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第84話 女神の使徒

「あら、お客様がいらしてるの?」


そのすごく優しそうな老齢の女性は穏やかに微笑みながら部屋の中を眺めて、


「あらあら、まぁまぁ。 リズじゃない、久しぶりね。それにメロディにカーリーにベルまで。一体今日はどうしたのかしら?」


「「「院長先生、お久しぶりです。」」」

「うん、お久。」


カーリーさん誰に対してもあの口調のまんまなんだ。

らしいっちゃらしいけど、せめてお世話になった人にはもう少し何とかした方がいいんじゃないかなって思わないでもないね。

まぁそうゆうのも含めてのカーリーさんなんだろうけど。

現に院長先生と呼ばれた女性もいっこうに気にする様子も見られないしね。

まずは皆を代表してベルさんが口を開く。


「実は、今度アルマが結婚する事になったので、ちょっとお願い事がありまして……。」


「まぁ、それはお目出度い。あのアルマが結婚ねぇ。」


院長先生は目を細めて我が事のようにそれは嬉しそうに微笑んでいる。

ああ、やっぱり最初のイメージ通りこの人はとても優しい人なんだ。

人間最初のパッと見の第一印象って正しいんだなぁって実感。

例えばリズさんたちが正にそう。

彼女たちには最初からいい印象しかない。

まだ付き合いとしては短いけど、短いながらに接すれば接するほどリズさんたちがいい人だってのが分かる。

見ず知らずの私の為に色々と世話をやいてくれるんだもの悪い人の筈が無いよね。

私は人の縁に恵まれてるな。

そんな事を考えていたらサラさんが


「院長先生、こちらの方から献金を頂きました。」


私の方を指しながら言う。


「まぁ! 有難う御座います。 大事に使わ……せ……」


私の方へ振り向いてお礼を言おうとした院長先生が急にピタリと喋るのを止め動きも止めた。

そして目を見開いて私の事をジッと凝視している。

ん? どうしたのかしら?


「…………様?」


はいっ?


「女神の使徒様。」


誰、それ?


えっ、えっ、ええぇぇぇぇ。


「あ、あのちょっと、困ります。」


院長先生が私の前まで来て両膝で跪き、両手のひらを胸の前で指を組むように重ねて頭を垂れる。

これにはサラさんもパメラさんも、いやいや全員がビックリ。

勿論私も!

なんでこうなってるの?

『女神の使徒』って誰?

わたし?

