039 - ミルア・セレスティンとの再会
「じゃあ、ミルアさんに会いに行きましょー! みんな準備はいいかしら?」
「「はーい」」
「今回は、皆さん実体ですからね。 安全第一ですよ! 」
【はーい】
「では、転送しますよ。 転送後は少しだけ地面から離れていますから態勢に注意してくださいね! 行きますよ、存在確率ジャンプ実行! 」
ひざをほんの僅かだけ曲げておくのがポイントらしい。
視界は4人を包むように一瞬だけ霞が掛かり、次の瞬間には先ほどと同じような通路に出た。
足が数ミリだけ落ち、膝でショックを吸収する。
3人分の小さな靴音が響く。
ラング、タマミちゃんを見ると軽く頷く。
周りを見ると、先ほどと違って清潔な印象を受ける。そして、匂いが全然違うことに気が付く。おそらく空調がしっかりしているのだろう。
「こっちです 」
周りに人はいないが、こんな通路で立っているのは怪しさ満点だ。さっさと移動しよう。
「こっちの方が環境がいいのね」
「そうですね、中級以上の市民が利用する場所ですからね。 環境維持装置も良いものを使っていますね 」
「そんなに違うもの?」
「そうですね。 環境と一口に言っても気圧、温度以外にも組成や浮遊有機物、ウイルスや細菌などの有害物まで色々ありますからね。 手を抜けば衛生状態に直接跳ね返ってきますから意外に奥深いものですよ 」
なるほど、ただ空気があれば良いわけではないのね。
「さっきと同じように通りに出ますよ。 今回は右に曲がってくださいね 」
先ほどと同じようにエンジュに付いて大通りに向かう。
「わぉ」
同じステーション内だから、同じようなものかと思っていたが、全然違う光景が広がっている。全体的には先ほどの場所よりもゆったりと作られていて、道幅も広い割に人が少ない。歩いている人もゆったりとしていて、セレブ感(?)がある。壁は様々な素材で綺麗な色と装飾で飾られていて、ところどころに立体映像が動いている。床は絨毯のようなもの敷かれていて綺麗な模様が鮮やかに描かれているかと思うと、これも映像らしい。派手ではないが微妙に動いている。
天井は全体的に発光していて、全体として照明になっている。天井だけは先ほどの中級住宅街の方が高く宇宙感があったかな。
こっちは基本的に平面フロアで高さも3-4階分使っている感じだ。エンジュが見せてくれた全体マップを思い出すと、ステーションの中央シャフトを輪切りにした形でフロアを構成しているはずだ。
……驚いては見たものの、どこか既視感がある。
イオ〇モールだこれ。
もちろん3Dで動く装飾や映像技術は見たことがないものだが、全体から受ける印象はちょっと高級なイ〇ンモールか、海外旅行で行ったことのあるショッピングセンターによく似ている。
まぁ同じ目的の物ならそんなに変わらないのは変じゃないか……
「ぉ、あれ、ミルアさんじゃないか?」
「何か様子がおかしくないですか?」
お店の前でぼーっと立っている。
ウィンドウショッピングをしている風ではあるが、心ここに非ずといった感じだ。
「そうねぇ、タマミちゃん声かけて見て」
元気よく返事をしたタマミちゃんが、早足でミルアさんのとこに近寄っていく。近くで声がして、明らかに驚いた感じで振り返るミルアさん。ちょっとおびえている感じだ。
「タマミちゃん顔、顔」
「あ、そうか」
私もフェイスガードの設定を変更してミルアさんに近づく。
全員の顔が分かるとミルアさんの警戒が解け……顔が泣きそうにゆがむ。
「わ~ん。ユメさん。私、首になっちゃいました~」
「「「えー」」何があったの?」
「それが、到着が一日遅れただけで、任務放棄で免職だって言われちゃったんです……」
「えー。それってひどくない?」
「そうなんです! 色々説明したのに! 「ちょ、ちょっと待ってね。周りの視線が痛いわ……どこか落ち着いて話せるところは無い?」
