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機鋼神エイジャックス ー石に転生して異世界に行った俺、わからないことだらけだが何とかやっていくー  作者: 井上 斐呂


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第21話 終劇 x 来訪者

壁を越えられると思った瞬間、下で魔力が膨らむのを感じた。


ネズミの本能が危機を伝えてくる。まずいと思ったが空中ではどうしようもない。


尻尾をつかまれて引っ張られると空中でバランスを崩し地面にたたきつけられた。急いで起き上がり相手と正対する。


何が起こったのか確認してみる。目の前の地面がえぐれて土が飛び散っている。土魔法か。地面を爆発させてその勢いで飛び上がったようだ。


不意を突かれてこちらの一手を返されたが振り出しに戻ったともいえる。冷静になろう。


たたきつけられる瞬間、魔力を込めて強化していたのでダメージはあまりない。しかし相手との距離は1メートルもない。今はイタチの方が壁側だが追いかける方には関係がないな。膠着こうちゃく状態になったがこちらが不利か。


やはり魔法を使っていくしかないが相手は土魔法の使い手だ。こちらの土魔法は読まれるかもしれない。火魔法はネズミの姿ではコントロールに不安がある。相手も自分も予想外のダメージを負うかもしれない。町中で使用しては人を呼び寄せるかもしれない。それでは駄目だ。やはり水魔法か。次点で雷魔法。なるべく傷つけたくはないので水魔法で行くしかない。


水を前足から伸ばして正面に薄い水の幕を張っていく。イタチもそれに呼応して魔力を練り上げる。俺とイタチをへだてるようにして水の幕が完成すると向こうも魔法を放つ準備ができたようだ。


お互いの間に緊張が高まっていく。相手はこちらを警戒して魔力を高めたままこちらの出方をうかがっている。


膠着状態が続き緊張が最高潮に達する瞬間を狙って俺は動き出す。


水の幕をレンズ状に成型する。イタチからは狙い通り俺が大きくなったように見えたようで魔力に乱れが生じる。


ダメ押しとばかりに接近して噛みつくまねをして威嚇すると拡大された嚙みつきを避けようとして後ろに体を捻りながら飛び上がる。


今だ!


相手が着地をする前にすぐさま後方に向けてダッシュ。自分が砂を撒いた交差点まで来ると砂を亜空間にしまいながら駆け抜ける。


よし。ついてきてはいないようだ。今日はこのまま町の外に出よう。


少し回り道になるがジグザグに進んで追跡が困難になるようにルートを選んでいく。


朝の鐘が鳴るまではまだ猶予ゆうよがあると思うが、時間的にはもうそろそろ人通りが出てくる頃だろう。


城壁の近くまで戻ってきた。ほっとしたのもつかの間、ネズミの本能に緊張が走る。


かなり近くにヤツの気配を感じる。


においを嗅ぎすぎて鼻が利かなくなっているようだ。気づいたのはだいぶ接近した後だった。もう相手に捕捉されている距離だろう。先回りして待ち伏せされていたらしい。


そこにこちらがのこのこやってきてしまった。こちらがどんなルートで街に入ってきてるかある程度つかんでいるのだろう。完全に行動パターンを読まれている。毎回、侵入ルートを変更すべきだったか。