いやいやいや、私はどこにでも居るごくごく普通の女の子だから。


「皆さん、使徒様の御前ですよ。」


真っ先に動いたのはサラさんとパメラさんだ。

院長先生と同じように跪き指を組む。

そして、


「先程は大変なご無礼を致しました事、伏してお詫び申し上げます。」


そう言って頭を地面に擦りつけんばかりに頭を下げる。

そう、所謂土下座のような恰好だ。

これは流石にダメだ。

自分的に居たたまれない気持ちになる。

目上の人にこんな事をさせちゃダメだ。

だから


「さっきの事は気にしていませんのでどうか頭を上げて下さい。」


「ですが……」


なおも言い募るサラさんとパメラさんを強引に説き伏せ頭を上げて貰った。

はぁぁ、これだけでドッと疲れた。

けれどまだまだ……。

リズさんたちは何が起こったか分からないようで固まったまんまだったのがせめてもの救いだったけど、院長先生はじめサラさんとパメラさんは今も跪いたままだ。

まずはこれをどうにかしないと。


「あの、皆さん。 頭を上げて下さい、お願いします。 それから普通に座りましょ? ね?」


「ですが、使徒様の御前で……」


やっぱりそう来たか。

でもそれだと私の心臓が持たないんだってば。

院長先生たちはとても信心深いようで中々納得してくれなかった。

けどそれだとこっちも困るからちょっと強引だったけど普通に頭を上げて貰ってお互いに顔を見て話が出来る状態になって貰った。

これでやっと話が出来るよ。


まずは自己紹介から。


「私はオルカと言います。今この街で冒険者をしていまして、リズさんたちと仲良くさせて頂いてます。」


「わたくしはペネロペ、この教会と孤児院の総責任者をしています。この教会にはわたくしを含め3人の牧師が居りまして、わたくしとこちらのサラとパメラがそうです。」


院長先生、サラさんとパメラさんが軽く会釈する。

自己紹介も終わったところでさっきから気になるパワーワードについて。

「女神の使徒」って何?ってとこから。

そして、どうして私がってこと?


「あ あの……使徒ってどう言う……?」


「え? 使徒様…ですよね? わたくしには女神アリア様の祝福が見えるのですが……何かお心当たりは……」


女神アリア様の祝福?

ん? そう言えばなーんかどっかで聞いた事あるような無いような。

どこだっけ?


あれっ?



…あっ。


「そう言えば……」


あったあったそんな事。

神域からこの世界に転移する時に女神様がそんな事言ってたような気がする。


「やはり。」


院長先生がうんうんと頷いている。


「オルカさんすごい!」

「オルちゃん、やっぱ女神!」


リズさんたちもすごいって言うけどそんなに?

あれだよ?

あのポンコ……コホン、ちょっと抜けてる女神様だよ?

男性だった私を女性に転性させた張本人だよ?


「どのようにして祝福を授けられたのか伺っても?」


興味津々の院長先生が聞いて来る。

別に聞かれて困る事はないので、転生の部分はボカしてざっくりと語って聞かせた。

神域と呼ぶのが適当だと思われる辺り一面真っ白な世界に魂のまま呼ばれ


「幸多からんことを願いここに女神の祝福を授けます。」


と女神アリア様に言われた事をそのまま言う。


「神域ですか!」

「素晴らしいっ!」

「アリア様から直接祝福を賜るとは……」

「しかもご神託まで!」


なんか院長先生もサラさんもパメラさんもえらい感動してるけどそんなにすごい事?

何かいまいちピンと来ないんだけどなー。

なんせあの女神様だからねぇ。


「嗚呼、使徒様の周りにキラキラと輝く光の粒が見えます。」


うっとりと言う表現がしっくりくるような恍惚とした表情で私の方を見る院長先生。

お話を伺う限り「祝福」が視えるのは院長先生のユニークスキルらしい。

「祝福」持ちは極々たまに居るらしいけど、「祝福」を目で視る事の出来る人はほぼ居ない。

教会関係者でもごく少数の人が「祝福」を持つくらいで、市井では過去にもほとんど例がないくらいだとか。

余程の信仰心がなければ「祝福」を授かる事はなく、厚い信仰心と女神様のほんのちょっとした気まぐれがあれば「祝福」を授かる事もあると。

院長先生によると「祝福」持ちの人はどの神様の「祝福」持ちか見れば分かるので、この教会がアリア様を祀ってある事もあって私がアリア様の「祝福」持ちというのが分かって感動もひとしおなのだとか。


「まさか女神の使徒様がこの教会に……」


あ あの、感動中のとこ申し訳ないんだけど、


「あのー、出来たら使徒様って言うのはヤメて貰えると嬉しいんですけど……」


何て言うか人前で「使徒様」なんて言われた日にゃ堪ったもんじゃないよ。

院長先生にそんな事言われたらさ、「オマエどんだけ偉いんだよ!」ってなるじゃない。

周りの人から白い目で見られそうで怖いんですけど。


「では、オルカ様で……」


「それも無しでっ!」


0.1秒で即返。

いやいや、「オルカ様」もダメでしょ。

だから教会のお偉いさんから「様」付けなんてダメなんだってば。

ここでも無駄に攻防を繰り広げたよ。

使徒って言うのは現世において「神の御使い」であり人よりも位が高いのだとか。

つまり人以上神様未満、「私の言葉」は「神の言葉」に等しいのであると。


……うそでしょ。



いやいや、それはアカンやつでしょ。

私の言葉が神様の言葉って……私には荷が重すぎる!

