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異世界ふとん至上主義!  作者: 一人記
第二章

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第百三十七話『来客』



 私の学生寮の塀の上。

煉瓦造りのそれに腰掛けるようにして、見覚えのある外套に身を包んだ何者かが座っている。


発言から察するに、私の特訓を観察していたのだろう。


 その姿に私は思わず冷や汗をかく。

しかし、その声と外見を見て、私は塀上の彼女が誰であるかを直ぐさま理解して特定していた。


......これ、ニェルさんだ。

外套のフードから覗く紫色の瞳と、その銀白色の髪がとてもとても印象に残っていたので一目で分かる。


昨日の新入生説明会の時。

最初に少し話したっきりだったので、正直また話してみたいなとは思っていたのだが。まさかこんな出会い方をするとは───


......っていうか。

ちょっと今の状況、コレ、マズくないかな!??!?


「あ、あの、ニェルさん!!!

ちょっと、ちょっとお話したいことがありますので、此方に降りてきて貰えないでしょうかっ!?」


───固有スキル発動の瞬間を見られてしまった。

それを理解して、私は焦りながらニェルさんに声を掛ける。

というか、あれだけちゃんと周囲を確認してから使ったというのに、何故ここにニェルさんが......!??


 しかし、今は反省している場合ではない。

とりあえず一旦捕まえて、私はニェルさんとゆっくりと"オハナシ"しなければいけないだろう。


「ニェ、ニェルさん。絶対動いちゃ駄目ですよ......!

私が良いって言うまで、そこから絶対に動かないで下さいねっ......!」


 だからこそ、私はニェルさんに向けてそう言って、その身柄の捕獲する為にじりじりとにじり寄っていくのだが。


「......さぁ、どうだろうか?

なぜ私が君の言うことを聞かなければならないのか。甚だ疑問ではあるが?」


「い、いや、それはそうですが!同級のよしみとして、ちょっと家の中でお話しないかなーと思いまして......!?」


「......ははぁ。私たちはいつからそんな仲になっていたのか。きみは面白いことを言うんだな。ナガミカナムよ?」


 そう言って、私を嘲笑うかのようにニェルさんは嗤った。

そのニェルさんの笑みを見て、私は自分が不利な状況にいることを悟らざる負えなかった。


 うん、完全に遊ばれている。

これは確実に面白がられているタイプの笑みである。


だってその証拠に、


「ほら、私は今すぐここから立ち去ってもいいが。

この塀から降りて、魔導学園にでも走り出して、今見たこと聞いた事を全て報告しても構わないのだがな。


一体、キミはそれについてどう思うかな?ナガミカナムよ?」


 そう言ってにこりと笑いながら、私に呟いてくるのだから。

確実に確信犯である。固有スキルのことがバレたら私の身柄が危ないことを知っていての反応だったのだ。

.

「は、はははは......!

やだなぁニェルさん......、ちょっと近づいただけじゃないですか......!そんな意地悪なこと言わないでくださいよー......!」


 うん。これは不味い。不味すぎる。

その愉しそうな笑顔を見て、私はダラダラと冷や汗をかき始める。


このままニェルさんに逃げられたら、私の魔導学園での目的どころか、命すら潰えてしまう可能性がある。というか八割方死ぬ。

実験動物として研究所で飼われてそのまま殺されるだろう。俗にいう飼い殺しってやつだ。


 それは嫌すぎるので。私としても本意ではない。

こんな所で死んでしまっては、私の心の中にある超高性能ふとんの亡霊も未だ寝たきりのルフ達も浮かばれないというものなのだ。


 いや、まぁ私の心の友である超高性能ふとん君は、本当に水の中に沈んで浮かんでこなかったけども......。

私もろとも川底に沈んで異世界にゴートゥーヘルさせてきたんだけども!


しかし、私は二度とその轍を踏む訳にはいかないのだよ!


