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第83話 険悪

ひと悶着?

ううん、ふたつみっつあったけどどうにかこうにか執務室の前まで辿り着いた。

長かった……。


コンコンコン。

ドロシーさんがドアをノックして


「ドロシーです、入ります。」


そう言って執務室に入ってゆく。

ここではドロシーさんの他、孤児院の責任者と教会の責任者が居て、それらを統べる長として院長先生が居るのだと言う。

院長先生が全ての総責任者で、管理責任者として孤児院と教会とにそれぞれ1人づつ充てている。

中に入ると年配の元お姉さんが二人、お茶を飲みながら雑談をしていた。


「ドロシーおはよう。」


「おはようございます、サラさん・パメラさん。」


ドロシーさんが挨拶をした二人がその管理責任者の、サラさん(孤児院)とパメラさん(教会)。

じゃあドロシーさんは何の仕事をしているんだろう?


「サラさん、パメラさんお久しぶりです。」


ベルさんが皆を代表して第一声を発する。

こうゆう場合は比較的しっかりしてると思われるベルさんが適任だ。

誰に言われる訳でもなく自ら進んで場を取り持ってくれる。


「はい、お久しぶりね。 どう?元気にしてた? 病気とかしてない? ちゃんと食べてる? 無茶・無理はしちゃダメよ? くれぐれも怪我とかには気を付けるのですよ。 それから周りの人の話をちゃんと聞いて迷惑掛けないようにね。 それから……」


「あーあー、分かってますってサラさん。 私たちももう大人だよ? 大丈夫ですって!」


リズさんが困ったような嬉しいような顔で雑に答える。

それを見て幼子を見るかのような優しい眼差しで見つめるサラさんとパメラさん。

それを見て私は「おかーさんの目だ」と思った。

そう言えばドロシーさんが「ここの孤児院に居る子はみんな院長先生の子供」だって言ってたけど、サラさんもパメラさんも院長先生と同じように思っているんだろうなって。


「リズ・メロディ。貴女たちは何でも二人だけで解決しようとしない事。 貴女たちには頼れる仲間や友達や、私たち大人が居るんだから、何かあったら遠慮なく頼りなさい。 これまで沢山辛い思いをして来たんだからこれからは好きなように自由に生きていけばいいのよ?」


「カーリー・ベル。貴女たちは自分たちだけで世界を作ろうとしない事。一所懸命なのは良い事だけど、でも、周りの人の意見もちゃんと聞くようにね。独りよがりはダメよ。」


「もー、お小言ばっかりなんだからー。」


メロディちゃんが頬をぷくっと膨らませながら言ってるけれど顔はどこか嬉しそうに笑ってるのよね。

リズさんもベルさんも、カーリーさんでさえちょっと恥ずかしそうに照れながらも首を縦に振って頷いている。


「「「「私にはオルカさんがいるから大丈夫!」」」」


「ええっ?! 私っ?」


4人が口を揃えて言う。

何でそうなるの?

私何もしてないよ?

って言うか私の方がいつも良くして貰ってるのに?

サラさんもパメラさんも皆の事が心配で言ってくれてるのにそこで何で「私が居るから大丈夫」ってなるの?