周りの人が気が付いて、止まり始めてしまった。この場にいると悪目立ちしてしまいそうだ……
ミルアさんを促して、少し歩きながら話を進める。
「この近くに、行ってみたかった喫茶店もあるんですけど……有機野菜のお店ですし……」
「ホテルの部屋とかでもいいわよ。確かここで泊まるのよね?」
「それが、もう職員じゃないので、泊るところもないんです……」
「今日はどうするの?」
「船に戻って寝ます……お金もあんまりないですし……これから船に来ますか? あまり大したおもてなしもできませんが……」
「そぉね。そこでお話を聞こうかしらね」
「それじゃあ、こちらです。まだ船は職員用のドックに係留してありますので」
そう言いながらミルアさんは大通りを外れ、細い路地に入っていく。
職員用の通用口っぽい所を通り、階段を下りていく。
途中で重力が弱くなり、2本のベルトが上下に動いているシャフトに出た。移動したい方のシャフトを掴んで目的の場所で手を離せばいいらしい。下が見えないのが不安だがすぐに重力は無くなってしまったので、進行方向に頭を向けてミルアさんの後ろをついていく。
ミルアさんの合図で手を放し、いくつかのキャットウォークを通って、空のドックの横を通過すると先日見たクィーンバタフライ号が固定されているドックに到着する。
ドック内は真空のようなので、接続チューブ内を移動して船内に入るようだ。
「足元注意してくださいね。ただいま、クィーンバタフライ」
『おかえりなさいませ。 ミルア様 』
船内に入るとゆっくりと重力が掛かり、着地する。船内はすぐに光源が点いたが、空気はわずかにひんやりしている。
「クィーンバタフライ、食堂を優先的に温めてね」
『食堂の環境維持を優先します 』
船内を少し歩くと食堂室とプレートが付いた部屋がある。この辺は組織の備品という感じで、武骨な感じがある。
「狭いですけど、どうぞ」
プシュッと軽い音を立てて扉がスライドし、部屋に電気が点く。部屋の中は、備え付けのテーブルとイスが6脚、厨房的なスペースがあり、そんなに広くないながらも衛生的な食堂といった感じだ。
しかし、使い込まれた印象はあるが、最近使われた感じではない。まぁ、これを普段一人で使っていたらだいぶ寂しい感じがする。
「この部屋は滅多に使わないんですよね……」
さもありなん……
ミルアさんの案内とその場の雰囲気で、面々がそれぞれ適当な椅子に座る。私の向いにミルアさんが座った。
「飲み物とサラダくらいしか出せないですが、何か飲みますか?」
水で、と言おうとして水も好みが反映されていることを思い出す。
「そんなに長居する気もないから、いいわ」
「皆さんも?」
他の3人も頷いて同意を伝える。
「で、何があったのよ?」
「それが……酷いんです」
話始めた彼女は淡々と起きた出来事を教えてくれた。
事故で到着が遅れ、着任が一日遅れたこと。自分が到着したすぐ後に到着した連邦の連絡船に自分より階級の高い佐官が乗っていたこと。佐官が持ってきた命令書で、自分が付くはずだった任務から外されたこと。本日付けて免職の辞令が出たこと。そして、その辞令が急すぎることや、罰として重すぎることも一般常識として教えてくれた。
「私の今の身分が准士官というのもありますが、ちょっと変なんですよ。きっと兎耳長族に対する差別が、まだ裏には残っているんです……」
あぁ、あれか。過去の帝国でのしがらみってやつですか……
「そんなに気を落とさないでください……」
横に座ったタマミちゃんが背中をさする。
「現実は結構厳しいんです……借金こそありませんが、この船の維持費も掛かりますし、故郷まで帰る燃料もギリギリです。戻っても仕事があるかどうかも分からないですし……いきなりこんなことになるなんて……」
これは、もう一回勧誘してみるか?