 だからこそ、私は軽く左手を掲げて。

ニェルさんに対し静かに差し向けて、比較的優しく言葉を掛けることにしたのだ。



「......私も、ニェルさんの事を傷つけたくないので。

できる限り早めに話し合いに応じて頂けると幸いなのですが───!」



 その手を見て、ニェルさんが軽く目を細めて呟く。



「ふむ。傷つけたくないか。

ならば、その手は何だ?ナガミカナムよ?」


「いや。私も、こんな所で死ぬ訳にはいかないので。

貴方が少しでも動いた瞬間、私は私の能力で貴方の首を掻っ切ります。


なので、一度、きちんとお話し合いでもしませんかね?私もニェルさんを手にかけたくは無いですので。」


「ほう......なるほどな。それで、ナガミカナム。

お前の言う通りに話し合うことで、私の命が保証される事実がどこにあるのだろうか?」



「話し合いに応じたとして、話が纏まらなかったら私の首は宙に舞うことになってしまうんじゃなかろうか?

どうだ?ナガミ───」



 しかし、私は呟こうとしたニェルさんの言葉を、出来るだけ強く遮るようにして言葉を発した。



「ですから───私も、今、ニェルさんを殺したくはないので。

出来るだけ、私の焦りが限界に達する前に、大人しく話し合いに応じてくれるとありがたいのですが。」



「......ほう?なるほどな。成程だよ。」



 ニェルさんの事を、優しく。優しく威圧してみた。

このままだと話を聞いてくれそうになかったので、私の準備が整うまでの時間稼ぎ兼軽い説得のようなものである。


......いや、流石に殺しはしないぞ。

やろうと思えば多分首を跳ねるぐらいはできるが、それをやる程私の倫理観は欠如していないのだ。


だからこそ、少し間を開けてから......それでも余裕のある表情で幾つか頷くニェルさんの姿。


そんなニェルさんの姿を中心に捉えながら、私は必死にイメージを固めていたのである。




「なので、今この状況が最大限譲歩している状態だと理解してもらえると有り難いのですが───」



 私は、超高速で打ち出されるゴム質の布団。

対人戦闘用非殺傷ふとん技である【布団弾】が、ニェルさんの土手っ腹に思い切りぶち当たる様子を。


鮮明に、鮮明に頭の中で思い描いていたのだ。


確実に一撃で決められるように、犠牲を最小限で抑えながら目的を達成するために。




「だから、ニェルさん。」


 


 そして、そのイメージが完成するまでの時間稼ぎの"オハナシ"も、ようやく終わりを迎えて───





「死にたくなかったら、塀から降りた方がいいですよ。」





確実に当たる距離までゆっくりと近づいて───





「私は容赦しませんので。この攻撃は確実に当たりますから。」





そして、私がイメージを固めていた【布団弾】を、左手から射出しようとして───




「最後の警告です。

あと、三秒以内に、私の攻撃が貴方に───」




......その、次の瞬間だった。




「......解った。分かったよ。

お前と今ここで事を荒らげるのは、私の本意ではないからな。言われた通りにしようじゃないか。」



「......へ?」


 とんと、地面に着く足音と共に。


......私は、思ったよりも聞き分けよく降りてきてくれたニェルさんの姿を見て、逆に拍子抜けして素で驚いてしまったのだった。

いや、ていうか正直いまでも信じられない。目を疑っている。だから、私は念押しするように声を掛ける。


「え?いいんですか?

なんの条件もなしにここまで降りてきてくれるんですか?マジで??」


「は?いや、お前が言っただろう?

降りてこなきゃ殺すぞと。だから降りることにしたんだが???」


「いや言いましたけど。

まさかほんとに降りてきて貰えるとは......。」


 そう呟いた私に、ニェルさんはうわ、何こいつ?みたいな目で怪訝な顔をしてドン引きしている。

いや、ドン引きされたんだが?まぁ、私も降りてきて貰えると思ってなかったのが悪いんだけど、それにしても物分り良すぎるだろう。


だって、まだ『ていうのはうそだよ〜ん(笑)』って言われて脱兎のごとく逃げられる方が信憑性高いと思ってる自分がいるもん。

だから、ふとん技も待機したままにしている状況だというのに?