「あら、そちらの黒髪のお嬢さんが?」


サラさんが私の方をチラッと見る。

少し探るように、窺うように。

何処の誰とも分からない女が居るんだから、そりゃまぁ普通に考えて「オヤッ?」ってなるよね。

誰だって自分たちの可愛い子供たちが騙されてるんじゃないかと心配になるに決まってる。

後ろでパメラさんが私を上から下までゆっくりと検分する。

少し思案気な様子。

保護者としては当然の対応だね。

同じ立場になったら私だって同じ対応をする、間違いないね。

だから見られてるのに関しては特に不快には思わない。

私は悪い人じゃないよ、普通の女の子なんだよってどうやって分かって貰うかの方が大事。

さて、どうしたものか。

そう思っていたら


「ちょっと二人ともオルカさんの事ジロジロ見過ぎっ! オルカさんは悪い人じゃないよ。」

「そうですよ、私とリズが魔物に襲われてるのを助けてくれたんだから。」


おお、ナイスフォロー。

流石リズさん、メロディちゃん。

私とリズさんたちが初めて出会ったウーズの街近くの森での出来事。

私は従魔と一緒に森で隠れるように一人で生活していた事。

その時魔物に襲われてるリズさんたちをたまたま見かけて助けてあげた。

私の従魔がすごく強かった事とか、一緒にごはんを食べた事とか。

リズさんたちが身振り手振りで一生懸命に説明してくれた。

私の為に……そう思ったらすごく嬉しくなった。

やっぱりリズさんたちはイイ子だ。

うん、もう友達って言っていいよね。

気の置けない大切な友人、そんな感じ。

私が1人感激して感慨にふけってたらカーリーさんも加勢してくれた。


「アルマの彼氏も助けられた。」


「男性を絡めての篭絡……ですか。 ふむ。」


ちょっ、篭絡って。

なんか悪意を感じる言い方。

私嫌われてる?

なんで? 初対面だよ?

それだと私とんでもない悪女って事になっちゃうじゃない?

流石にそれはイヤだなぁ。

うーん、二人の視線がさっきより厳しくなってきた。

カーリーさんの加勢が裏目に出てる?


「カーリー、端折りすぎ! 説明はもっと丁寧にって言ってるでしょ!」


「だって、本当。」


「それはそうだけど、それは分かってる人にしか通じないよ? サラさんとパメラさんにも事の経緯が分かるように最初からきちんと説明しないと!」


「だったらベル頼む。」


あ、丸投げした。

確かにカーリーさんらしいっちゃらしけど。

丸投げされたベルさんも呆れ顔で首を横に振ってるけど、気を取り直したようにサラさんとパメラさんの方に向き直って話始めた。

最近世間を騒がしてる蟲騒動と一連の調査等々。

蟲が発見された事。

その蟲を見つけて退治したのが他ならぬ私だと言う事。

アイザックさんが調査の途中蟲に襲われて怪我した事。

そこで一旦ベルさんが私の方を見て「魔法の事を話してもいいか?」と目で合図を送って来たので私は無言で頷く。

まぁ仕方ないでしょ。

それに冒険者の間ではもう普通に知られてるみたいだしね。

願わくばこれ以上広まって欲しくはないんだけど、そうも言ってられない。

まずはこの状況を何とかしないと。

私のせいでリズさんたちやカーリーさんたちが悪く言われるのは避けたいからね。

そして私の魔法でアイザックさんの怪我を治した話や、ギルマスの宣言の元箝口令、まぁ冒険者の間では有名無実化してるけれども、敷かれた事。

それと今日ここに来た本来の目的、「アルマさんとアイザックさんの結婚のお披露目でこの教会の中庭を使わせて欲しい」と言う事の許可を貰いに来た事等々。

ベルさんが上手に説明してくれた。

けれど


「成る程、かなり頭の切れる方なのですね。」

「策略家とも言いますね。」


「えっ?」


あれ?

なんかすっごい意味深。

私の評価がダダ下がりしてない?

これって相当に怪しまれてる?

なんで?

全て私の悪巧みって思われてる?


