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第六十一話『リザードマン防衛会議③』

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


【ながみ視点】


「その情報……話してもらえるか?」


「……!?」


 リザードマン襲撃に対する防衛会議が進む中、ギルマスの言葉を肯定したジンさんへと話は振られた。


 なんでもギルマスが特別な依頼を頼んでいたのはリギドさんだけではなかったらしく、ジンさんには青狼族の村の調査をお願いしていたようだ。


ルフの村の件については、あの時の私には手がつけられなかったからな……


 私としても、あの後どうなったか非常に気になるところではある。


そんなことを思い、ジンさんに視線を向ける。


「…………!……!」


……しかし、何か様子がおかしい。

なんというか、若干ではあるがジンさんの目が泳いでいるというか……


 それに、話を振ってきたギルマスの方を睨んでいるような気がしないでもない。


「あの、どうかされました?」


「ッ!い、いや……何でもなぃ……」


 私はそんなジンさんの様子が気になってしまい、思わず声をかける。

するとその声に驚いたのかビクッと肩を揺らしたあと、今度は助けを求めるようにギルマスの方をちらちらと見ながら私に言葉を返した。


しかし、その声は今にも消えてしまいそうなほどか細い。


「あ……えと……」


「村の情勢としてはぁ……」


ジンさんは少しだけ目を泳がせながら、何かを濁すように口を開いて、閉じて、開いて閉じてを繰り返している。

その様子は、何か昔、学校とかで見たことがあるような気がしないでもない。


───うん……?


これは、寡黙……か?


 私はジンさんの様子に少しだけ心配になりながら、とりあえず何もできることは無いので彼の言葉を待つことにする。


「え、えっと……」


 だが、いくら待ってもやはりジンさんは口篭るばかりで話をしようとはしなかった。

そして、私はその口篭り方に一種のシンパシーのような何かを感じてしまう。


うむ……


もしかしたらこの人……私とは別の系統ではあるが、同じ匂いを感じるかもしれない。


寡黙でかっこいい人かと思っていたが……こっち側だったか……。


「あの……あー……」


 凄まじい勢いで目を泳がせるジンさん。

テンパりすぎて体裁を装う余裕さえ無くなったのか、声までもが可愛らしい感じのものに変わっていく。


んん……?可愛らしい……?


いや、まさかな。気のせいだろう。


 私はサッと思考を切り替えて、ヴァレントさんに視線を向ける。そろそろ助けてやれという、憐れみの目線である。


「ヴぁレント……もう、無理……代わりに……話して……」


「……ジンは、無理そうか。

まぁ正直すまんかったと思ってるが、まさかここまでとは……」


 ため息を吐いて、ジンを後ろに下がらせるヴァレントさんと、そのヴァレントさんの陰に隠れて吐きそうな声を出すジンさん。

その様子はあまりにもあんまりな様子で、可哀想なほど震えているのが分かった。


うんうん、分かる。人前で話すって嫌だよな……めっちゃ分かる。


「皆、ちょっと待っててくれ。私がコイツの話を聞いてまとめて話すから」


「あ、あぁ、それはいいが……なんか大変だな、ジンも……」


 リギドさんの憐れんだ視線を受けて、ビクリと肩を揺らすジンさん。これはもう人前に出ない方が良いやつである。人には向き不向きがあるのだ。その典型例ってやつだな。


「すみま、せんでした……」


───うーむ……しかしだ。


 そうなると、途中で言っていた『然り』とか、かっこいい返事とかも必死でキャラ作ってたんだなぁ。


最初はリアル忍者っぽくて感動していたのだが、まさか陰を誤魔化す為の寡黙キャラ付け、だったとは……


全く、リアルってのは儘ならないものである。


「それで、村が……あれで……───」


 ギルマスに涙目で状況説明するジンさんを見て、私はそっと心の中でそんなことを思うのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……というわけで村や民家などから何か盗まれたという形跡は無く、リザードマンたちはただ村人を惨殺して帰って行ったことがわかったらしい」