「......まぁ、いい。最初にちょっとからかおうと思っただけだし。私も、五賢の青の戦闘狂とあそこまで戦える人間と、本気のやり合いなんてしたくないしな。」


 しかし、そんな私の懐疑心も裏切られる形で。

ニェルさんはやれやれというような表情で伸びをして、私の方に素直に歩いてきてくれたのだった。


うん。今日一番の驚きだった。

まぁしかし......結果オーライだし、いいの......か?


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「それで、ニェルさん。

私の学生寮に何用で来たんですかね?」


 私の学生寮一階の客室ホール。

そこに、幾つかの茶菓子と紅茶を持って入室し、待機して貰っていたニェルさんに茶請けとしてそのふたつを差し出してみる。


すると、ニェルさんは少し目線を動かした後、目を細めながら静かに紅茶に口をつけた。


「有難う、お気遣い感謝するよ。」

「あ、いえ。流石に客人ではあるので。気にしないで下さい。」


 良かった。どうやら口に合ったみたいだ。

実は、紅茶を美味しく入れられるように練習していたのだ。

私はそのことに密かに嬉しくなりながら、自らの入れた紅茶に口をつけてニェルさんの言葉を待つ事する。


「理由。理由か......まぁ、いくつかあるが。

君は、重要なものとそうでないもの、どっちから聞きたいだろうか?」


───現在、時間はお昼すぎ。

本当なら何処かの料亭にでも行って、魔導学園のご当地メニューでも食べている時間だ。


そのせいか、対面するニェルさんは少しだけ機嫌が悪そうな気もする。


いや、でも気のせいかも?

ニェルさんの表情があまり読めない......なので、私は少しだけ気苦労しながら問いの返事を勘ぐっていた。


「あの、どっちからでも良いんですか?」


「まぁ、私としてはどちらから話してもいい。

しかし、キミが私と話をしたいと言ったのだからな。

キミが決めてくれると有難いと思うが?」


「えーっと......。

じゃあ、どうでもいいやつからお願いできますか?

重要なのはちょっと怖いので。まずは触りからってことで。」


あー、待てよ?

たしか、触りって本来の意味だと話の重要な部分って意味なんだっけか。

ちょっと意味違ったか???


「───あぁ、解った。

じゃあ先ずは、重要じゃない方からだな......と言っても、本当に重要じゃない話だが。

今回、ここにやってきた理由の一割にも満たないからな。まぁ、入り前の雑談程度に聞いてもらえれば此方としては有り難い。」


......あ、良かった伝わってた。


なんて、ニェルさんが頷いてから安堵して、私は心の中で胸を撫で下ろしながらも考える。


 そういえば、この最初から私に搭載されていた異世界言葉翻訳能力も、思えば結構謎である。


 こうして自然に話している分には過不足ないのだが、もしかしたら話している内容と聞こえている言葉が違う意味になっている可能性も全然有り得るのだ。


日本の言葉が一体どこまで翻訳されるのか。

異世界の言語について、一体どこまで翻訳して、意志を相手に伝えてくれるのか。


 いつか、詳しく調べてみる必要があるだろう。


「なるほど......で、その内容っていうのは?」


そんなことを考えながら、私はニェルさんの言葉に頷いて話を進める。


「あぁ、本当に下らない話なんだが、お前の学生寮に私を入寮させて欲しくてな。どうだろうか?」


 あー、なるほど?ニェルさんも新入生だもんな?

だから、期日までに学生寮に入って生徒印を取得しなければならないから、私の学生寮に入れて欲しいと───


「って、それの何処が重要じゃないのかな!??

私にとっては超スーパー重要な話だったんだが!???」


......まさかの予想外斜め上コースだった。

すごい重要じゃないって念押して来るから、ほんとに大した事ないんだろうなって思って軽く振ってみたら超絶凄い豪速球飛んできた気分だ。


「ん?そうか?意外だな。

まぁ、とりあえず私はキミの学生寮に入れればなんでもいいが。」


「というか。その返答次第では、私はお前の固有スキルについて黙っていても構わない思っているし。

私としても、キミとしても、悪くない話ではあるんじゃないだろうかと考えているんだが。」


 そう言って足を組んで口に手を当てるニェルさん。

その優雅な姿に目を奪われながらも、今話されたことに関して私は必死に思考を巡らせる。


......ていうか、一粒で二度美味しい。美味しすぎる。

了承するだけで私の学生寮に一人寮生が増えるし、私の固有スキルを見られたの件についても解決してしまう超優良案件のお話であった。

いきなり豪速球が飛んできて驚きでバット振ったら、まさかのホームランだったみたいな。


そんな話ではあったのだが───


「......え?いや、え???

