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転生少年は、アイボウと『ジョウカ魔法』で恩返しがしたい!  作者: ざっきー
第一章

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第9話 領地の異変


 さらに月日は流れ、ダニエルは六歳になった。



  ダニエル・エンダイバー(六歳)

  属 性:無属性【ジョウカ魔法:浄化、浄火】

  魔力量:1,486



 魔力量はどんどん増え続け、ついに1,000を超えた。

 それに伴い、魔道具が第三形態へ進化していた。



 ◇◇◇



「ダニエル、そっちにワームが逃げたぞ!」


「兄上、お任せください!」


 地中をモグラのように這って、ワームが三匹飛び出してきた。

 見た目はミミズそのものだが、蛇ほどの大きさがある。はっきり言って気持ちが悪い。

 それでも、ダニエルは怯むことなく魔道具で対処する。

 ノズルの長い家庭用掃除機がワームたちへ襲いかかる。

 ヘッドで殴りつけると三匹はあっさりと動きを止め、ダニエルは悠々と吸引していく。

 

 魔道具が家庭用掃除機へ進化したことで、『(ノズルの先の)ヘッドで殴る』という物理的な攻撃と、小物であれば吸引も問題なくできるようになっていた。

 ただし、魔石と(毛)皮は残るのに肉は跡形もなく消えてしまうので、ホーンラビットなど食用になる魔物を狩るときは注意が必要だが。



「フフフ、今日の収入は二人合わせて金貨二枚というところでしょうか」


「ダニエル……また悪い顔をしているぞ」


「これが笑わずにいられますか。いいえ、断じて否です!!」


「私を『あにしゃま』と呼んでくれていた頃は可愛かったのに、はあ……おまえはすっかり守銭奴になってしまったな」


「兄上の憂いを帯びた顔も、なかなかのものですね」


 十一歳となったサムエルは背も伸び、天使の面影を残しつつも精悍な顔つきの少年になっていた。

 それでも、ダニエルは可愛い甥っ子を見守る叔父の気分が抜けない。

 彼の成長についニヤニヤとしてしまう。


「六歳児が、一体どこでそんな大人顔負けの台詞を覚えてくるのやら……」


「えっと……本、とかですかね?」


「なんで、疑問形なんだ?」


「ハハハ……」


 ようやく体が成長し、中身に少しだけ追いついてきた。

 語彙力が豊富なのはもちろん前世の影響だが、そんなことは口にできない。

 ダニエルは曖昧に微笑んだ。



 今、兄弟がいるのは新たに開墾した畑の一角。

 領民へ引き渡す前に、地中に潜むワームを殲滅するため二人は出張ってきていた。

 

 サムエルとダニエルの力が合わされば大人一人分の働きができ、十分な戦力となる。

 従者の数が少ない片田舎の男爵家では、領主の息子であろうと現場に出るのは当然のこと。

 特にダニエルは、半年後に迫った兄の王立学園入学のための資金を稼ぐために、毎日喜んで参加をしているのだ。


「ダニエルは『もっと金を!』と言うが、もう学園用の金は準備できているぞ」


「いいえ、まだまだ不十分です」


「あれだけ稼いだのに、まだ足りないというのか?!」

 

 サムエルの顔が、驚愕の表情で固まる。


 昨年、王太子と隣国の第一王女の婚礼の儀でお披露目されたスパイダーシルク製のウエディングドレスは、その美しさから大きな反響を呼んだ。

 評判は国内にとどまらず隣国の貴族へも広がり、その後、結婚を控えた貴族令嬢たちが挙(こぞ)って同様のドレスを求める事態となった。

 

 エンダイバー領へは凄まじい勢いで繭の洗浄依頼が殺到し、父や兄が連日対応にてんやわんやする中、ダニエルだけが稼ぎ時とばかりに嬉々として作業をしたのだった。


「あのお金は領の予備費として、いざという時のために貯めておくことになりました。僕としては、その一部で王都にエンダイバー家の屋敷を買ってもいいと思っていたのですが……」


 これは冗談ではなく、ダニエルは本気で考えていた。

 

 学園へ通う三年間サムエルは王都で生活をするが、王都にエンダイバー家の屋敷(タウンハウス)はない。

 寮費(食費を含む)を支払って、学園の寮に住むのだ。

 

 それだったら、いっそのこと王都に家を買ってしまえばいいのでは?

 これは無駄遣いではなく、兄のための必要経費である!

 

 ダニエル身魂(しんこん)のプレゼンだったが、この安易な提案は当然のことながら父と兄から即却下されてしまった。



「おまえは、うちの領地が他領から何と呼ばれているか知らないのか? 『スパイダーシルク領』だぞ」


「アハハ! そのまんまですね」


 誰が名付けたかは知らないが、何の捻りもないネーミングセンスに吹き出してしまう。


「田舎の領地が急激に発展したのは、お抱えの魔導士か冒険者がた(・)ま(・)た(・)ま(・)特殊魔法の使い手だったからで、た(・)だ(・)運が良かったのだと」


「……なるほど、ただの妬みですか」


「そんな中、王都に屋敷を購入すれば、次は何を言われることか……」


「きっと、『スパイダーシルク御殿』と言われますよ」


「…………ププッ、ハッハッハ!」


 「そのまま、だな」と楽しそうに笑う兄の顔を見ていると、モヤッとした気分もすぐに晴れる。

 ひとしきり笑ったあと、サムエルは表情を改めた。


「ダニエルにばかり働かせるわけにはいかない。私も勉強の合間に王都で冒険者として活動し、少しでも生活費を稼ぐつもりだ」


「兄上には、経済的な負担を一切かけたくありません。勉強だけに集中できる環境を整え、父上のような立派な領主になっていただくためにも」


 ダニエルとしては、サムエルが学園に行ったあとも仕送りをするつもりなのだ。

 ラノベでは、学園で田舎出の貴族が経済的な理由で馬鹿にされる描写が多くあった。

 天使の兄が都会のモブ貴族に絡まれるなど、弟として断じて容認することはできない。

 

