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040 - 脱出・逃走

「あわわわ、つかまっちゃいますよ! えぃ。発進!」

 ミルアさんが、右手のレバーを勢いよく前にスライドさせる。

「あ、ちょ」

 ちょっと待って、と言おうとしたが間に合わなかった……


 ゲートがまだ開き切ってないところに突っ込んでいく。


ゴン、ギギギッ


 船体が何かに当たる音と、軋み音が微かに響く。


 それでも一瞬後には、窓から見える光景が黒一色になり、滑るように宇宙に出る。

 ステーションの可動式ゲートにはこの船を止める力はなかったようだ。


「あ、あ、あ。どうしましょう。えっと、えっーっと、とりあえず予定のポイントに向かいます!」

 だいぶテンパってるな……ちょっとやばいかな?


「落ち着いてね」

 ミルアさんに声を掛けつつ、横に立ってるエンジュを見る。

 

「エンジュ、もしもの時はコントロール取れる?」

「はい、艦長 」

 口に手を当て、小声で確認しておく。これなら何とかなるだろう。


「何かがグルンフィルステーションから発進してきました。 機数4機 」 

 エンジュが落ち着いた声で報告する。

「え!っえ! う、撃ってきましたよ。警告抜きですか!」

「まだ、威嚇射撃のようです。 シールドを張ってください 」


ビィー 『警告!シールド98% 』

ビィー 『警告!シールド96% 』

ビィー 『警告!シールド93% 』


 威嚇と言っても、きっちりとシールドには当ててくるのか。

 

「エネルギーパックが溶けるぅ……」

「次は当ててきますよ! 回避行動を! 」

「えっと、マニュアルで回避は……あ、あれ……」


ドゥン!

