254.
「少し飲み過ぎたか……」
目を覚ますと見覚えのない天井が視界に入った。今、この部屋の中は絶対に酒臭いだろう。
昨夜は二時間ほど飲み食いした後に、各自用意された部屋に案内されたのは覚えているな、うん。
ベッドの横の台に着替えが置いてある。
烈陽達が着ていた黒装束のようなので、護衛の話は決定事項のようだ。
仕方なく着替えてみるが、服の造りが和服とも違ってよくわからない。
これは紐の付いた巻くタイプのプリーツスカートに見えるが……。
東宮の護衛の誰かを呼んで、着方を聞いた方が早いな。
上半身は何とかなりそうだ。既視感があると思ったら、紐で縛る位置がベビー肌着と同じだった。
懐かしいな。
昨日見た烈陽達の服装を思い出しながら、パズル感覚で着付けをしていく。
この筒状のやつは腕だな。袖口がキュッとなっていたのはこれのはず。
袖が短めだから、別になくてもいい気はするが、制服として揃えてあるのなら仕方ない。
下半身が無駄にヒラヒラしている気がするが、これは様式美なのか、それとも剣道の袴と同じで足運びを見られないようにするためだろうか。
もしかしなくても、ズボンがないのか?
妙に短いし、スースーするから隊服のズボンを中に穿こう。
靴もサイズがなかったのか、ちょっと小さいから自前の靴でいいな。
「騎士団の服が黒でよかった」
ん? もしかして烈陽達のスカート(?)の下はパンツだけか?
いや、褌かもしれない、ノーパン……なんて事はないよな?
気になるが、わざわざ聞くほどの事でもないし、忘れよう。
『おはようございます、主様。起きていますか?』
「ああ、起きている。入っていいぞ」
「失礼します」
隣の部屋に案内されていた藍之介が来た。
俺と違って制服のサイズはちょうどよさそうだ。
そうか。黄鱗帝国民の体格があまり大きくないせいで、俺とシモンのサイズがなかったのかもしれない。
「おはよう。その下、どうなってる?」
あ、思わず疑問が口をついて出た。
俺の視線は藍之介の下半身。
藍之介は俺の足元を見て、ズボンを穿いているのを視認した。
「褌だけですが、私が持っているのは袴になるので、この衣と重ねて着るには動きづらくなるかと」
「……ッ! そうだな、確かに袴だとゴワゴワして動きづらくなるだろう」
危ない、噴き出すところだった。
いや、和装だからわかってはいたが、改めて藍之介の見た目で褌を身に着けているって言われたら笑うだろう!
『団長~』
その時、寝起きと思われるシモンの声がした。
「入れ」
「団長、藍之介、おはよう。あのさぁ、これ着方がわかんねぇんだけど。スカートだけでズボンもねぇし」
一応チャレンジはしたのだろう。一度広げて適当に掴んできたと言わんばかりの状態で制服を手に持っている。
俺が脛までの長さだから、シモンでも足首が丸見えくらいには寸足らずになるだろう。
「恐らくお前も長さが足りないと思うぞ。だから俺は騎士団のズボンを穿いている」
「そっか、団服使えばいいのか! 用意された靴も小せぇしよ。……そんで、これどうやって着るんだ?」
「……俺も適当に着ているが、それでよければ着せてやる。よこせ」
「お願いします!」
とてもいい返事で制服の塊を押し付けられた。
俺が着たやり方で着せていくと、感心したような声がシモンから漏れる。
「あ~、なるほど、浴衣と似てるとは思ったんだよな。ああ! その穴はそのためにあったのか! 団長に服着せてもらってるところなんて、ジェスに見られたら笑われそうだよなぁ。ありがとな、団長。このままじゃスースーするから俺も自分のズボン穿いてくる!」
ひと通り着せ終えると、シモンは脱いだ夜着を抱えて自分の部屋に戻って行った。
騒がしい奴だ。
自分達の荷物は魔法鞄に片付け、部屋を出る。
その時ちょうど烈陽が姿を見せた。
「ジュスタン殿、藍之介殿、おはよう! よく眠れたかな? 今日からよろしく頼む。まずは朝食にしよう」
「朝飯!?」
朝食、という言葉に、シモンが部屋から飛び出して来た。
「ははっ、準備はできているから、すぐに食べられるぞ。それにしても、三人共ウチの制服が似合うな。ん? 二人は下に袴を穿いているのか。一番大きい裳でもやはり寸足らずだったようで悪いな!」
『袴』が何かわからないが、ズボンの事だろうか。
『裳』はたぶん巻きスカートの事だとは思うが……。
首を傾げていたら、藍之介が口を開いた。
「主様、袴というのは彼らの下着です。主様が穿いているような造りではなく、股の部分がありません。烈陽、主様とシモンが穿いているのはズボンという物です」
「「「え」」」
俺とシモン、そして烈陽の声がハモった。
ズボンに股の部分がないのに下着って、それは下着としての機能を果たしているのだろうか。
ちなみに、烈陽は好奇心旺盛らしく、シモンのスカートめくり(?)をしてズボンの形状を確認している。
「ああ、昨日着ていた物と同じか! 確かに動きやすそうだが、裳がないと足運びが丸見えになるだろう。しかし、馬に乗る時はこの方がよさそうではあるな。今度上と相談してみるか」
烈陽はしゃがんでシモンの裳の中を覗きながら、顎に手を当ててブツブツと考え込んでいる。
「いい加減放せよ! なんか知らねぇけど、めくられてるのがすっげぇ恥ずかしい!」
「もういいだろう。食事をしに行こう」
朝からくだらないものを見せられ、俺は烈陽に朝食を催促した。
Xにて四巻の書影公開中でございます!
なんと!
ジュスタンの腹筋が! 腹斜筋が見られます!!