待ってください!?ちょっと待ってくださいね??!

その話って、本当にニェルさんにとってはどうでもいいこと判定なんですか!??私の学生寮に入ることはどうでもいいことなんでしょうか!???」


......しかし、それにしても刃が鋭すぎやしないかね?!

私はどうでもいい事のように振られた話題の、私への深い関係性に驚きなながらも、そこそこ傷つきながらニェルさんに問いかける。


........いや、まぁ確かに無名ではあるよ!??

出来たばかりで環境も実績もないし、学寮生私一人だから正直入るメリットないとは思うけどもっ!!!?

どうでもいいかもしれないけれどもっ!!!??


しかし、それにしても私を目の前にしてどうでもいいと宣うのはやめて欲しいがね?!??

こっちだって頑張って運営しようとしているのに、そんな事言われたら悲しくなって来るんだが───??!


そんな事を思って、ニェルさんに詰め寄る私。


「......あー、待て待て。そんなに慌てないでくれナガミカナム。

私は、お前にとっては重要じゃないって思っていただけで、私にとっては別に重要な話ではあったんだ。」


......しかし、そんな私を見てニェルさんは少しだけ引いた様に顔を顰めると、先程の言葉を弁明するようにして声を発し、そう呟いたのだった。


「......え?それってどういうことですか......?」


「いや、キミがそこまで学生寮の運営に力を入れていると思ってなくてな。見ている限り、学生の勧誘も寮の宣伝もしてなかったし、自らの学生寮の事などどうでもいいことだとばかり思っていたんだ。」


───気分を害したならすまない。素直に謝ろう。


 そう言って、頭を下げるニェルさん。

私は、それを見てぽかんと口を開けながらも......学生寮の件に関してはどちらかと言うと私の方が不覚を取っていた事を悟り、だらだらと冷や汗をかき始めていた。


 そ、そういえば......私、学生寮の宣伝とかしてなかったな......。

確かに最近、よく街中で学生寮宣伝の記事とか、生徒間での勧誘の話し声とか、学生寮に因んだご当地クッキーとか出してるのを見かけたような気がしてはいたが。


あれって、そういうことだったのか───!!!


私はその事実に思い至り、思わず頭を抱える。


そういえば、以前イヴさんの仕事を手伝った時にも、学生寮について幾つかアドバイスを受けたのを思い出す。


『いい?ながみちゃん?

各学生寮の寮生勧誘は例年ほんと激戦化してるから。ちゃんと運営する気があるなら、貴方も早めに手を打っておいた方が身のためよ?』


......そして、昨日の説明会の帰り道。

そういえば、あの青の区画で出会った魔神教の信者達も口々に何か言っていたが......!!?


『神に祈りを捧げましょう!』


『我らが魔法神、月の女神様に祈りをっ!』


───あれも、よく考えてみればそういうことだったのでは!???


「ぐぅぅぅ......!??

な、なんかお腹痛くなってきた......!!!」


 まさか、まさか私が経営戦略で出遅れていたとは......。

学生寮として運営するからには本気でやろうと思ってたのに、まさかの不覚であった。


「......ま、まぁ、やる気があるのならこれからやればいいじゃないか。

説明会からまだ一日目ではあるし。全力で勧誘すれば来てくれるかもしれないぞ?」


「にぇ、ニェルさん......!貴方、良い人すぎる......?!」


私を気遣ってアドバイスしてくれるニェルさんに、私は若干涙目になりながらも頭を下げる。

そ、そうだよな。私もこれから頑張ればいいよな?

テスト前の一夜漬け暗記追い込み並に全力で詰め込めばまだ間に合う範囲ではあるよな?!??


