第30話『妨害』
心音です。こんばんは。
さて、ついに肝試しがスタートです。ただの肝試しだったらまだ心が楽なのですが、この肝試しは協力、裏切りなどがヤバイ。誰を信じ、誰を裏切るのか――てか、これ肝試しなの?
「――全員揃ったみたいね」
俺が学校の前に着くと、既に全員揃っていた。榊先輩を除いてみんな私服姿というのが中々シュールな光景だった。俺の元々学校だから――という理由で制服にする予定だったが、雪原が何を仕掛けてくるか分からないという理由から動きやすい服装のほうが良いと判断し、ラフな格好にしておいた。
「もう……学校に来る時は制服じゃないとダメだよ……。私も私服のほうが良かったのに」
自分と他のみんなの格好を見比べて榊先輩はため息を吐いた。
「はいはい。時間勿体ないからそろそろ始めるからね」
「つもりちゃん最近私の扱い酷くないかな!? 優誠くんみたいな扱いですごく嫌なんだけど!!」
「ちょ、夜乃先輩それどういう意味っすか!?」
「先輩方近所迷惑です。少し静かにしててください」
十堂の言葉に二人は慌てて口を塞ぐ。
俺たちの学校の周りはほとんど住宅街になっているせいで大きな声で話しているとかなり響くのだ。
「……」
今日はこの辺りが妙に暗く感じる。
住宅街の明かりがほとんど付いていないというのと、一定間隔で設置してある街頭が壊れてしまったのか俺たちの真上にある街頭以外一切付いていないのだ。
しかも今日は新月。月明かりに期待は一切出来ない。
虫の鳴き声や人通りもさっきから無い。何処か別の次元に飛ばされてしまったのでは思ってしまうのも無理もない。
こんな異常な状態に気づいているのかいないのか――雪原はカバンの中からぬいぐるみを取り出して配り始めた。
「――はい、浅川」
「サンキュー。なぁ、雪原」
俺は自分を模して作られたぬいぐるみをまじまじと見ながら言葉を続ける。
「なんかこの辺り――異常じゃないか?」
「……さぁ、たまたまじゃない?」
答えるまでに若干の間があった。
はっきりと答えてくれれば少しばかり安心できたというのに、逆に深い闇に引き込まれていくようだった。
「じゃあ次は隠す順番を決めるからね。割り箸の先っぽに番号書いてあるから、その通りの順番で隠していく感じ。引くのは誰かでもいいよ」
「ではわたしから引かせてもらいます」
雪原の持つ筒から十堂は割り箸を一本引き抜く。
「あ、1番ですね」
「ならもう隠しに行ってもいいよ。校舎に入ってから三十分ね。夜乃会長、もう警備システムは切ってますか?」
「ちょっと待ってね」
榊先輩はスマホを手に取ると、口元にもっていく。
「音声コマンド――警備システム解除――実行。偽装映像――起動。……はい、これでもう大丈夫だよ」
スマホをしまって榊先輩はにっこりと笑う。
この人もしかして――結衣と同じ人種か……?
さすがの雪原も驚いたのか、目をぱちくりさせていた。が、すぐに元の表情に戻って冷静を装う。
「警備システム切れたみたいだから、恋歌行ってきていいよ」
「了解しました」
スタスタと十堂は校舎に入っていく。
持っている荷物は手提げ袋だけで、中にたくさん何かを入れているというわけではなさそうだった。
「他の人も順番決めておきたいからどんどん引いてって」
「りょーかい」
各々引いていった結果は――
1番 十堂
2番 雪原
3番 古宮
4番 反町
5番 俺
6番 榊先輩
こうだ。
最後を引きたかったのだが結果は結果だ。諦めることにしよう。
「待ってる間何か買ってきてもいいか?」
「近くのコンビニならいいよ。私は主催者だからあまりここから離れたくないから、代わりに柑橘系の飲み物とサンドイッチかおにぎり買ってきて。具は浅川に任せる」
放物線を描いて投げられた500円玉を俺はパシッと掴み取る。
「飲み物のサイズは?」
「500mlのペットボトル。無かったら1ℓの紙パックのビタミンレモンでいいよ」
「オッケー。古宮はどうする?」
「……紅茶なら、何でも」
「榊先輩はどうしますか?」
「私は一緒に買い物行くよ」
「俺も一緒に行くぜー」
榊先輩と反町はついてくるようだ。
どうせなら少し探りを入れてみることにしよう。
「んじゃ、ちょっくら行ってくるわ。留守番は任せた」
「任されました」
「……よろしく、ね」
雪原と古宮に見送られ、俺たち三人はコンビニ向かって歩き出す。
街頭の光が一切無い道。そのせいか会話もほとんどない。
「なんで街頭絶滅しているんだろうね……。気味悪いよ。まるで肝試しをするなって言ってるみたい……」
「怖いこと言わないで下さいよ……。俺も同じこと考えていたんですから」
反町はぶるりと身を震わせる。
「私が買い物についてきた理由って、あの場所にあまり居たくなかったからだし……。一つだけ街頭生きてるとか怖すぎるよ……」
「しかも狙ったように新月ですからね。無駄に怖さ倍増。それに……さっきから何か誰かに見られているような気がしてならないんですよね」