 できるだけ多くの金を準備し、身の回り品はそれなりの物を購入してもらうことは(ダニエルの中で)決定事項。

 そのための資金調達方法も、シルクスパイダー関連以外の手段ですでに確立済みだ。


 ケビンから提案された『繭の洗浄だけを請け負う』という発想は、ダニエルには考えもつかなかった。

 聞いたときは、まさに目から鱗。

 繭を吸い込んで取り出すだけの簡単な作業で、銀貨ががっぽり稼げる濡れ手で粟(あわ)の素晴らしい仕事だった。


 家庭用掃除機に進化した後は、ダニエルが吸引できるようになったホーンラビットだけでなく、サムエルが仕留めたものも一度魔道具で吸引し洗浄してから買い取りに出すことにした。


 魔道具で洗浄された(毛)皮は汚れ一つなく、手触りも良くなる。

 なにより臭いが除去されるため、こちらも驚くほど高く買い取ってもらえた。

 スティーブによると、王都の富裕層向けの商品に使用されているとのことだった。


「来週、入学準備のために王都へ行くのですから、お金はいくらあっても困ることはありません!」


 サムエルが王都へ行くのは初めてのこと。

 父のミヒャエルと共に、入学の手続きと買物をする予定となっている。

 同行するのは、護衛として騎士団から団長のジェラルドと部下が一人。御者と雑務を務める使用人が二人。

 ダニエルは、執事のクリフォードや副団長のマティアスたちと領地で留守を預かる。


「町の整備も進み、領地は少しずつ発展してきている。学園へ通うのも、経済的な不安はほとんどない。すべて、ダニエルの(魔道具の)おかげだ。本当にありがとう」


 片田舎ではあるが、町を整備したおかげで住みやすさが向上し、近隣から移住する住民が増えてきた。

 急いで開拓地を広げ、住民へ土地の貸与を進めている。

 同時に、防璧の改修と新たな設置も進んでいた。

 

「僕は、父上と兄上に命を助けてもらったのです。恩を返すのは当然です」


「いやいや、釣りが大量に出るくらい、もう十分返してもらっている。それに……」


「それに?」


「私も、兄としてカッコイイ姿を見せたいのだ。冒険者として稼いだ金で、家族に王都の品を贈るとかな」


「ふふふ、それは楽しみですね。まあ、兄上は今のままでも十分『かっちょいい』ですけどね」


 サムエルが王都の学園へ行ってしまうのは正直寂しいが、長期休暇には必ず領地へ戻ってくると言う。

 兄が不在の間は、代わりに自分が父を支えていく。

 まずは、来週から王都へ行く二人の代理として、領主一族の一員として、ひと月の間しっかりと領地を守る。


 ダニエルは、決意を新たにした。



 ◇◇◇



 留守をあずかるダニエルだが、何事もなく三週間が経過していた。

 

 まだ六歳の身では当然執務をすることはできず、屋敷の中のことは執事のクリフォードが請け負ってくれている。

 騎士団に関しては、副団長のマティアスがいるため問題はない。

 ダニエルはいつものように、開墾地に出る魔物を狩って金稼ぎに勤しんでいた。


 王都へ行った父と兄は、そろそろ帰路につく頃だろう。

 土産は何だろうか。楽しみでしょうがない。

 そんなダニエルのもとに、ある報告が届いたのは、翌日のことだった。


 執務室でマティアスからの報告を聞いているのは、ダニエルとクリフォードだ。


「魔物の数が増えている?」


「はい、草原に出没する小物ですが、その数が明らかに多すぎます」

 

 子供のダニエルでも狩れるホーンラビットやスライム。その他の小型の魔物が、昼間の草原に数多く姿を現しているという。

 領民やランクの低い冒険者たちは、稼ぎ時とばかりに張り切っているらしい。

 しかし、マティアスは危機感を持っているようだ。


「開墾作業の影響なのか?」


「いいえ、違います。新しく広げられた土地は、魔物が生息していない(住処のない)場所を慎重に選んでおります」


 父からも、開墾後のことを見据えた上で慎重に場所を選定しているとダニエルは聞いていた。

 開墾は先祖代々少しずつ行われてきたこともあり、これまでこのような現象が起きたことはないとのこと。

 

 となれば、考えられることは一つだけ。


「森の中の生態系が崩れたのかもしれないね。たとえば、他所から強力な個体が移動し、他の魔物が住処を追われたとか……」


「私も、その可能性が高いと考えております」


「一度、森の詳しい調査が必要だね」


「冒険者ギルドへ調査依頼を出してもよろしいでしょうか? 我々(騎士団)よりも、彼らのほうが森を熟知しており適任かと」


「そうだな。父上に代わり、僕が許可しよう。少額であれば、金銭使用の許しは得ている」


 マティアスへは冒険者ギルドへの依頼を。クリフォードへは依頼料の手配を任せる。

 

 森に異変がなければ、それでいい。

 懸念や憂いは、早めに断(た)っておくに限る。

 ダニエルは即断即決した。



 ◇



 三日後、早くも報告書が届く。

 それは、ダニエルたちの想定を超えた事態だった。 




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