↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋と約束の交響曲  作者: 心音
遥香ルート
43/122

第42話『Haruka Memory』


――空。

どこまでも蒼く澄み渡る空。

私たちをいつも見守ってくれる空。


――風。

季節の香りを運んでくれる風。

私たちに春夏秋冬を届けてくれる風。


膝の上に置いた大きな本を閉じ、目を瞑れば空と風を感じることが出来る。


空も、風も――生きている。

私たち人間と同じように生きている。

この世に存在するものはすべて平等に生命がある。


空が死んでしまったら、この世界は暗闇に包まれる。


風が死んでしまったら、花の咲かない悲しい大地が生まれてしまう。


まぁ、これ全部、本の受け売りなんだけどね。


私……ハルカは、本を読むことが好きだ。

本からは様々な知識を得ることが出来るし、得た知識は自分の力になる。

本を読んで損することなんて何一つない。

読めば読むほど自分の中の知識が増える。素晴らしいことだ。


小さい頃のハルカはずっと本を読んでいた。

だからだろう――小学生の頃のハルカは、周りから少し浮いた存在になっていた。


『古宮ちゃん、あそぼー』


『……ごめん、今、本を……読んでるから』


『……分かった。邪魔してごめんねー』


何度かこんな会話が続くと、遊びに誘ってくれるようなクラスメイトはいなくなっていた。

休み時間に話しかけてくれるような子もいないし、お昼ご飯の時も会話なんてしない。


ハルカは一人ぼっちだった。

でも――それで良かった。

これで読書の邪魔をしてくるような人はいなくなった。

ゆっくり本を読むことが出来る。

幸い、陰口を言われるだけで苛められることはなかった。


春になってクラス替えをしても、ハルカのことは学年のみんなが知ってるみたいで話しかけてくるクラスメイトなんて誰一人いなかった。


先生に友達作らないの?と聞かれたことがあった。

正直、余計なお世話だった。

ハルカは好きで一人でいるのだから。

それに、ハルカは本があればそれで良かった。

本がハルカの『友達』だったから。


季節は巡り――卒業式の日がやってきた。

卒業をテーマにして書かれた本は何冊も読んでいたからどんなものなのかは知っていたけど、実際に参加してみるのは初めてで、ほんの少しだけハルカは浮かれていた。

けどやっぱり終わってみると、本で書かれたようなものと同じで味気なかった。

周りが涙を流している中、ハルカは本を開いていた。


中学生になると、読むだけではなく書いてみようと思うようになった。

自分が今まで読んできた『友達』をハルカ自身の手で作ってみたかった。


授業が終わると、帰り道にある図書館に寄って本を書くことが日課になっていた。

これがやってみると案外難しいもので、なかなか自分が思ったような文を書くことができない。

それでもハルカは本を書き続けた。

どうしても自分の『友達』を完成させたかった。

キーボードで文字を打っては、消して。打っては消してを繰り返す。自分の納得がいくまで書き直し続ける。

そんなある日のことだった。


『――難しいもの書いてるな』


一人の男の子がハルカに話しかけてきた。

見覚えの一切ない男の子。なんでハルカに話しかけてきたのだろうか。

学校が同じというわけでもない。男の子の着ている制服はハルカの通っている学校の制服とは違うものだった。


『周りに置いてある本も難しいものばかりだし……うわ、特殊相対性理論とか読んでいて面白いのか……? こんな本読んでたらすぐ寝ちゃいそうだわ』


本当に何なのだろう、この人は。

あまり関わらない方がいい。そう結論を出したハルカは黙ったままキーボードで無機質なリズムを刻む。


『あ、そこ字違う』


『……』


横からにょきっと伸びてきた男の子にしては細い指が誤字った箇所を教えてくれる。

チラリと男の子の方を見ると、その視線は画面に向けられていて、刻まれた文字を目で追っていた。その目があまりにも真剣で、ハルカは声を掛けるタイミングを完全に失っていた。


