第六十二話『リザードマン防衛会議④』
【ながみ視点】
「まず、シーアシラ港町の状況を説明しよう」
リギドさんの言葉によってとりあえずの静寂を得た会議室にて、周囲の皆の顔を見渡しながらギルマスが口を開く。
その表情は非常に冷静なもので、有無を言わせぬ様な気迫のようなものを感じるぐらいだった。
「現在、国営のギルドマスター……私による緊急退避命令をシーアシラ港町の全域に出し、アシエーラ主要都市カーリュハイトへの移動を命じている状況だ」
こういう場に参加するのは初めてだが……
先程までとは打って変わって部屋全体の空気が張り詰めているというか……そんな緊張感のある雰囲気が伝わってくるな。
私はそんなことを考えながらも、静かにギルマスの言葉に耳を傾ける。
「そのためこの街に残っているのは、後方支援を志願した僅かな住人とシーアシラ衛兵団員十六名。
そして、"緊急招集依頼"にて集まったDランク以上の冒険者六十名となっている」
緊急招集依頼……冒険者に登録する時にルミネさんに説明されたな。
確か、緊急招集依頼を出したギルドがある地域にて、現在活動しているDランク以上の冒険者を国の命令として招集するものだったはずだ。
なんでも、冒険者としての特典が受けられる見返りだとか何とか……多分、そんな感じだった。
「その中で戦力として数えられるものは、シーアシラ衛兵団員と冒険者を合わせた七十数名……二百を超えるリザードマンと戦うには、非常に心許無い戦力だ」
うーむ、素人でもわかるぐらい数に圧倒的な差があるな……
二桁と三桁だもんなぁ……周囲のみんなも少しだけピリッとした空気を醸し出しているし……
これに対応できるであろう作戦があるのだろうか?
私はそんなふうに懐疑的に考えながら、話を続けるギルマスに目を向ける。
「しかし今回、私たちは攻めるのではなく、防衛すれば良いだけ……」
「よって今回の作戦では、シーアシラとグリム大森林の間にある広大な平地を決勝点、シーアシラの巨門を最終防衛ラインと仮定して作戦を立てた。概要はこうだ……」
そうして、いつになく真剣な目をしたギルマスの口から作戦が語られた。
───以下は、その内容を私なりに纏めたものである。
まず初めに、この防衛戦での目的は『リザードマンの国内侵略防衛及びリザードマンの殲滅』。
そのため森の中へ進軍して敵を撃破することはせず、シーアシラとグリム大森林の間にある平地で決戦を行うことにしたようだ。
その決戦の準備として、土魔法によって平地に等間隔で二つの堀を作り、その堀を各種防衛ラインとして設定する。
まず、グリム大森林と一つ目の堀の間を弓兵防衛ライン。
ここは巨門上に配置された弓兵達によって、リザードマン軍の進軍を牽制及び撃破することが目的のラインだ。
冒険者の中でも、特に敵を発見するための目が良い者や弓の技術が高い者達が配置される。
次に、1つ目の堀と2つ目の堀の間を魔法兵防衛ライン。
ここが今回の決戦で最も重要な地点……いわゆる決勝点となる場所である。
その内容としては弓兵防衛ラインを超えて数が減っているであろうリザードマン軍を、巨門前の地上にある土壁裏に配置された魔法が使える者+弓を持った剣兵達+弓兵の同時攻撃で本格的に殲滅するといったものだ。
今回私たちが持ち得る大体の戦力は、ここに投入されることになるらしい。
そして、2つ目の堀と最終防衛ラインである巨門の間……接敵防衛ライン。
魔法兵防衛ラインを超えて来た残兵もしくは強敵を、冒険者の中で一番数の多いであろう近接戦闘集団によって包囲して叩く場所。
ギルマス曰く、ここは絶対に死守しなければならない地点である……らしい。
その他に最終防衛ラインより後ろに後方支援の者達、戦場と指揮本部との間で生まれる情報の不確定性を無くすための伝令役、森に入り敵の内情を調べる斥候達等……
この会議中に思いついたとは思えないような、いくつかの濃密な作戦をギルマスは話してくれた。
「……この作戦を、この会議中に立てていたんですか?」
「あぁ。小難しいことを考えるのが、ギルドマスターの役目だからな。当然だ」
驚愕したように呟いたヴォレオさんに対して、軽く頷いてそう言葉を発したギルマス。
うむ、ヴォレオさんが驚く気持ちが滅茶苦茶わかる。
何故ならば、兵法なんてものを一切知らないような私にもある程度わかるように説明してくれたし……
説明で気になる点について質問すると、凄まじい勢いで説明してくれたし……
どうやら、ギルドマスターの名は伊達じゃなかったらしい……
「ヴァレントさんって頭良かったんだ……」
「え?ながみお前、私を馬鹿だと思ってたのか……?」
思わず口からこぼれてしまった私の言葉を聞いて、ギルマスは動揺した様子を見せる。
しまった、会議室が静かなせいで聞こえてしまったか……
「あ、いや、私を嵌めてルミネさんと戦わせたせいで、私の中での印象最悪でしたし……」
私は犯してしまったミスを何とか誤魔化そうと思い、目を背けたくなる気持ちを押さえ込みながら平然とした態度でそう宣った。
これは、もう押していくしかない……!
言論の争いというのは、引いたら負けなのだよ!
「あー……すまなかった。
その件は本当にすまなかったと思っている……!」
「……まぁ、別に恨んでないんで良いですよ。
それに、今はそんなことよりも作戦を決行するために動き始めましょう!」
「そうだな、行動は早いことに越したことはないな……」
───良かった……何とか助かったみたいだ……!
図星をつかれたかのように押し黙り、その後申し訳なさげな顔で謝るギルマスを見ながら、私はほっと胸を撫で下ろした。
「じゃあ、私は集まっている冒険者の皆に作戦を説明しに行くよ……故に、これにてリザードマン防衛会議は終了とする!」
そんなギルマスの言葉を合図に、皆忙しそうに外へと駆けていく。
しかし、これから防衛戦が待ち構えているのだ。忙しいのも無理は無いだろう。
特にギルマスは、冒険者の配置や指揮系統の決定などまだまだやることが残っているらしいし……大変だな。
「さて、私も行くか……」
とりあえず少しでも負担を減らせるように、聞いた内容を仲間たちにでも話しておくかな……
私はそんなことを考えながら、皆の後を追うように会議室を後にした。
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長い会議は終わりを迎えた。
その先に待つのは、シーアシラの命運をかけた防衛戦。
その結果は、如何にして結末を迎えるのか……
……事態は、動き出した。
その先にある、結末へと……
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