257.
「こほん。烈陽は邪神討伐の話を聞いた事があるか?」
「ああ、どこかの王国で世界を滅ぼす邪神が復活したのを、その国の王子が聖女と共に討伐したとか」
よし、それならどうとでも誤魔化せる。
「俺とシモンはその討伐隊として同行している」
「ええっ!? 凄いじゃないか! やはり王子は凄い筋肉か!? 聖女は美しいのか!?」
喰い付きがよすぎるだろう。
「王子の筋肉はシモンくらいだろう。聖女は美しいというより、可愛い見た目だな」
「ほぉぉ。意外に細身なのだな! それで邪神を討伐したとは、本当なのか!?」
聖女より王子の筋肉の方に興味があるのか。
シモンを下から上まで舐めるように見ながら眉根を寄せている。
脳筋だとは思っていたが、あれか、筋肉フェチというか、筋肉を育てているタイプのようだ。
「王子と聖女だけの力ではないが、あの二人がいなければ討伐は難しかっただろう。その邪神の復活に古竜が養分として囚われていた。実際邪神はその古竜とよく似た姿にもなっていたしな」
「その古竜は今どこに!? 鱗の一枚でもいいからほしいなぁ……」
うっとりと宙を見る烈陽の様子に、シモンは何かに気付いた顔をした。
さっきまで頭を押さえながら恨みがましく睨め上げていたが、しおしおと反省したように俯く。
ここにきてやっと従魔契約の件だけでなく、ジェスとジャンヌの存在自体を隠さなければならないと気付いたようだ。
今夜の藍之介との情報のすり合わせの時に、神託の夢の話も一緒にしてやろう。
聞いたら、もっと早く話してくれればと文句を言うかもしれないが。
まだ痛むであろう、手の近くにあるシモンの頭をワシワシと撫でる。
「残念ながらどこにいるかは知らないな。ラフィオス王国の山脈のどこかにいるかもしれないが、人族が足を踏み入れた事がないような場所だろう」
嘘は言っていない。
実際ジャンヌの巣には行った事がないし、ドワーフの集落から歩ける距離じゃなさそうだったしな。
「ハッ! という事はもしかして、黄龍の伝説は本当だった可能性があるのか! 案外城の宝物庫に鱗があったりして……。将来的に武勲を立てて褒美がもらえるなら、鱗を賜って剣を造ってもらえたら家宝として代々伝えるのに!」
両手を握りしめて力説する烈陽と、俺の剣を交互に見るシモン。
やめろ、万が一にでもドラゴンの鱗を使った剣とバレたらどうする。
だが、さすがに言ってはまずいと理解したからか、シモンが口を開く事はなかった。
その後、烈陽の声で東宮が目を覚ましたと、雪瑤から叱られたようだ。
どうせ馬車の中でも寝ようと思えば眠れるのだから、いいと思うのだが。
出発時と同じ護衛位置に戻り、一行が動き出すと、シモンが周りに聞こえないように声を潜めて話しかけてきた。
「なぁ団長、オレがジェス達の事話そうとした時に止めたのって、素材としてジェス達が狙われるからか?」
「その可能性もあるが、それより……。いや、ここで話すのはやめよう。夜に防音魔法を使って藍之介も交えて話した方がいい。それまで待て」
「夜までお預けかぁ」
「いっそ香蓮府に到着する前に話しておけばよかったと後悔しているところだ。お前が余計な事を言わないようにな。何度も心臓が縮む思いをしたぞ」
「団長の心臓が!? あはは、ないない、それはない」
無表情のまま笑っているシモンを見つめてやると、ピタリと笑うのをやめて心臓の上に手を置く。
「今、オレの心臓が縮んだ」
バカな事を言うシモンを無視して、警戒するために周りを見回す。
道中にある集落の周りは、基本的に肥沃な大地で作物が育てられていた。
何と言うか、飢えた民を見かけない。
これも黄龍の力を使っているせいなのだろうか。
飢える者がいないせいか、野盗が出る事もなく、陽が傾く頃にそれなりの町に到着した。
一時間ほど前に伝令が先行したからか、門の前には出迎えらしき者が数人待っている。
「お待ちしておりました。すぐに食事ができるように準備しておりますので、どうぞこのまま驛の方へいらしてください」
えき? 道の駅的な物か?
後で烈陽に聞いてみよう。
門をフリーパスで通過し、迎えの者が乗る馬の先導で移動する事数分、立派な屋敷に到着した。
香蓮府の屋敷に比べると簡素な造りと言えるが、周辺の家に比べれば大豪邸だ。
「東宮様、今夜滞在する驛に到着しました!」
到着したのなら、陣形を崩しても大丈夫だろう。
馬で烈陽の近くに移動する。
「烈陽、えきとは何だ? この屋敷の事か?」
「ん? ジュスタンの国には驛がないのか? 皇族や王命で移動する者や、他国の使者などが移動の際に宿泊する公的な施設だな。だから朝出発して日暮れまでに到着する場所に造られているんだ」
「なるほど。という事はこの先都に到着するまでは、各町にある驛に宿泊するわけか」
「そういう事だ。まぁ、大きな都市であれば、陛下や他の皇族の屋敷があったりするけどな。特に滞在しても面白くない、長く滞在しないような町にあるのが驛というわけだ」
移動にひと月ほどかかるなら、三十近い驛があるのか。
維持費を考えるととんでもない額になりそうだな。
そんな無駄遣いをしても問題ないほどに潤っているという事か。
さて、すでに食事の準備はできているという話だったし、あと少しで自由時間になるだろう。
馬車の中で藍之介はどれだけ情報を仕入れられたか楽しみだ。