「ちょ……やめてよそういうの……。私本当に怖いの無理なんだよ?」
「やめましょう……。せめて肝試しが始まるまで、この話は」
再び無言の時間が訪れる。
風が木々を揺らす音がやたら大きく聞こえた。カサカサと葉が擦れ合う音は普段あまり気にしないのだが、今夜は無性に気になってしかたなかった。
しばらくするとコンビニの明かりが見えてきた。暗い道を歩いていたせいで妙にホッとしてしまう。
「……なんか、戻りたくないなぁ」
同感である。
出来ることなら朝までこのコンビニでマンガを立ち読みしたりして時間を潰したいくらいだ。
けど、そんなことは許されるはずはなく、俺たちは飲み物と食料を買ってすぐにコンビニを後にした。
「なぁ――二人とも。ちょっと提案があるんだが」
コンビニから少し歩いた位置で俺は足を止めた。
「提案? なんだ?」
先を歩いていた二人も足を止めて俺の方へ振り返る。
「簡単な話――この肝試し、協力しないか? 二人とも罰ゲームは嫌だろ?」
「う……。そうだね、なるべく罰ゲームは避けたい……」
「俺も同感だ。あいつの考える罰ゲームは底知れない恐怖がある」
反町はぶるりと体を震わせる。
「そこで提案だ。俺たちはそれぞれ隠した場所を教え合う。俺は反町に、反町は榊先輩に、榊先輩は俺に――って感じでな。そうすれば俺たちは晴れて罰ゲーム回避だ。ルール違反でもないしな」
「いいかもな。せこいけど、この際手段は選んでられねーわ」
「私も賛成!! 大賛成!!」
二人とも乗り気のようだと判断した俺は自身の手提げ袋の中から十円玉サイズの機械を取り出して二人に渡す。
「これは?」
「小型無線機。真ん中のボタンを押しながら喋った言葉がそれぞれの無線機に届くようになっている。受信拒否が出来ないのが難点だが、範囲は学校全体を補えるらしい」
「らしい? ってことはこれ、隼人くんのじゃないの?」
「知り合いに頼んで借りてきました」
知り合いとはもちろん結衣の事だ。
最初はめんどくさがっていたが、内容を説明すると「面白そうですね。僕に任せて」と、いろいろ手伝ってくれた。この小型無線機は結衣に預かったモノのひとつに過ぎない。
「まぁ何にせよ、これで俺たちは罰ゲーム回避できそうだな」
「良かった良かった♪」
二人ともご機嫌だった。
でも、帰り道はやはり――暗いままだった。
「……おかえり」
「おかえりなさい、先輩方」
学校まで戻ると古宮と十堂が迎えてくれた。
俺は頼まれていた紅茶を古宮に渡し、十堂には乳酸菌飲料を手渡した。
「今は雪原の番か」
カチッと缶コーヒーのプルタブを開ける。
ほんのりと甘く苦いカフェラテが身体に染み渡る。
「……うん。でも、多分……そろそろ、出てくると思うよ」
「……お」
古宮の言う通り、校舎の中から雪原が姿を現した。
雪原は俺たちの姿を見つけると小さく手を振ってきた。
「帰ってたんだ?」
「ついさっきな。ほら、飲み物買ってきたぞ」
「ありがと。ちょうど喉乾いていたんだよね。ナイスタイミング」
渡したペットボトルのフタを開けると、雪原は一気に煽る。買ってきたものはレモンの炭酸飲料なのだが、そんなに一気に飲んで大丈夫なのだろうか。
「ふぅ。美味しい」
半分位まで飲み干したところでようやく口を離した。
「おま、よく炭酸そんな一気に飲めるな」
「ぶっちゃけお腹に二酸化炭素溜まってヤバイかも」
お腹をさすりながら雪原は笑う。
「……次、行ってくるね」
「いてらー」
自分の番になった古宮が校舎の中に消えていく。
俺は待っている間スマホに視線を落とした。
それから二時間くらいしてようやく全員がぬいぐるみを隠し終えた。時間はちょうど0時になるところだった。
闇に覆われる学校は何度見ても不気味だ。
「――じゃあ、始めよっか」
そう言って雪原はまたくじ引きの筒を取り出した。
「……それは?」
「恋歌からの提案で、くじ引きで引いた番号の人のぬいぐるみを探すって事にしたから」
なんだと……? それじゃあ反町と榊先輩と協力する為には俺たちがそれぞれの番号を引かないといけない。
「自分の番号は準備決めした時のね。じゃあまずは最初の恋歌から」
雪原は1と書かれた割り箸を筒から抜いて十堂の前に差し出す。
よくシャッフルされた筒の中から十堂は割り箸を一本抜き取った。
「5番です」
掲げる割り箸には5と書かれていた。俺の番号である。
どうやらもうこの時点で協力は不可能になったようだ。
「次は私ね」
次に雪原が引き、最後の榊先輩が引き終わると探すぬいぐるみはこういう風になっていた。
十堂→俺
雪原→反町
古宮→雪原
反町→十堂
俺→榊先輩
榊先輩→古宮
俺は榊先輩の隠したぬいぐるみを探さないといけないらしい。
「じゃあ始めようか」
ニコリと雪原は微笑み――恐怖の肝試しが始まった。
to be continued




