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俺の人生、サービス終了まであと六日らしい  作者: みき


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13/21

五日目 ①

 朝、目を覚ました時から、悠真は美月のことを考えていた。


 昨日の電話。


 二時間十二分。


 高校時代の好きだった人の話。


 そして最後に交わした、


「また明日」


 目覚ましを止めてから、しばらく天井を見上げる。


 美月から連絡が来るのを待つ。


 いつもなら、そうしていたと思う。


 けれど昨夜は、自分から連絡すると言った。


「……ちゃんとする、か」


 布団の中でスマートフォンを開く。


 まだ七時前。


 さすがに今送るのは早い。


 悠真は一度画面を閉じた。


 顔を洗い、朝食を食べ、着替える。


 家を出る直前。


 もう一度スマートフォンを見る。


 今ならいいだろう。


『おはよう』


 送る。


 数秒で既読になった。


『おはよう』


 思ったより早い。


『起きてた?』


『今起きた』


『早いな』


『悠真から連絡くるかもって思ってた』


 指が止まる。


『昨日言ったから』


『覚えてたんだ』


『信用なさすぎ』


『六年分あるから』


『またそれ』


 美月から笑っているスタンプが送られてくる。


 そのあと、少し間が空いた。


『今日も仕事終わるの同じくらい?』


『たぶん』


『じゃあ』


 そこで一度、メッセージが途切れた。


 悠真は待った。


 昨日までなら、美月が続きを送ってくるのをそのまま待っていただろう。


 今日は、自分から打った。


『今日会える?』


 送信。


 送った直後、少しだけ緊張する。


 ただ会うだけ。


 ここ数日毎日会っている。


 それなのに、自分から誘っただけで、今までとは違う気がした。


 美月の返事はすぐだった。


『会えるよ』


 その下に、


『悠真から誘った』


 と続く。


『そんな珍しい?』


『かなり』


『じゃあ取り消す』


『だめ』


『冗談』


『知ってる』


 悠真は笑った。


 駅へ向かって歩きながら、スマートフォンをポケットにしまう。


 今日は昨日より少しだけ気分が軽かった。


 会社に着く。


 席へ座ると、田中がこちらを見る。


「水瀬」


「何ですか」


「いいことあった?」


「何でですか」


「今日は朝から顔が明るい」


「そんな変わらないですよ」


「例の子?」


「何で全部そこにつなげるんですか」


「当たってるから」


 悠真は返事をしなかった。


 田中はそれを見て笑う。


「昨日は?」


「電話しました」


「何時間?」


「二時間くらい」


「それはもう普通の同級生じゃないだろ」


「昔から電話してたんですよ」


「今は高校生じゃないぞ」


「分かってます」


「で、今日も会う?」


「……会います」


「ほら」


「何がほらなんですか」


「ちゃんと進んでるじゃん」


「何がですか」


「自分で考えろ」


 田中はそう言って仕事へ戻った。


 悠真もパソコンを開く。


 仕事を始める。


 けれど、いつものように集中できないわけではなかった。


 むしろ今日は不思議と仕事が早く進んだ。


 やることを片づければ、美月に会える。


 そのことが頭のどこかにあった。


 昼休み。


 美月からメッセージ。


『今日何食べたい?』


『何でもいい』


『それ一番困る』


『前に美月が言ってた』


『じゃあ今日は私が決める』


『お願いします』


『また洋食でもいい?』


『いいよ』


『じゃあこの前とは違う店探す』


『了解』


 やり取りが自然になっている。


 数日前まで、六年も連絡を取っていなかったとは思えない。


 悠真はふと思う。


 もしあの日、駅前で会わなかったら。


 美月とこうして毎日話すこともなかった。


 高校時代に好きだった気持ちも、そのまま昔のものとして残っていたはずだ。


 人生は、何がきっかけになるか分からない。


 そんなことを考えながらスマートフォンを置く。


 午後。


 社内の一部システムがまた重くなった。


「またか」


 田中が画面を何度かクリックする。


「最近多いですね」


「機械も疲れてるんじゃない?」


「田中さんみたいに?」


「俺はまだ元気」


「昨日早く帰ったじゃないですか」


「娘との約束だから」


「お風呂入れました?」


「入った。来年も入ってくれるかな」


「まだ六歳ですよね」


「子供は急に成長するんだよ」


 田中は少しだけ寂しそうに笑った。


「今できることは今やっとかないとな」


 悠真はその言葉を聞いて、少しだけ手を止めた。


「何?」


「いや」


 田中は気づいていない。


 悠真自身も、なぜその言葉が引っかかったのか分からなかった。


 今できることは、今。


 それはきっと普通の話だ。


 悠真は仕事へ戻った。


 午後五時四十分。


 今日は残業しなくて済んだ。


 パソコンを閉じる。


「じゃあ行ってきます」


 悠真が言うと、田中が笑う。


「今日は報告しろよ」


「何を」


「知らん」


「毎回それじゃないですか」


「じゃあ、ちゃんと言えたかどうか」


「何をですか」


「それも自分で考えろ」


「意味分かんないですよ」


「そのうち分かる」


「またそれ」


 田中は笑いながら手を振った。


「じゃあまた明日」


「はい。また明日」


 悠真は会社を出た。


 駅前へ向かう。


 今日は、美月が待っている。


 そう思うだけで、歩く速度が少しだけ速くなった。

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