至れり尽くせりの歓迎だね。心底痛み入るよ。こっちはもう帰るとこだけどな


もうここで最後にしよう。俺はあえて気配の方向に進んでいく。向こうもこちらに進んでくる。やがて少し広めの道の真ん中で正対するような形になった。


逃げることは考えずに倒して通る。ただし殺しはしない。


相手は真っ直ぐに向かってきたこちらを警戒しているようだ。疑問、警戒、興味、恐れ。いろいろ感じるものがあるだろう。それでいい。


ゆったりとした足取りで近づいていく。やがて1メートルほどの距離でにらみ合う形となった。このかたちになるのは本日三回目か。これで打ち止めだが。


ここに来るまでにどうするかは決めてある。


俺は後ろ足で立ち上がって両手で持ち上げるように水球を作り出す。上に飛び上がり落下の勢いで水球を潰すように上に乗る。反発力で上に押し上げられる。


足が離れる直前に水を魔力で爆発させ推進力を得る。ぐんぐんと上昇していく。


イタチもそれに追従する。全身のバネを使い伸び上がりその瞬間に土魔法を使い地面を爆発させて急上昇してくる。


それを狙っていた。イタチはどうやら上下の運動によく反応するようだ。上に跳べば追ってくると思っていた。上にいる俺を下から追う展開。俺の方が上にいる。


上から迎え撃つ有利な状況。ここで雷魔法を使う。


尻尾を使い空中で姿勢を制御して迎撃の態勢を整える。その間に手のひらに電子を集められるだけ集める。全身の毛が逆立ち皮膚がピリピリするが無視する。


相手を見ると静電気でイタチのヒゲはビリビリきているようだ。顔をしかめている。俺も全身ビリビリきている。


準備が整い、そこで背中側から水を噴射して急に落下運動に転じる。


相手は俺が重力にとらわれて空中に制止する瞬間を狙っていたのだろう。タイミングをずらして虚をつく。イタチはかすかに目を見開く。


手のひらを上昇してくる鼻っ面にたたきつけた。


雷掌らいしょう


バチッと静電気がはじける音があたりに響く。明るいうちでも火花が見えた。イタチは地面に落下して仰向けに伸びている。気絶したらしい。


一応、死んでいないか確認。胸がかすかに上下している。呼吸をしているようだ。よかった、死んでない。今の騒ぎで人が来ないうちにずらかるとしよう。


イタチに追いかけられて巣穴まで戻ってきた。特に収穫はなかった上、ネズミの肉体のまま魔法を使用したせいで結構ダメージが蓄積されている。


ネズミの魔石では出力が足りない。コアの魔力を使ったがネズミの耐久力を考慮して威力を抑えていても負担は抑えきれなかったようだ。


特に最後に放った雷掌は全身に結構な負荷を与えることになった。人体の構築も魔法を使用するとリソースを取られてその分遅くなるようだ。


今日はこのまま寝てネズミを回復させることにしよう。俺は明日の夜明けまでこのまま眠ることにした。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


、、、、、、んんっ?


なにか嫌な予感がする。妙な胸騒ぎを感じて起きる。耳を澄ませると物音を感じる。どうやら入り口を塞いでいる土の蓋を何者かが掘り返しているようだ。


周囲と区別がつかないようにしっかりと擬装しておいたのだが感づかれたらしい。時刻は真夜中と言ったところか。完全に日は沈み目ではわからないはず。


においを追ってきたのか?


襲撃者はイタチで間違いないと思う。町で嗅いだにおいは2匹分あった。朝に遭遇したヤツとは別の個体か。仲間のリベンジにでも来たのだろうか。


掘っている最中に、直接俺の気配やにおいを感じたのだろうか。土を掘る勢いが増してきた。みつけたーっ!って感じにテンションが上がっているのかもしれない。


やがて穴が開通し侵入してくる。


だが残念。俺はすでに見える範囲にはいない。ネズミの体を亜空間にしまい、コアのみの姿になり土の中に潜っている。


イタチが俺の寝床を嗅ぎ回っているのが土を通して振動で伝わる。サスペンスやホラーで主人公がベッドの下に隠れているような、そんなスリルを感じる。


さっさと出て行って欲しいところだ。


イタチはしばらく新鮮な俺のにおいを嗅ぎ回り巣穴の中をうろついている。直前までネズミの姿でいたためにおいが相当濃く残っているのだろう。


イタチはなぜ巣穴の主がいないのか不思議がっていることだろう。


しかし、床を掘られたらコアが見つかってしまうかもしれない。早く出ていってくれ。あらためてそう思っていると不意に水音が聞こえてきた。


―ショロロロr、、


んっ? 、、、なんだ? 何の音だ?


コアの機能を使って分析する。


おしっこかっ!


見つからなかった腹いせに小便をしていきやがったようだ。みてこないよな?


さっさと帰ってくれよ。心の中で悪態をつく。やがて足音は去って行った。しばらくじっとして様子を見る。


もう大丈夫だよな?


もう戻ってくることはないと思うが穴の周辺を探っているかもしれない。


はやく別の場所にいきたい。なるべく深く潜ってから横に掘り進む。ある程度行ったところで止まる。


今日はここで朝までやり過ごそう。換気穴をつけていないのでネズミには憑依ひょういせずにコアのままでいる。


しっかしせっかく作った巣穴を奪われてしまった。イタチにおしっこをされたのではもう使う気にはなれない。


また巣穴を一から作るとしよう。若干の敗北感とともに決意を新たにする。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

(別視点)


狩猟ギルドの中では数人の狩人が仲間内で雑談を交わしていた。


それなりに広い室内にカウンターの受付がひとりと数人の狩人なので閑散とした雰囲気である。


狩人は狩り場に食料を持ち込み何日も狩り場に張り付くことが多い。ギルドにいるのは狩りから戻ってきて魔石や皮などを卸す者やギルドで情報を集める者ぐらいしかいない。


そんな中、四人がけのテーブルで雑談に興じていたグループが突然会話をやめギルドの出入り口に注目する。表情にはあまり変化が見られない。


しかし、どことなく緊張した面持ちである。カウンターにいる受付嬢も事務作業の手を止め出入り口に視線を合わせる。


ほどなくして扉が開き一人の人物が入ってきた。青白く透き通るような長い髪をしている。瞳の色は深い青。整った顔立ちは少し切れ長の目をしていて中性的な印象である。背が高くどこか作り物めいていてぱっと見ただけでは性別がわからない。


しかし、体のラインは確かな曲線を描き女性であるとわかる。手に外套がいとうをたたんでかけている。足に履いたブーツにはうっすらと土汚れが見て取れる。女性はつい最近この町にやってきたようだ。


カウンターまで歩いて行き受付の前で止まる。歩く姿はどこかしら気品を感じさせる。受付に話しかける。凜とした透き通るような声だった。


「私の名はエルセリア・ソル・ランセスだ。ここより北の辺境に出現した特殊な魔物について聞かせてもらえないだろうか? 」

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