うん、明日から特訓と一緒に勧誘も頑張ろう......。

学寮生100人目指すんだ私。トップ学寮長として名を馳せてこの国の秘術という秘術を自らの手に掴み取るんだ私は......。


だからこそ、私はそう心の中で決心を固めながら。


少しだけ気を持ち直して───


「......あれ?

でも、なんでニェルさんは宣伝も勧誘もしてないウチに入ろうと思って、私を訪ねてきたんだ?普通別の所に行かないか?」


 当然受け入れはしているが、普通はこんなやる気のない風に見える学生寮なんか来ないだろう?

そう思って、私はふとニェルさんの目を見つめながら、疑問に思った事を問いかける。


「───あぁ、それはな。

未だ新参で、有名ではない学生寮だから入りに来たんだよ。キミの学生寮に。」


「......?どういう事だ?

有名じゃないから入るって、一体どんなメリットが......」


 しかし、とある事に思い至って。

はたと言葉を堰き止めて、思考を回し始めたのだった。


......いや、待てよ?

私は、新入生説明会でイェサイルさんに説明してもらった魔導学園の注意事項詳細を思い出してみる。


 説明会の〆で話された、

幻想戦闘領域(セクターズ・イデア)』の印象が強すぎて正直忘れていたが、確か私の学生寮にとって......新入生達にとって、重要な話が他にもあったはずなのだ。


生徒印の話、決闘システムの話、

そして魔導学園において定期的に行われることになっている、

『各学生寮対抗戦』についての話。


それらを鑑みた上で、ひとつメリットがあるとすれば───



「ニェルさん......もしかしなくても、代表選手として対抗戦に出られる、最短の道を選びに来ましたね?」


 各学生寮の3人の生徒が選出され、他の学生寮と競い合いながらトップを目指すことになる......まぁ、言ってしまえば、学生寮対抗戦はこの国のお祭りみたいなイベントだ。


 しかし、その注目度は限りなく高い。

国内だけでなく、国外の要人からも注目されるほど、新たな大魔導士の発掘現場として世間からスポットを浴びている大会なのである。

大会に出場して、そこで輝かしい活躍をすることが出来れば、色んな国からお抱えの魔導士にならないかというお誘いが来たりするのだ。


 そんな訳で、ニェルさんは私の学生寮にアタリをつけて、とりあえずの対抗戦出場を狙いに来たという事なのだろう。


なんたって私の学生寮は寮員が寮長一人しかいないので。

入った瞬間学寮内ランキング上位確定で、殆どノータイムで出場権を得られるのだ。

魔法戦に自信があるならば、これほどまでに下克上が狙える学生寮は他にないだろう。ニェルさん、目ざとい人である。


「ははっ、ご明察だ。

だから、私の思惑なんて知ったことでは無いキミにとっては、あまり重要度の高くない案件だって思っていたんだ。理解したか?」


「まぁ、確かに私にとっては重要度低いかもしれないですね......?それは理解はしました。」


 ニェルさんのルールの穴を突くような考え方。

それを理解して、私は今もにやりと笑っているニェルさんに対し、少し苦笑しながらも頷いた。


そして、用意したお茶菓子を意外にも上品な手つきで口に運ぶニェルさんの姿。それを眺めながら───



「ですが......ならば、本来の目的ってなんですか?

それは、私にとっても重要な話だって事なんですよね。今までの話の流れからして。」


 私は遂に話の本題である、

ニェルさんの云う処による"重要な目的"の方に......目線を移して、真剣な表情で問いかけたのだった。



 その、

───"私の思惑なんて知ったことでは無いキミにとっては、あまり重要度の高くない案件"ではない、私にとってもニェルさんにとっても重要度の高い案件を聞く為に。




「私の固有スキルの事よりも、学生寮の事よりも重要な事なんですよね?それって。」




ニェルさんのその、闇夜のような紫色の瞳を。




───静かに、真剣な表情をして見つめ返しながら。




「......あぁ、そうだな。そうなるな。」



「それを......話してくれるんですよね?ニェルさん?」



 静かに。

そう問い掛けたのだった。


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