「うん、オルちゃん賢い。」


いや、カーリーさんそれフォローになってないから。

そうですか、ここに来て仲間からの追撃ですか。

やられた。

って、そんな場合じゃない。


「先程から何も喋らないようですけどれど何かお考えでも?」


パメラさんが私に問う。

うーん、何て言ったらいいものか。

下手な事言えない状況だと緊張するね。

ちょっと考え込んでいると


「パメラさん、その言い方なんか引っ掛かるんですけど? もしかしてオルカさんの事疑ってる? 私たちがこんなに信用してるのにそれでも信用できませんか?」


リズさんがちょっと語気を強めて言った。


「信用してるとか信用してないとかそんな話ではないの。 ただ、貴女たちの事が心配なだけ。」


「それって疑ってるのと同じなんじゃないですか?」


「疑ってる訳ではないですよ、あちらの方が何も仰らないので判断出来かねているだけです。」


「オルカさんすっごくいい人だよ。」


「そうなのでしょうね。」


露程も思っていなさそうな素っ気無い口調でパメラさんが言う。


「何でそんな事言うんですか?」


メロディちゃんが泣きそうな顔でサラさんとパメラさんに聞く。


「貴女たちって簡単に人を信じるような子じゃないでしょ? それなのにこんなにあっさりと信用してる。貴女たちの事を知ってる人間からしたらそれはとっても不思議なのよ。 あちらのお嬢さんとはどれ程の付き合いなの? もう長いの? 信用してると言い切れる程に?」


「オルカさんと出合ったのは13日くらい前のウーズの街の近くの森の中……あの時に私たちはオルカさんに助けられて、その時に分かったの。 この人は私の……」


リズさんが最後まで言い終わらない内にパメラさんが言葉を重ねてくる。


「騙されてるのではなくて?」


「なっ! 騙されてませんっ! オルカさんはそんな人じゃない。」


「騙されてる人はみなそう言うのよ。」


「いい加減にして下さいっ!」


「ああ、ええっと。リズさんちょっと……。」

「ね、1回ちょっと落ち着こう。 お二人だってリズさんたちの事が心配なんだよ。」


二人のやりとりを聞いてオロオロしてしまう私。


「これが落ち着いてなんか居られますか! 大体なんでオルカさんそんなに落ち着いてんの? 悪く言われてんのオルカさん自身なんだよ? 怒っていいとこなんだよ? オルカさんは私の大切な友達なの、そのオルカさんが悪く言われるのなんて耐えられないっ!」


私のせいで喧嘩してる、それはダメ。

私の事を庇ってくれるのは嬉しいけど、それでリズさんたちとパメラさんたちが仲違いするのは私の本意じゃない。

そんな事望んでない。

イヤな緊張感が漂う中、くーちゃんが念話で話しかけてきた。


(主様、差し出口ではございますが宜しいですか?)


(うん、いいよ。 どしたの?)


(はい、我々は歓迎されておりません。)


(だね、見てるとよーく分かる。招かれざる客ってやつだ。)


(ああもハッキリと敵愾心を見せられるとなると……主様が何を仰ってもあの二人は納得はしないでしょう。ならばもうここに居る必要も理由もなし。さっさと退散致しましょう。)


(そっか、やっぱそうだよね。何か負けを認めるようでちょっと癪だけど仕方ない、リズさんたちに迷惑は掛けられないもんね。)


私はリズさんの方に顔へ向けて


「なんか私のせいで微妙な雰囲気になっちゃってゴメンね。 私もうお暇するね。」


そう言って、その後サラさんとパメラさんの方へ向き直りつつ財布から小金貨1枚を取り出す。


「寄付になります、どうぞお納め下さい。これで子供たちにお腹一杯ごはんを食べさせてあげて下さい。」


それをそっと二人の前に差し出す。

リズさんたちの話だと孤児院の経営はそんなに楽でもないみたいだし、大人は我慢出来ても子供たちには空腹は辛いだろう。

このお金があればどのくらい持つかは分かんないけど少しは足しになるもんね。

子供たちの為にも受け取ってくれるといいのだけど……。


「憐憫……ですか? 貧しくてお腹を空かしてる孤児を憐れんで施しをする。 さぞや気持ちいい事でしょうね?」


えっ、そうゆう反応?

流石にそれはないんじゃない?

いい歳した大人が最初から喧嘩腰、それじゃあダメでしょ。

それとも態と私を怒らせようとしてる?