 数十分にわたりボソボソと話し続けていたジンさんの情報を、ギルマスが要約して私たちに伝える。

その内容は私があの日見たものと同じであり、大量発生しているリザードマンたちの行動が異常だということを裏ずけるのに十分な証拠であった。


……しかし、ジンさんが精一杯頑張ったで話したあろう数十分の内容がこの短さになるとは。

知り合いのギルマスと話すだけでもこの長さになるあたり、ジンさんは話すこと自体が苦手なようだな……


「なんの目的も無く、村人たちを惨殺しただけ……?そんな……」


 ヴォレオさんが顔を顰め呟いた。

私が隣に座っているため見えてしまう、机の下で握られた拳は心なしか震えているようにも見える。


……この街に来る時の馬車の中で、青狼族の村を主な商いの場にしていたとヴォレオさんが言っていた。

危険視されている帝国が近い青狼族の村に出向くような商人は少なく、村にはヴォレオさん以外ほとんどの人入りがなかったらしい。


 そんな過疎状態の村に来る珍しい商人ともなれば、村人の中によく見知った人も居ただろう。

ともすれば、客と売り手の関係だったいえども見知った人を殺される虚しさと言ったら……きっと相当なものだろう。


加えて、殺されるだけでも許せないというのに、それも理由もなくただ惨殺されただけなど……到底許せるものでは無いだろうな。


「ヴォレオ……お前の気持ちはわかるが、今からがいちばん重要な話になる。今は抑えてくれると嬉しい」


「……大丈夫です。そのぐらいは弁えていますよ」


 ギルマスの申し訳なさげなその言葉に、少しだけ険しい目をしながらも頷くヴォレオさん。

その後は思考を切りかえたのか、落ち着き払った様子で話に集中していた。おそらく頭の中で情報を精査しているのだろう。


 すごいなヴォレオさん。

やはり、元冒険者といえど今は商人だ。


 ルーチェさん護衛依頼の時の私のように、一時の感情に流されて行動するのではなく、しっかりと情報を聞いて考えようとする気概が感じられるよ。


きっと、その情報を聞いた上で、"最も利益が得られる"であろう行動を取ろうとしているのだろう。


 商魂たくましいといえば良いのだろうか、大切なことである。


「しかし、いちばん重要な話っつうと、本格的な作戦の話か?」


「あぁ、そうだ。作戦の話に入っていく」


「そうか……だが、お前のことだからもう考えてあるんだろ?」


 ギルマスに質問し帰ってきた答えに対して、リギドさんはさも当然かのようにそう聞き返す。

すると、そのリギドさんの言葉を受けたギルマスはそれを肯定するように軽く頷いた。


もう作戦が出来ている……?


リザードマンについての情報が揃ったのはつい先程のはずなのだが……一体どういうことだろうか?


「というわけで、作戦を話していくが……」


「いや、ちょっと待ってください!シーアシラの危機だというのに、正確な話し合いもせず作戦を決めてしまっていいのですか?!」


 ヴォレオさんも私と同じように疑問に思ったようで、リギドさんの問いかけに頷き作戦を話そうとしていたギルマスへ向けて少しだけ声を荒らげる。


「いや、待ってくれヴォレオ。

ヴァレント・リヒター、こいつ以上に作戦を立てるのが上手い奴は他に居ないぜ」


 しかし、対面に座っていたリギドさんがそう宣う。

どうやらリギドさんは、ギルマスの知略に関して相当な信頼があるらしい。ギルマスはそんなに頭が切れるのだろうか?


「ですが……!」


「まぁまぁ、この『大剣のリギド』の名にかけて保証する。信じてくれや」


 おぉ……人が自分の名をかける所なんて初めて見たぞ……!

そこまでの信頼があるということなのだろうが……その作戦というのはどれほどのものなのだろうか?


 なおも食さがろうとするヴォレオさんの目を見つめてリギドさんが発したその言葉を聞きながら、私はそんなことを考えていた。


「……わかりました。

とりあえず、作戦を聞いてから考えることします」


 さて、私としては第一印象の酷さからギルマスがそこまで頭のいい人だとは思っていなかったのだが……お手並み拝見である。


……というより私、防衛の作戦なんて考えられないから拝見すること以外出来ないしな!


うん……薄々気づいてたけど、私の居る意味無いね……ははっ……


 そんな不承不承ながらも頷いたヴォレオさんの呟きと、この状況に対する自虐的な私の心の声とともに、会議は終盤に差し掛かっていく。


「有難う……じゃあ、作戦を話そう」


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