193 - 連邦中枢領域 その3
「艦長、間もなくワープアウトです。現在地点は、第二恒星軌道の外側、基地周回軌道の接続回廊です」
「外部操舵コントロールにより、ワープアウトシーケンスを実行中……5、4、3、2、1、ワープアウトしました」
予定通りの20時過ぎ、連邦評議会防衛艦隊基地へと到着した。
目の前に現れたのは、いくつのものリングで構成された艦隊駐留ドッグと、その間を直線でつなぐ回廊が複雑に組み合わされた巨大な装飾品のような構造体だ。
それぞれのパーツが、とても色鮮やかに輝いている。
「わぁ……綺麗……」 とタマミちゃん。
「これは……すごいな……」 とラング。
「これは……お金かかってそうですね……」 とミルアさん。
特に今回は、周りに星が多く、影が少ない。
可視光の映像でもライトアップされているかのように、細部まではっきりと見える。
後でカダンさんに聞いた所、リングは国の数だけあり、各国の艦隊は個別に収容されるとのこと。これは軍事機密保持の上で重要な措置らしい。
また、直線回廊部分は基地と生活圏を兼ねており、比較的仲の良い種族同士の交流の場になっているとか。全員が集合すると、生活環境のストレスや安全保障上のリスクになる為、巨大なステーションは作られなかったとのこと。
物理的な距離が、喧嘩防止の意味もあるとか無いとか……
宇宙世紀になっても、近くの国は仲が悪いようで……やれやれだ。
『あの間をすり抜けるように飛行したら、楽しそうじゃありません?』
『ダメだよ、シンリー。あれは軍事施設なんだから……』
リングを潜るゲームか……連続で潜れば高得点とか、昔やったゲームの光景が目に浮かぶ。
しかし、今のところはシンリーの "飛びたい欲" が暴走しないことを願おう……
「艦長、中央管制室から通信です。司令官を求めていますが出ますか?」 とラング。
「えぇ、スクリーンへ回して頂戴」
スクリーンに現れたのは、スズメ!?
サイズこそ人のサイズ感だが、全体的に丸みを帯びた印象に、モフモフの羽。
円らな瞳と、ちょこんと乗った軍帽が可愛らしい。
上半身しか映っていないので、手や足がどうなっているのか分からないが、こんな姿の宇宙人が居るとはね……
『ようこそ。銀河連邦中央管区、評議会防衛艦隊基地へ。皆様を歓迎いたしますピ』
声にピヨピヨ成分があり、気が付けば翻訳に乗っているけど……これは酷い……
言っていることはまともなのに、声が可愛すぎる。
「こちら、YKK国のフォージニアス艦隊提督カンナヅキ ユメです。歓迎に対して感謝いたします」
『これはこれは、お若い艦隊提督殿ですピ。わたくしは基地司令官、チュナ・アサギリと申しますピ。艦隊提督以下、軍属の皆様にはこちらで待機していただきますピ。行政長官を乗せた船につきましては、このまま先導艦隊に続き、評議会中央ステーションへお進みくださいピ』
語尾の違和感は拭えないが、問題があると言うほどじゃない。
しかし、気を抜くと内容が頭に入ってこない。
そして先方にちょっと誤解があるっぽいわね……
私は残る方じゃなくて進む方だ。
「私は艦隊司令官ですが、行政長官でもあり、会談する者です。こちらで艦隊編成を行う必要があることは聞き及んでおります。駐留時に何か注意点はありますか?」
私の声を聴いて考える時に頭が傾くのが、とてもスズメっぽさを感じる。
『これは失礼を致しましたピ。こちらに残留いただく駐留艦隊につきましては、まだ入港許可が下りておりませんピ。艦隊基地周辺の指定待機軌道にて待機をお願いいたしますピ。移動そのものは禁止されておりませんが、軌道変更の際には事前連絡をいただけますと助かりますピ!』
最後だけ羽(肩?)を動かしてちょっと必死だった。
笑いがこみあげそうになるのを必死で押さえる。
各リングがそれぞれの国の持ち物的な基地であれば、我々の船が入れるはずもない。
これまで仲良くなった国は……スリカータ、とドルファ星くらいかしらね。どっちも連邦加盟国では無いし、たぶんここに基地は無いだろう。
どちらにしても、残留する艦隊に人は残ってないし、気にすることも無いかしらね。
「畏まりました。担当者に伝えます」
といって、伝えるべき担当者は隣で聞いているエンジュだ。何も問題は無い。
『ご担当と肩を並べられることに感謝いたしますピ。また、ここから先へ進行可能な船は、行政長官、あるいは外交官を乗せた艦艇に限られますピ。艦隊編成の際にはご注意くださいピ』
うーん。そうなると一隻か、白猫豹族を入れて二隻しか通過できなくなってしまう。
アリスの懸案の行動安全係数の件もある。あまりに護衛艦が少ないのは問題が出る可能性もあるわね……
ちょっとごねてみようかしら?