『……ちょっといいか』


マウスを握った右手に温もりが生まれる。

男の子がハルカの手に自分の手を重ねてきたのだ。

重ねられた手が動き、一番最初のページまでもっていくと男の子は手を離すことなくそのまま読み始めた。

払い除けることは簡単なことだった。けど――それをすることは出来なかった。こんなにも真剣にハルカの本を読んでくれてる。多分それがすごく嬉しかったのだ。

コチコチコチと、静かな図書館に響く時計の針の音に混じって、ドクンドクンと、心臓が高鳴る音がハルカの中から聴こえてくる。

家族以外の誰かと一緒の時間を過ごすというのはすごく嫌だったはずなのに、不思議とこの男の子は平気だった。むしろ温かい気持ちになれる。


『……ふむ』


どれくらい時間が経っていたのか。

気づけば男の子は最後まで読み終えていたらしい。でもハルカの胸のドキドキは――止まっていなかった。


『やっぱり難しいな』


バカみたいに高鳴ってる胸を押さえながらハルカは男の子の言葉に耳を傾ける。


『どうしてこんな難しいの書こうなんて思ったんだ? 君ならもっと――って、顔真っ赤だぞ、大丈夫か』


どうやら顔に出ていたらしい。

反対の手で頬に触れてみるとお風呂に入った後のように熱くなっていた。きっと今のハルカの顔はゆでダコのように真っ赤になっているに違いない。


『あ、悪い……手握ったままだったな……』


男の子は慌ててハルカから手を離す。

離さないでも良かったのにな……。


『本当にごめん、軽率だった。嫌な気分にさせちゃったか?』


『……大丈夫。その……温かった、よ』


『なんだその感想は』


男の子は笑う。

その笑顔に釣られて、ハルカも自然に笑ってしまっていた。

誰かの前で笑うなんて――ほんと、いつ以来だろうか。そもそも、最後に笑ったのがいつだったのかすら思い出せない。それほどまでに久しぶりにハルカは笑っていた。


『君、笑えるんだな。てっきり無愛想キャラを貫いているもんだと思ってた』


『……そりゃ、笑うよ。だって、ハル……私はは、人だもん。笑う時は、笑うし……怒る時は、怒るよ。だから、無愛想キャラじゃ、ないからね?』


初対面の人に名前を出すわけにはいかないと思い、咄嗟に一人称を『私』に変える。

男の子は大して気にしていないようで、そのまま話を続ける。


『人だから、か……。はははっ、そりゃ悪かったな。君の言う通りだ。人だから笑うし、怒ったりもする。感情ってのは人が生まれ持って備わっているものだ。それを表に出すか出さないかは人それぞれだがな。俺がさっき無愛想キャラを貫いているって言ったのはそれが理由なんだ。君は人前で感情を表に出さない。裏で隠し続けてる――そう思ったわけ』


『……間違っては、ないよ。私は、感情を……表に出さない。全部、隠してる。学校でも、家でも、何処にいても』


ハルカは何処にいても一人だから。

孤独(ひとり)なら感情を出す必要はないから。


『……あなたは、不思議な人。本当に、不思議な人。私の……心の奥底に、眠った、感情を、表に……出してくれた。久しぶりに、笑うことが、できたんだよ』


けど、何故だろう。名前の知らないあなたの前なら、感情を出してもいいって思えた。

あなたならハルカを受け入れてくれるような気がした。


『……笑うと、ここが……暖かくなる』


とんと、胸に手を当てて男の子を見上げる。


『……ありがとう』


そう言ってハルカはもう一度微笑んだ。

多分、ちゃんと笑えていたはずだ。


『いい笑顔だ。最初の印象と全然違う。あんなぶすっとした顔をするより今みたいに笑っていた方が君には似合ってる』


男の子は視線を再びパソコンに移す。


『こんな難しい物語を書かないで、もっと明るくて楽しい物語を書いてみたらどうだ? 好き好んで書いているなら余計なお世話かもしれないけどな』


そう言いながら男の子は自分の持っていたカバンの中から一冊の本を取り出してハルカに渡してきた。

きょとんとした表情でそれを受け取る。表紙には可愛らしい女の子の描かれていた。ハルカがいつも読む本には絵はない。挿絵はあるけど、少なくともこんな可愛い女の子が描かれている本は読んだことなかった。