「前に言った話、覚えてる?」
「何の話ですか?」
「私たちの仲間にならない? 今なら3食、お仕事付きよ!」
「私、大したことできないですけど、良いんですか?」
「連邦のことをよく知っているというだけで大歓迎よ。二人もあなたのことが気になっているみたいだしね。ただ、お給料は払えないわ、連邦の通貨ではね。その代わり大抵のものは現物支給で、エネルギーは使いたい放題よ!」
「ぇ、もしかして、リアクター持ちですか?」
「リアクター持ち?」
「エネルギーパックの要らない反応炉を持っている人のことです。大富豪や、企業がこっそりと持っているという噂はありますが……そうか他の文明圏の方ですものね……むしろ持ってて当たり前ですね……あ、でも定期的でなくてもいいので連邦のエネルギーパックは必要です。船を維持しないといけないので……」
「分かったわ、連邦のエネルギーパックは手に入れましょう。で、どう?」
まだ当てはないけど何とかなるだろう。たぶん。
「うーん。連邦と敵対しないのであれば……星に家族がいるんです」
「そぉねぇ、私から敵対的な行動はしないと約束はするわ。ただ、降りかかる火の粉までは保証できないわね」
「そうですか……分かりました。そこまで言ってくださるなら私も覚悟を決めます。私を仲間に入れてください。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくね!」
「「やったー」ミルアさんよろしくね!」
「ミルアさんよろしくお願いしますね 」
「そうそう、この後船をドックから出さなきゃいけないんですけど、ユメさん達どうします?」
「あ、じゃあそのまま運んでもらおうかしら、その後どうするの?」
「ステーションの一般ドックに停泊するか、適当な小惑星に係留するかですかね。特に決めていないんですが、どうしたらいいでしょうか?」
「じゃ、戦艦に収納しましょう。エンジュ、この船入るわよね?」
「はい。 艦長 」
「へ?戦艦?収納?艦長?」
軽くパニックになっているミルアさんを置いてきぼりにして、エンジュと合流プランを作成してしまう。
「ミルアさんこのポイントに船を着けてもらえる?」
「ぇ、このポイントで合流するんですか? ステーションのすぐ近くですけど……」
「大丈夫、大丈夫。見つからないようにできるから」
「わ、分かりました。あ、じゃあドライブルームに行きましょうか」
みんなで食堂を出て、ドライブルームに向かう。
居住エリアはコンパクトにまとめてあるようで、いくつかの部屋を通り過ぎてすぐに艦橋というプレートが付いた扉の前に付く。
「びっくりしないでくださいね」
いたずらする子のように可愛く笑い、扉を開く。
ミルアさんが案内した先は、ピンク色多めの女の子部屋……の艦橋だった。
とは言え、そんなに散らかっているわけではない。そして普段使いしているわけでもないようだ。元が武骨な部屋を頑張ってリフォームした感じか……
部屋のサイズは食堂と同じくらいだが、機材の分だけ窮屈感はある。5人入ると一杯といった感じだ。
ミルアさんは手慣れた感じでコンソールに座り、船の機能をオンにしていく。
「ではクィーンバタフライ号出港手続きに入ります。クィーンバタフライ、出港シーケンス開始」
『クィーンバタフライ号出港シーケンスを開始します。 接続チューブ減圧。 外部ポートロック確認 』
「出港許可確認っと」
『接続チューブ開放。 固定アーム開放確認。 港湾施設収納開始 』
「船体スラスター動作確認。係留アンカーパージ」
『外部ゲート開放開始。 ミルア船長、通信です 』
「え? 何かしらね。つないで」
『通信チャンネル開きます 』
「こちらはグルンフィルステーション管制、申請に無い4名の乗員を感知した、申請に間違いはないか?」
「え、あ。ユメさんIDありますか?」
「え? ないわよ」
「ん? どういうことだ?」
「えっと、、、あの、、、あー、、、」
やばい、ミルアさんがパニックになっている。
「密航者か!? 確保しておけ! 警備員はA32ドックへ向かえ!」
「あわわわ、つかまっちゃいますよ! えぃ。発進!」
「あ、ちょ」




