村の入り口
「待てこらぁぁぁぁぁぁああああごぶぁ!?」
森に響く怒涛の叫びの直後、情けない声が途中で混じり俺は頭から転倒する。
それをあざ笑うかのように俺の前にいたイノシシは脚で俺に土を被せると草むらへと走り、その姿を消した。
俺はかけられた土を払い落として先ほど消えていったイノシシの方向に顔を向け、叫ぶ。
「土かけられた!!絶対あいつ舐めてやがる!!くっそ!!許さん!!」
俺はそう言い地団駄を踏む。
その後顔を下に向け、俺は考える。あの舐めたイノシシを狩る方法を。
そして数秒後。
ピコン。
そんな電気がついたように唐突にアイデアが頭に響き、俺は口元をニヤつきせる。
《........卑怯ですね。》
俺の頭の中の事が分かっているナビがそう呟くが、
「いやいや、ナビさん。これが人間のやり方だよ。」
俺がヒッヒッヒ。と笑い声をあげるとナビは溜息をつく。
それを気にせず俺は足に力を入れて先ほどイノシシが走っていった方向に目を向ける。
ナビの力の一つ。【ロックオン】により先ほどのイノシシの場所は特定できている。
俺は息を吐き出し、息をいっぱいに吸う。そして。
「いくぞ。【パワー・オブ・ザ・キング】足を強くしろ。」
そう独り言のように呟き、地を蹴る。直後、俺の足には人では不可能なほどの脚力の上昇が見られ、俺の通った跡には草木が激しく揺れた。
それから数秒もせず、すぐさまイノシシの目の前へと俺が移動するとイノシシは唐突な出来事に体を硬直させる。
「追いついたぞ........肉!!」
俺はイノシシの弱点に向かってチョップを叩き込み気絶させた。
それを見てナビが再度溜息をつく。
《本当に........卑怯ですね。》
それから数分して、俺はルミゲルとグリが待つ木々が拓けたところに辿り着いた。
「遅いぞ悠人!!」
ルミゲルが作ったのだろうか、俺が居た時は無かった木のテーブルと椅子にルミゲルとグリは座り、皿をカンカンと鳴らしていた。
「まだ料理も出来てねえのに準備し過ぎたお前達は。せめて何か手伝ってくれよ。」
「無理じゃ!!儂は腹が減った!!」
おい。とツッコミを入れるのも疲れている俺はそのまま近くの川の近くにイノシシを置く。
そのまま俺はイノシシを持っていた包丁で解体していく。
《...手馴れていますね。》
「あぁ。前の世界で爺ちゃんと昔にサバイバルキャンプってやつに行ってね。リアルを追求していたキャンプで、狩りも料理も二人で協力しないといけなかったからそこで覚えちゃったんだ。」
俺は手を緩めずに感心しているナビの言葉を返す。
それとともに昔の爺ちゃんのことを思い出し苦笑する。
俺の爺ちゃんはとても元気のある人だった。暇さえあれば俺を遊びや楽しいことに誘い、俺がいない時は俺の兄妹や爺ちゃんの友達と体を動かしたり、と兎に角俺が好きな人物だった。
小さい頃のことはほとんど覚えていないが、爺ちゃんの自画自賛武勇伝劇場なら覚えている。爺ちゃんが昔していたことを俺に色々と語ってくれた。
世界を救っただの、力を持っていただの、今考えればしょうもない話だが、俺はそれを聞き入り、それを楽しそうに、懐かしそうに話す爺ちゃんの顔が好きだった。
俺がもしこの世界から戻ったら、爺ちゃんに色々と土産話でも聞かせてあげよう。
こない希望を祈った直後、唐突に言われたナビの言葉が思考を遮った。
《ご主人。ご主人が異世界の転生者であることは出来るだけ口にされないことをお勧めします。》
え?なんで?
俺は久し振りに、頭の中でそう返事する。
《なにかと都合が悪いからです。異世界の転生者だからと建前をつけて喧嘩を売るものもいますし、それを理由にいちゃもんなどをつけられることなどもあります。》
それって異世界の転生者って名乗るだけでか?