「我々は政治体制が異なります。乗艦と護衛艦を通過させることは可能でしょうか?」
『重ねて失礼いたしましたピ。乗艦および護衛艦を合わせ、10隻以下であれば問題ありませんピ。それ以上となりますと、羽が抜けるほどの時間が必要になりますピ』
最後は手続きに時間が掛かるって意味でいいのよね……?
まぁ10隻で十分かな?
私達が乗っているフォージニアスと、白猫豹族が乗っている戦艦、それと紫豚剛族の3人が乗っているボルドルファ。これに護衛艦を数隻付けられればいいでしょう。
幸い今回、戦艦は沢山ある。10隻全部戦艦で揃えてしまおう。
「では10隻で編成します」
『承知いたしましたピ。なお、通過する艦艇が軍艦である場合、武装封印処置をお願いしておりますピ。ご対応いただけますでしょうかピ?』
うーん。戦艦なので、隠しようもないくらい軍艦だ。
「それも、コントロール権の譲渡が必要でしょうか?」
『違いますっピ! 強制ではないですピ! あくまで共に歌うものとしてのお願いになりますピ』
また羽が大きく揺れた。
慌てると翻訳が揺れる。
音声をミュートしてエンジュに聞く。
「これってどう?」
「紳士協定ということであれば、何も問題はありません。 外見的にはこれでいかがでしょうか? 」
一つのスクリーンに戦艦が表示され、砲門や射出口の前に赤と黄色で作られた禁止マークのようなプレートが浮かび上がる。
いかにも "これは使えない状態です" という表現に見える。
「いいわね。編成予定の10隻にこれを適用して頂戴。……武器の封印に関しては承りました。他に何かありますか?」
途中でミュートを解除して基地司令官に向き直る。
『評議会中央ステーションへ向かう艦隊につきましては、接近時に高度な操艦技術が要求されますピ。ですが、貴殿の艦隊性能であれば問題ないと判断しておりますピ。ただし、駐機エリアに適合しない艦艇は、過酷な環境下での維持が必要となりますピ。止まり木の大きさ確認を実施されますかピ?』
エンジュに確認してもらうと当然駐機OKとの返事。
そりゃ、元帝国の施設だものね……むしろ専用駐機環境と言ってもいいんじゃないかしらね。
「こちらで確認しました。問題ありません」
こちらの確認が早かったことに少し面食らったのだろう、円らな瞳が一段大きくなる。
目がパチパチとしてマスコット的でとてもかわゆい。
しかし、そんな表情はすぐに元に戻り、落ち着いた手つきでパネルをいくつか操作する。
『最後に、一般的な注意事項を申し上げますピ。
ここより9日間の航路は、BH近傍の高重力時空歪曲領域となりますピ。大幅な軌道変更は困難であることをご理解くださいピ。
会議日程が予定通り進行した場合、往復18日間。首飾りでの滞在を含めますと、こちらへ帰還されるのは22日後となりますピ。残留艦隊につきましては、特別な事情がない限り、その間待機軌道に駐留していただきますピ』
首飾りでの滞在予定は、ミルアさんルートで相談が行われた結果、4日間の設定となった。到着一日目に、白猫豹族の亡命処理、二日目に式典、三日目は何人かの評議員と面会、四日目が予備日となる。
二日目の夜には晩餐会も開かれるとのことだが、食料関係に関してはあまり期待できないかもしれない。
「了解しました」
『それでは、防衛艦隊基地へ残す艦隊、および評議会中央ステーションへ向かう艦隊の編成が完了いたしましたら、先導艦隊提督、ガルネト・リュクシオンまでご連絡くださいピ』
