第26話『Yoruno End』
「……」
私以外誰もいない生徒会室にはペンが紙を走る音だけが響いていた。
隼人くんが帰ってからすぐに宿泊申請を出して生徒会室に篭り、パソコンと書類とにらめっこ。流石に目が疲れてしまった。
ペンを置き、最初の一口だけ飲んで放置していたコーヒーに口を付ける。
「……ぬるいなぁ」
思わず苦笑い。
淹れてから一時間は経とうとしているのだから当たり前だ。
「けど――美味しい」
ミルク一つにお砂糖を二つ。私好みの味。
私のために隼人くんが作ってくれたコーヒーは、もう冷めてしまったけれども、不思議と温かく感じる。
好きになった人に何かしてもらえると嬉しい。そんな気持ちから温かく感じるのだろう。
夏が近づいているとはいえ、まだ季節としては春。夜は少し肌寒い。隼人くんの淹れてくれたコーヒーを一気に飲み干し、新しいコーヒーを淹れるために立ち上がる。
電気ポットでお湯を沸かしていたおかげか、保温機能が働いていてお湯の温度は下がっていなかった。
「……」
湯気の立つコーヒーを片手に、部屋の明かりを消して窓際に座った。
窓を開けると昼間とは違う冷えた風が頬を撫で、コーヒーの水面がゆらゆらと揺れる。
なびく髪を反対側の手で押さえて、夜の街を見下ろす。
少し高い位置に建てられたこの学校は、私のいる四階からだと街を見下ろすことが出来る。この時間に街の方を見ると、住宅街の家の明かりや少し先の方にあるビル群の明かりがクリスマスのイルミネーションのように輝いていて、ロマンチックな夜景を作り上げていた。
「……綺麗」
誰もいないのをいい事に、ポツリと呟く。
「隼人くんと一緒に……見たかったなぁ……。二人で、隣同士に並んで、この綺麗な街並みを――見たかった……」
視線を落とすと、コーヒーに波紋が広がっていた。
零れ落ちる何かが、幾つも波紋を作っていく。
「なに、これ……」
自分の顔をペタリと触ると――目元が濡れていた。泣いていたのだ。
「なんで……涙、なんか出てくるの? 今になって、どうして……」
涙が溢れて止まらない。
決壊したダムのように、溜まっていた涙が頬を伝って床に零れ落ちる。
悲しくて、哀しくて、どうかしてしまいそうだった。
震える手でコーヒーカップをテーブルに置き、自分の身体を抱きしめる。
「人を好きになるってことが……こんなにも辛いことだなんて、思ってなかった……!!」
耐えきれず叫ぶ。
自分の気持ちを、心を、そして――想いを。全て吐き出す。
「もっと早くこの気持ちに気づいていたら結果は変わっていたかもしれない……!! 今こうして――隣にいてくれる可能性があったかもしれないのに……!!どうして、私は……私は……!」
これはきっと罰だ。
隼人くんを弟の代わりにしていた報いなのだ。
「だから――これできっと、良かったんだよ」
後悔が完全に無いと言ったら嘘になる。けど――悪い気分ではなかった。
振られてしまったけど、私の元から隼人くんがいなくなってしまうわけではない。恋人になれなかっただけなんだから。
私と隼人くんは――友達であり、大切な仲間。
それに――私は宣言した。
いつかきっと、隼人くんを振り向かせて見せると。
目尻に溜まった涙を腕で強引に拭いとる。
ゴシゴシと擦ったせいで目の周りがヒリヒリと痛む。
けどおかげでスッキリと出来た。
きっともう――大丈夫。
「……だから、最後に――」
よいしょっと、身体を180度回転させる。
再び夜景が私の瞳に映った。何度見ても本当に綺麗だ。
スーッと私は息を吸い込む。そして――
「――絶対に振り向かせるんだからーーーーーッ!!!」
終わりの近づいた春の夜空に私の決意が木霊になって何度も、何度も響き渡っていた。
to be continued
こんばんは、心音です。
アップ遅い時間になってしまい申し訳ございませんでした。
さて、今回の話は夜乃ルートのエピローグです。ちゃんと立ち直って前を向き始めた夜乃。もう何も心配はなさそうですね。
本来であれば24話で夜乃と隼人は恋人同士になり、次のストーリーになるはずでしたが、全員のストーリーをやる為にカットさせていただきました。
次回から共通ルートに戻ります。
初夏の隼人達のまったりとした日常をお楽しみください。




