登場人物・用語紹介
◆ 鈴
本作の主人公。十五歳。捨て子として拾われ、とある屋敷で下働きとして暮らす娘。
触れた物に宿る念——その物に強く残された記憶や、持ち主が最期に味わった想い——を、手のひらから読み取ってしまう力を持つ。生まれつきのもので、自分では制御できない。とりわけ人が死に際に握ったものに触れると、その死の瞬間を我がことのように味わわされ、飲み込まれてしまう。
そのため常に手へ布を巻き、素手で物に触れぬよう生きてきた。屋敷の者からは「憑かれた娘」「物の怪憑き」と疎まれ、墓掘りや死人の片づけなど、誰もやりたがらない仕事を押しつけられている。
本当の名も、生まれた里も、親の顔も知らない。臆病でいつも俯きがちだが、人の痛みや想いを人一倍鋭く感じ取る心を持つ。
※自らが「絶えた一族の最後のひとり」であることを、物語の冒頭ではまだ知らない。
◆ 登世
鈴の暮らす屋敷の、年老いた女中。物語の冒頭で、夜のうちにひとり息を引き取る。
身寄りがなく、長く屋敷の隅でひっそりと暮らしてきた。「憑かれた娘」と疎まれる鈴に、屋敷でただひとり、とげのない態度で接していた人物。念に飲まれてうずくまる鈴の背を黙ってさすり、そっとにぎり飯を置いていくこともあった。鈴にとって、ただひとつの優しさだった。
その死の間際、最後に案じていたのは自分の命ではなく、「あの子を逃がさねば」という、見も知らぬ子への想いだった。
※その荷の底に、貝細工の櫛と、鈴の出自にまつわる秘密を隠している。
◆ 城から来た侍
物語の冒頭、城からの使いとして屋敷に現れる、羽織姿の侍。
鈴の手にした貝細工の櫛を目にした瞬間、長く探し続けたものをついに見つけた者の目を向ける。鈴の出自と血筋を知る、最初の手がかりとなる人物。
ただし、その目的が鈴を守るためなのか、それとも別の何かのためなのかは、まだ明らかではない。
※名は柊数馬。第一話の時点では明かされない。
◆ 赤子を託した女
雨の夜、布にくるんだ赤子を登世に託した、若く身なりの良い女。指を震わせ「この子の血筋を、決して誰にも」と言い残して去った。
赤子の襟もとには、貝細工の櫛が挿されていた。鈴が念の中で視た、最も古い記憶のひとつ。
※その正体と、鈴との関わりは、物語の核心に触れる謎。
◆ 貝細工の櫛
鈴の出自を結ぶ、ひとつの形見。
雨の夜、託された赤子の襟に挿されていた品。古いが、ひと目で上等とわかる細工が施されている。同じ櫛を、城から来た侍もまた探している。
◆ 絶えた一族
かつて在り、いまは絶えたとされる血筋。
鈴が受け継いだ「念を読む力」は、この一族にのみ伝わる特異な才の片鱗であるらしい。
なぜ一族は絶えたのか。なぜ鈴は平民として隠され、育てられたのか。そして、誰がいまもその血を追っているのか——物語が少しずつ解き明かしていく、最大の謎。