「了解。オーバー!」
あ、あのバフォメットさんはガルネトさんというのね。
名前も中々厳つい感じね。
先導艦隊に導かれて、基地から少し離れた指定の軌道に進む。
移動中に残す艦隊と進む艦隊の振り分けは完了しているので、速やかに艦隊490隻を待機軌道に投入した。
そして戦艦10隻に武器封印の電飾を施し、BHへの軌道に導く。
戦艦10隻には、予定通り、フォージニアスとボルドルファを含み、白猫豹族の3名が乗船している艦も入っている。
一方でここまで一緒に来たクィーンバタフライ号はお留守番だ。
BHへの接近機動スペックに達していないので……
第二恒星基地から首飾りまでの距離は1.7光日。指定された速度でも9日間掛かる。
ワープで接近したいところだが、規則となれば仕方がない。
準備が完了したところで、再び先導艦隊の提督を呼び出す。
「こちらYYN艦隊、準備完了。武器の封印処置はこれでよろしいでしょうか?」
『これは……クックック、いや失礼、こんな凝った装飾の封印処理は初めて見たもので……普段は "封印しましたか" という問いに "ハイ" と答えて頂くだけですから……クックック』
ガルネトさんのビジュアルは悪者顔そのものだが、言葉に棘は無いので、まぁ悪い気がするほどではない。
それにしても、この装飾はやり過ぎだったか……
こんな所でも、私また何かやっちゃいましたか、だわね。
ガルネトさんが落ち着くのを少し待ち、移動中の注意点を聞いておく。
『規則ですので、毎日の定時連絡をお願いします。評議会中央ステーションが近くになりましたらまたご連絡を致します。それでは、9日間の良い旅を。皆様の航海に赤き月と青き太陽のご加護があらんことを!』
これはオウム返しでいい事は知っている。
「皆様の航海に赤き月と青き太陽のご加護があらんことを」
ガルネトさんが鷹揚に頷き、その後、すぐに一礼して通信が切れた。
どうにも、ボスキャラ感があるのよね。
それはそれとして、ここからしばらくは自由行動のようなものだ!
「さぁて、エンジュ、モニタリングはよろしくね。それで、私たちは9日間なにしましょうかね!」
艦橋の面々を見回す。
「とりあえず、夜ご飯!」 とラング。
「今日はデザートの日よね!」 とタマミちゃん。
「いいですね! まずは夕飯を食べましょう」 とミルアさん。
そうだった。まずは明日の事より今日のご飯だ。
『艦長、明日はテレパス訓練などいかがですか?』 とボルグ。
『最近、時間が取れなかったですものね。なまってないか、テストして差し上げますわ!』 とシンリー。
そういえば最近やってなかったかも……?
「艦長、新しい発明品を確認して欲しいブ!」「時間がある時に、ぼくの発見を見て欲しいブ」「おいらも成果があるブよ」
タイロス兄弟がスクリーンの向こうで騒いでいる。
その横では3人のお嫁さん達がタイロス兄弟に注意をしている声が聞こえる。
「こんな所にお呼びするつもりですか!」「ニッキー! 見せられる作業場じゃないだろう!」「ポーキーさん! もっと確認してから出すべきですよ!」 とか……
一人方向性が違うが、みんな怒られて、止められて小さくなっている。
退屈しない9日間にはなりそうだね!
お読みいただいている皆様、ありがとうございます。
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