これは何としても拒否しないと。

確かに今の私の身体はアリア様の身体の一部と私の元の身体の一部が合わさって出来ていて、デミゴッド化してはいるけれども、私は私、いたいけな少女、ただのオルカ。

(前世持ちだけど)人よりちょっとだけ魔力が多くて従魔を連れているけれども、どこにでも居る普通の冒険者だ。

私自身は偉くも何ともない。

優秀な従魔が居てくれるから、今はたまたまお金には困ってないってだけで、それまでは森で独りで隠れて暮らすただの孤児だったんだから。

私も必死だよ。

せめてせめて「さん」付けくらいで何とかならないものか。

兎に角言葉を尽くしてどうにかこうにか理解して貰った。

すっごい疲れたけどこれでちょっとだけ安心。


「あの~、院長先生?」


ちょうど話がひと段落ついた所でドロシーさんが声をかける。


「オルカさんからの献金ですがどういたしますか? いつも通りに処理しますか?」


「いつも通りと言うとこの孤児院の運営費に充てると?」


「はい。いつも通りならそうなりますが……。」


「ダメです。使徒様からの賜り物の金貨を使うなどとんでもない。宝物箱に入れて礼拝堂に設置する事にしましょう。使徒様が御自ら手渡された霊験あらたかな金貨ですから信者さんもさぞや喜ぶ事でしょう。」


はいっ?

あの、院長先生なに言ってるんですか?


「「まぁ! それは名案でございます。」」


ぱん!と手を叩いて喜色もあらわに笑顔になるサラさんとパメラさん。


えええぇぇぇぇ。


それのどこが名案なのよ。

ないないない。 そんなん絶対ないから!

あの、ホントやめて下さい。

ね、一応聞きますけど、まさか私が その 「女神の使徒」だとか言ったりしませんよね?


「私がそうだとは絶対に言わないで下さい ね?」


念の為にそう聞くと院長先生たちはスッと私から目を逸らした。

言うつもりだったのか。

いや、ホントお願いします。 絶対に他の人には言わないで下さいよ。


「そうだわ!」


今度はパメラさんが「私いい事を思いつきました♪」みたいな顔して手をポンと叩いて立ち上がる。

なんかとぉぉぉぉってもイヤ予感がする。

って言うかイヤな予感しかしない。


「あら、パメラさん仰って。」


院長先生聞くんですか? マジで?

そこはスルーしましょうよ。


するとパメラさんがシタリ顔で今私が座っている椅子を指差して、


「使徒様がお座りになられたこの椅子も宝物箱と一緒に礼拝堂に設置いたしましょう。」


「それ、採用!」


サラさんが人差し指をピンと伸ばしてビシッとパメラさんを指差す。

そして二人でガッチリと握手をして笑っている。


オー ノー。


「そして、この椅子に座ってお祈りをすると願いが叶うとか何と言って……ふふ。」


口の端だけをちょっと上げてアルカイックに笑うパメラさん。

ちょっとパメラさん、悪代官さながらの非常に悪いお顔になってますけど?


「これでこの孤児院の窮状も少しは改善するかも?」


「ドロシーさんまでっ?!」


ちょっとみんなどうしたの?

ここって危ない宗教か何かだったの?

え、私に教組をしろって?

それもう絶対にダメなやつやん。


「院長先生、使徒様印の『免罪符』とかって売り出したらきっと売れませんか?」


「ドロシー、それも採用! いいわねー、夢が膨らむわぁ。」


サラさんもうノリノリやね。

なんかめっちゃ盛り上がってるとこ悪いんだけどさ、私片棒を担ぐ気はありませんからね。




ドロシーさんが何やら木の板を取り出して小声で独り言を言いながら書き込みをしているんだけど何してんの?





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