ビィー 『警告!シールド73% 』


 小さいけれど腹に響く音がする。

 直撃するとシールドも大きく削られる。

 これはちょっと怖いかも……


「操縦もらっていいですか? 」

「あ、はい」

 エンジュが操縦を引き継いだのだろう、外の景色がぐるぐると回る。

 とりあえず艦橋内は、わずかな軋み音だけで平穏が戻る。

 たまに窓の外にビームが横切るのが不穏だが……


「え、何で操縦できるんですか?」

「それはちょっと後です。 艦長、高度隠蔽できますか? 」

「やってみるわ」

 収納に入れてあった杖を取り出し高度隠蔽と呟くが、この船が対象にならない。

 何か条件が足りないのかもしれない。


「無理ね……戦艦を出しましょう。後、どれくらい?」

「合流ポイントを変更中です。 あと30秒 」

「了解、タイミングは任せるわ」


「艦長、戦闘機が離れていくゾ!」

 コンソールを見ていたラングの報告。

 嫌な予感がする。

「ステーションからのビーム攻撃です。 艦長、この船では回避も防御もできません。 戦艦を! 」

「隠蔽解除!」


 目の前に戦艦の後部が出現する。

 でかい壁が急速に目の前に迫ってくる。


「わーぁー」

 ミルアさんが両手を上に上げて叫んでいる。

 一方、うちの子たちは平気な顔をしている。少なくとも見た目には。

「一度追い越します! 」


 戦艦の前に回り込み、ステーションから見ると陰になる部分に避難する。

 その直後に窓もスクリーンも光で真っ白になる。


ビィー 『警告!シールド95%……シールド85% 』


 1秒くらい光の奔流が続いたあと、静寂が戻る。


「この隙に格納します 」


 視界が一周しながら戦艦の中央腹側に回り込む。上側にハッチの開いた戦艦が見える。

 そして徐々に戦艦が下がってくる。

 たぶん実際は自分たちが上がっているのだろう……


「格納庫に入りました。 ハッチ閉扉中。 隠蔽を実行します 」


「ふぅ。何とかなったわね……しっかし、なかなか連邦も過激ね。被害は?」


「ありません 」


「ありません。じゃないですよ! エネルギーパックが6個も減っちゃったじゃないですかー」

 ミルアさんが両手を腰だめにして、泣きながら怒っている。

 そう言われましても……


「そこは交渉して何とかするから……それよりも、この後どうしようかしらね」


「わーん。ユメさん。私、犯罪者じゃないですかー。やだー」

 長いうさ耳を器用に回避しながら、両手で頭を抱えている。


「あなたが一番敵対行動している気がするのよね……」


「やだー……」

 最後は天を仰いで、涙を流していた。

 南無……




「とりあえずおやつを食べながら今後の方針を決めるわよ。ユークレアスは近いんだっけ?」

 なんだかんだ、長く乗っていると愛着が出てしまう。


「はい、艦長。 合流しています 」


「ではユークレアスの艦長室に移動しましょう。エンジュお願いね」


ポーン 『 存在確率ジャンプを実行します。 4名転送。 』


 いつもの部屋に帰ってくるとやっぱり少しホッとする。

 ミルアさんがいるのが新鮮だ。


「そういえば、人の転送も普通にできるんですね。昔は出来たと聞いたことがありますが、あっさり過ぎて感動もないですね」

 感動は無いと言いつつ、両手をグーパーして、体の調子を確かめている。

 初めての技術で、少し不安を感じたのかもしれない。


「連邦では転送ってできないの?」


「出来ませんね。遺失船を持っている人が使っているらしいという話は聞いたことがありますが」


「じゃあ、この辺も秘密にしとかないといけないわね」


「そうですね。それが無難です。ところでここは艦長室でしたっけ? さすが戦艦の艦長室は広いですね~」

 とミルアさんは誤解しているが、まぁ今訂正しなくてもいいかな。


「じゃあ、みんな好きなものを頼んでね。ミルアさんはエンジュと相談して決めるとよいわよ」


「んと、俺はジャーキーチップと牛乳で!」 とラング。

「私は、この前のフルーツを普通盛りで!飲み物はお水ね」 とタマミちゃん。


「私は、ホットケーキに紅茶にしようかしらね」


「えっと、みなさんあんなことがあった後ですぐ食べれるんですか?」 とミルアさん。


「最近慣れてきたな」

「そうね……困ったことに……」


「え、私やっていけるかしら……」

 ミルアさんがちょっと涙目だ。


「大丈夫、大丈夫。美味しもの食べて寝ちゃえば何にも気にならなくなるわよ!」


「そんな割り切れるもんじゃないですよ…… ……とりあえず、エンジュさんどんなものがあるんですか?」

 ミルアさんは一度深呼吸すると、メニューだけでも選んでみることにしたようだ。


「兎耳長族の食べ物は一通りアーカイブしてありますよ。 ただ、連邦の物は分からないので、そこはご了承くださいね 」


「えっと……昔の食べ物の名前を言えばいいですか?」


「そうですね。 味や色の指定やカテゴリーの指定でもメニューとして出せますよ。 例えば…… 定番おやつだとこんな感じでしょうか…… 」


 ミルアさんの前に5品くらいのおやつ(?)が表示される。その中の一つは先日食べていた赤いスティックも見える。

 基本的にフルーツや野菜ポイ物が多いようだ。


「あ、この前食べたこれ! 美味しかったんですよ! あ、でも他のもどれも美味しそう……」

 さっきまでのどんよりとした空気は完全に無くなり、無邪気にメニューを比較し始めた。


「味の方向性は違いますが、どれも定番人気メニューなのでとても美味しいですよ 」


「えっと……えっと……この赤くて丸いのも美味しそうだし……このサラダも瑞々しくて甘そう……」


 ミルアさんが一つ一つじっくりと見定めようとしている。が、ラング達がじれてしまいそうだ……

 ここは、太っ腹なところを見せてみようかな! ついでに食べ物でイブクロをがっちりゲットしてしまう作戦もいいかもしれない。

 よし、そうしよう!


「ミルアさん参加記念だからね! 5品全部行っちゃいなさい! ただ、量は少なめにね。夕飯食べられなくなっちゃうから」


「え。いいんですか! そんなに!」

 それはもう、きれいさっぱり不安や不満の表情が消えたミルアさんが顔を輝かせる!カワイイ!


「ぇー、俺らの時は無かったゾー」

「まぁまぁ、昨日一杯食べたしいいじゃないの。艦長は今日もきっと特別手当をつけてくれるわよ!」

 こっちはこっちで、ちゃっかりしてる……


「まぁ、危険があったのは事実だものね…… ただ、連日だから今日は少なめよ。健康は大事なんだから!」


「「はーい」」


「艦長、甘すぎです…… 」

 エンジュが少し呆れているが、こういうのは勢いが大事なのよ。


「じゃあ、ミルアさん歓迎パーティーを始めましょー」


「「「いただきまーす」」」


 パーティーはミルアさんの顔が蕩けていくのを見守る会となった。

 そして、イブクロがっちり作戦は、大成功で完了したのだった。


 満足。

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