の魔力を気にするより快適さを取る方がいいと判断しただけだ 」
それらしい理由を言ってみる。これで納得しちゃくれまいか…
「そうか… 確かにな… 」
ある程度通じたようだ。駄目押しを掛けよう。
「魔力の消耗を考えて休憩を取ることも検討している。今のところ順調ではあるし先発隊との合流予定まではだいぶ余裕がある。強行軍を貫く方が危険だろう 」
「なるほど… まあ、運転しているのはお前だ。任せる 」
納得はしてくれたようだ。良かった…