《はい。この世界では珍しいので以上のことが起こるのもおかしくありません。》
ナビの淡々とした言葉に俺は頷く。
俺は心の中のノートにそれを刻む。
このノートには大事な事を書き残している。
先ほどのナビのことや、ルミゲルのおちょくりをするためのことをまとめている。
更に忘れてはいけないこともこのノートには刻んでいる。
爺ちゃんの一言一言、そして、今までの日記を........
俺は日記を思い返しているとふと、手がまったく動いていない事に気付く。
首を横に振り、思考を止める。そして何事もなかったかのように俺は解体を続けた。
解体が終わり、俺は野菜や果物を採っていないことに気付いた。
急いでまた森へと入ろうとする俺の目に小さな山が出来ていた。よく見ると何故か、どっさりと山のように積もっている野菜や果物があった。
ルミゲル達を見ると一匹と一人は笑いながらさっきは持っていなかったキノコを口に頬張っていた。
手伝う事自体はしていたんだな。
俺はそう小さな感動を覚え、顔を戻し料理を始める。
太陽が沈み、月が顔を出す。
今日で俺が転生して三日目が終わった。
ナビによると明日の朝には人間の村に着く予定だそうだ。
実際は今日着く予定だったがルミゲルが何故かこの世界のモンスターや木の実、生物に興味を持ち、とことどころ寄り道していたので時間の関係上、今日も野宿することにした。
ルミゲルのスキルで火を起こし、そこにルミゲルの城にあった入れ物を置き、汁物を作る。
「にしても、ユウトは変な奴じゃのう。」
そんなボソッと聞こえたルミゲルの言葉が俺の耳に届く。
俺はそれを横目で見る。
ルミゲルはグリを膝の上に乗せ、ブツブツと口を動かしていた。どうやらグリと話をしていたのだろう。
(いや、そもそもグリと話せるとか普通に羨ましいんだけど......)
そう思いながらも俺は素材を鍋の中に放り込む。
「あやつに儂は初めて会った時に、ある技を放ったのじゃが、あやつはふらついただけで儂に対しては特に弱気を見せていなかった。」
そう言うルミゲルの言葉に焚き火がパチリ、と音を鳴らす。
「それにあやつは儂が今まで手の出せなかったあの檻を破壊しおった。」
それにグリが顔を上げてルミゲルを見る。
それを見てルミゲルは口元を緩めて目を細める。
「お主もあいつが変な奴だとわかっている様じゃのう。」
その言葉が俺をどう思っているのか、把握できていなかったが、それを今回は聞いただけと言う理由で特に聞き返すこともなかった。
「ん?ユウトがどうかしたのか?」
ふいにルミゲルがグリを顔の前まで持ち上げると、グリは「パフフ!」とやる気のあるように鳴く。
それを見てルミゲルは再度口元を緩める。
「カッカッカッカッ。それは良いことじゃな。儂も出来るだけ力を貸してやろう。」
そう笑う言葉が少しだけ、夜の森に反響する。
俺が鍋を運んで来ると二人とも嬉しそうに食器を叩いていた。
そして月が天高くその明るい顔を出し、俺の異世界での三日目が終わった。
「おーい、ユウト〜!!あったぞ〜!!」
ルミゲルの呼ぶ声に俺はその方角へと足を進める。
俺は草木を掻き分けて突き進む。ルミゲルの姿が見え、更に進むと俺の目に眩しい光が差し込む。
気付けば自分の前には木々はなく、代わりにほんの少しだけ伸びた草が地面を覆い尽くし、その自然のカーペットは地平線へと伸びている。
俺がその地平線を見渡すと、途中である物体に地平線が阻まれた。
それを見て俺はやれやれと顔を下に向け溜息を吐く。
「やっと村か。」
そう言いルミゲルを見ると
「ん?なんじゃこいつは........」
ダンゴムシのような蜘蛛のような虫とにらめっこをしており、グリに関しては
「.......スー」
寝てた。
そんなそれぞれバラバラな二人に村のことを伝えると二人は即座に反応し、俺を置いて爆走した。
「お〜〜い!!俺を置いていくなよ〜〜〜!!!!」
俺はそう叫びながらスキルで足を加速させた。
村の入り口が少しずつ見えてきた。