参ったなぁ、そんなに私の事が気に入らないのかなぁ。

別に私が嫌われようとそれは構わないんだけどさぁ……。

私の事が気に入らないのとお腹を空かせた子供たちは別問題でしょうに。

きちんと切り分けないと。

なんかちょっと残念な気持ちになって来ちゃうよ。


「実を言いますと、私も孤児なんですよ。」


そう言うとサラさんとパメラさんがピクッと反応した。

劇的な反応ではないけれど、一瞬だけ「えっ?」て感じの顔をしたように見えた。


「さっきはリズさんたちが気を遣ってくれて私が孤児って言うのは言わなかったけれどね。 森の中で独りで暮してるとそりゃあやっぱり寂しいんですよ。水の確保から食べる物や衣類の調達、魔物の脅威もあるし、何もかも自分1人でしないといけない。ホントに大変な事ばっかり。 けど、今は側に家族くーちゃんとさくちゃんが居る、信頼できる友達が居る。だから私は自分が不幸だなんてこれっぽちも思ってない! ううん、むしろ今が幸せだと思ってる。 確かに私はお二人の事をよく知りません。今日初めて会ったばかりの方ですから知らないのも当たり前ですよね。でもリズさんたちはお二人の事を良く知っていて信用してるし、信頼もしてる。リズさんたちは私の大切な友達です。その友達が信用してるのだから私も貴女たちを信用します、お二人は信用するに値します。」


「それが偽らざる今の私の気持ちです。」


私はそこまで一気にまくし立てた。

くーちゃんは耳をペタンと下げて顔を私の身体にスリスリと擦り付けているし、さくちゃんはくーちゃんの背中の上でみよんみよんしてる。


(ふふ、二人ともいつもありがとね。)


(何を仰います、主様の幸せが我らの幸せ♪)


「「「オルカさん。」」」

  「オルちゃん。」


リズさんたちが目をうるうるさせながら私を見ている。

言う事言ったらスッキリした私は退出しようとするとサラさんが話しかけてきた。


「オルカさん。」


さっきまで一度も私の名前を呼ばなかったのに今は名前で呼んだ。

今までと明らかな違いを感じて私は背筋を伸ばす。

するとサラさんが深々と頭を下げた。


「先ほどは大変失礼を致しました。 この通り謝罪します。」


確かにあまり気持ちの良い対応とは言えなかったけれど別に怒ると言う程の事でもない。

ちょっと不快になった程度だったし。

だから


「あ、いえ、私は別に怒ってる訳ではないので謝罪は不要ですよ?」


だって


「態と仰ってましたよね?」


サラさんとパメラさんが目を大きく見開く。

そして優しくにっこりと微笑んだ。

それは今までと違った心からの笑顔だったように見える。


「友達が信用してる人だから自分もその人を信用する。」

「中々言える事ではありませんもの。」


そう?

私の中では前世から何も変わってない。

と言うか変わりようが無い。

人間そんなに簡単に変わらないし変えられないって。

私だって誰でも無条件に信用する訳じゃないもん。

リズさんたちだから信用しただけ。


「リズたちがあんなにも信用する人ってどんな人? どうしてそこまで必死になって庇おうとするのか。何がそこまでさせるのかなって。」


「だから態と悪態を吐いて貴女を怒らせようとしたのですけどね。 怒らせて本当の貴女を見たかったんだけどダメだったわ。あれで怒ってくれないんじゃどうしようもないわ。」


サラさんとパメラさんがあっさりと白状する。


「この人なら大丈夫そう。 パメラもそう思うでしょ?」


「この子達の事、よろしく頼みますね。この通りです。」


サラさんとパメラさんがまた頭を下げる。


「あ あ 頭を上げて下さい。」


ゆっくりと頭を上げたサラさんとパメラさん。


「成人してるとは言ってもやはりまだ……ね。 私たちにとってはいつまで経っても子供なのですから。」


優しい眼差しでリズさんたちを見つめる二人。

あの険悪だった雰囲気は霧散し今はただただゆったりとした心地いい優しい空気に包まれる。

ほっこりするね。

血は繋がってなくても家族は家族。

こうゆうのって何かいいよね。


空気が少しばかり弛緩したところでドアが開いた。


ガチャ。


「あら、お客様がいらしてるの?」



部屋の中に入ってきたのは老齢のとても穏やかな笑みをたたえた女性だ。

すごく優しそう。

それがこの教会の責任者のトップである院長先生に対する私の第一印象だった。






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