『それはライトノベルっていうんだ。君が読んでいる本とは多分正反対だな。全然難しくなんかないし、スラスラ読める。その本あげるから読んでみろよ。俺のお気に入りなんだ。本が好きならきっとハマると思うからさ』


『……えと、ありがとう。読んで、みるね』


『おう。またいつか出会うときがあったら――その時はその本の感想でも聞かせてくれ』


『……分かった。またいつか、会えたら……その時は』


『よし。じゃあさよならは無しだな。またいつか会えることを祈って――またな、名前も知らない作家さん』


『……うん、またね。私に、笑顔を……くれた人』


男の子から受け取った本を胸元で大事に抱えて小さく手を振った。

男の子は手を振り返してはくれなかったけど、もう一度ハルカに笑顔をくれた。

また会えることを祈って――ハルカも微笑んだ。


『……』


その日からハルカの中の何かが変わった。

基本的には今までと変わらないけど、多少感情を表に出すようになった。

男の子との出会いがハルカを変えてくれた。感謝してもしきれない。

ライトノベルと呼ばれる本も男の子の言っていた通りすごく面白い。自分でも何冊か買って読んでみたが、どの本も引き込まれるように読みふけってしまう。

本を読んで知識を取り入れるだけのハルカだったが、すっかりハマってしまった。


『……こういう、本なら、ハルカも……書けるかも、しれない……』


ハルカも人を楽しませる本を書いてみたい。

読んでくれるみんなが笑ってくれるような楽しい本を。

それからハルカはライトノベルを書き始めた。

書いていない時はライトノベルを読んで時間を潰し、また、書く。たまに前みたいに難しい本も読んだりして知識を取り入れていった。

そんなことを繰り返している日々を送っていたら、いつの間にか中学校を卒業してしまっていた。

結局、あの男の子とはあれ以来会うことはなかった。何度か図書館に行ったりもしたけど、男の子に会えることをなかった。

やがて地元にある高校に入学する。

高校に入学してもハルカの日常は変わることは無い。新しい教室に入るまではそう思っていた。


『……あっ』


窓際の一番奥の席――そこにあの男の子が座っていた。

同じ学校で、同じクラス。こんな奇跡がありえるのだろうか。頬を軽く抓ってみる。


『……痛い』


これは夢ではない現実だ。

また、彼に会うことができたのだ。


『ん?』


『……!』


彼と目が合う。

心臓の高鳴りが急激に加速する。

何か喋らないと……。そうは思ってもなかなか声が出てこない。

すると彼は席を立ち、ハルカのほうへ歩み寄ってきた。


『初めまして――だよな?』


『……』


その言葉にハルカはショックを受けた。

彼はハルカのことを覚えてはいなかった。

すごく悲しかったけど、ハルカはそれを表には出さずに笑うことにした。

何故そうしようと思ったのかは自分でもよく分からない。けど、何故かそうしなければいけないと思ったのだ。


『……初めまして、だよ。わた……ハルカは、古宮、遥香。よろしくね』


『古宮か。俺は浅川隼人。よろしくな』


男の子――浅川くんは笑顔で手を出す。

ハルカはその手を握った。


『これで俺たちは友達だな』


『……握手、しないと……友達じゃ、ないんだ?』


『気分的な問題だよ。ま、何やともあれよろしくな。高校生活初めての友達だ、仲良くしていこうぜ、古宮』


初めて……初めての、友達。

その言葉が胸に響いた。

ハルカは浅川くんの初めてになれた。そんな小さなことがどうしようもなくハルカは嬉しかった。


『……うん。こちらこそ、よろしくね』


だってそれは――ハルカにできた、最初の友達でもあったから。



to be continued

心音です、こんばんは。

はい、二つ目の個別ルートは遥香です。つもりと予想していた方もいたかと思いますが、遥香です。

次の話に繋げるために、夜乃ルートと同じく一部のシナリオはカットさせていただきます。

遥香のお話をお楽しみいただけるように最大限の努力をさせていただきたいと思っています。


それでは次の話でお会いしましょう、

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。