260.
部屋に戻ると、シモンがすでに寝る体勢になっていた。
しかもいくつか残っていたお菓子がテーブルから消えている。
「シモン、お菓子を食べた事は怒らないから、情報のすり合わせはお前も聞け」
「いやぁ、団長がいつ戻って来るかわからなかったからさぁ、藍之介に清浄魔法かけてもらって寝ようとしたんだよ」
怒らないと聞いて、明らかに安堵の表情でベッドから這い出てきた。
しっかり情報共有しておかないと、こいつはまたうっかり口を滑らしそうだからな。
先に藍之介に烈陽から仕入れた話を伝え、話した事以外で分かった事を話してもらう。
「移動中に東宮と雪瑤から聞いたのは、雪瑤は丞相の娘で、東宮からすると母方の従姉だそうです」
丞相という事は、宰相の娘と同じか。
イメージしやすいのは、諸葛亮孔明だな。
皇帝の側近の姉妹を皇后にするとは、かなり信頼していると見た。
「普通なら権力が偏らないように、丞相の身内を皇后にするのは避けると思うが……。貴族の力関係はわかるか?」
「いいえ。東宮がまだ幼い事もあり、あまりその辺りは把握していないようでした。ただ……、雪瑤の父親が東宮との結婚を望んでいるそうですが、本人達にその気はないと」
「まぁ、ずっと一緒にいたら姉弟の感覚だろうし、実際従姉弟だしな。皇族は近親婚が多そうだから本能的に忌避感があるのかもしれない」
「近親婚でなぜ忌避感が? 同母の生まれでなければ問題ないでしょう?」
藍之介の言葉に俺とシモンの動きが止まった。
当人は不思議そうに首を傾げている。
ここにきてまさかの文化の違いが発覚するとは。
だが、エルフは同じような顔をしていたし、人数も限られているからそれが当たり前なのか?
「エルフはどうなのか知らないが、人族で近親婚が続くと問題が起こるんだ。たとえばひとつの病気で一族全員が死んでしまうとか。植物でもそうだろう?」
それだけじゃないが、二人に説明する分にはこれでいいだろう。
「へぇ~、そんな事になるのか。ただ気持ち悪いだけかと思ったぜ」
何も考えていないシモンの意見は、それこそ本能的に忌避しているのだろう。
お前は野生でも生きていけそうだな。
「我々エルフの場合は、そういう事態を避けるために里が点在しているのでしょう。千年に一度は百歳以上の者が他の里を訪問するという決まりもあるようですし。大抵はそのまま訪問先の里に住みつくようですが」
もしかしたらそれが全滅しないための保険なのだろうか。
住む場所が違えば耐性も変わるだろうしな。
「実際藍之介もよそ者の蘭を気に入って傍に置いていただろう? 里のエルフより惹かれたんじゃないか?」
「ぐ。……確かにそれは否めませんが、それだけでは……ないと……」
モゴモゴと言い訳じみた事を言っているが、胸の大きさに惹かれました、なんて言えないだろう。
藍之介が巨乳派なのは間違いないな。……コンスタンはしっかり団長をしているだろうか。
「そ、そういえば十二歳になった皇族の直系だけが入れる区域が城にあると! 現在は皇帝と正室の子である東宮の姉のみらしく、東宮は早く自分も入りたいと言っていました」
藍之介は話題を変えようと言ったのだろうが、今のは黄龍が封印されている場所の事じゃないか?
「それはかなり極秘扱いされている情報なんじゃないか?」
「そうでしょうね。言った瞬間、東宮が雪瑤に叱られていました。雪瑤も何があるかは知らないようでしたし」
「とりあえずまだ都まで先は長い。東宮の護衛なら城の噂なんかも色々知っているだろうから、この先も怪しまれない程度に情報を集めていこう。移動中は立ち寄った場所で蘭の情報もな。幸い魔力持ちはかなり珍しいようだから、魔力を使った人物の情報を集めれば見つかる可能性が高い」
「わかりました」
「へーい」
防音魔法を解いても静かだったため、俺達も就寝する事にした。
◇ ◇ ◇
[SIDE ???]
「はぁはぁ、やっと人がいる場所に来た」
ジュスタン達が驛で眠りについた頃、数日前にジュスタン達が立ち寄った村に到着したのは金髪緑眼のエルフの男性。
エルフの里の服装ではなく、黄鱗帝国の商人のような格好をしている。
街中であればおかしくないが、こんな店と言える店もないような場所には不釣り合いな格好だ。
男は自分に隠蔽魔法をかけると、迷いない足取りで村に入り、村で一番大きな村長の家へと向かった。
耳を澄ませば戸を開ける音や足音が聞こえたかもしれないが、他の家と同じく隙間風が常に吹き込み、小さな音は風で鳴った音だと誰もが思う。
それがわかっているかのように、無遠慮に台所まで侵入した男は、家人が少なくなったのは勘違いだと思う程度の食料を魔法鞄に収納した。
(この汚い水瓶から水をいただくより、自分の魔法で出した水の方がいいか)
辺りを見回したが、最低限の物しかなく、ひとつでもなくなったらすぐに気付かれてしまうような物しかない。
男は入って来た時と同じように、静かに家から出て牛の餌の干し草が大量に置かれた小屋へと入り込んだ。
「あいつらに見つからないように痕跡を残すわけにもいかないから、色々不便だわ……っと」
長年使い続けた言葉遣いがうっかり出て、手で口を押さえる。
(人族の身体に入っても魔力が使えれば、黄鱗帝国民の身体を使えたのに)
くすねてきた食料で腹を軽く満たし、男は干し草に入り込んで眠りについた。
誰かはバレバレw




