第16話『それぞれの考え』
「……ねむ」
翌朝月曜日。
いつも通りの時間にセットしていたアラームに起こされる。閉めていたカーテンの隙間から差し込む太陽の光が早く起きろと言わんばかりに俺の顔を照らす。
片手で目もとを覆い、反対の手でアラームを止める。スマホの画面を覗き込むとメッセージが一件届いていた。送信者は榊先輩だった。
『今日のお昼、生徒会室で待ってるね』
どうやら今日は榊先輩とお昼ご飯を一緒に食べることになるようだ。
『了解です』
そう返信してハンガーに掛けておいたワイシャツを手に取った。
この時期になるとブレザーを着るのが自由になり、カーディガン登校が許可される。秋から冬場――正確には11月半ばから学期末までは俺らの高校はブレザーを着るのが必須となる。それ以外の季節は細かい決まりがなく自由だ。女子にはベスト的なものが用意されているのだが、デザインが不評というのと、着なければいけないというルールが無いことから、ベストを着ている女子はほぼいない。
「……」
窓を開けて新鮮な空気を部屋に取り入れる。
そよそよと吹く春風が頬を撫でた。
今日はほどよく暖かいからブレザーはいらないだろう。
部屋を出てキッチンに行き、簡単な朝ごはんを作って食べる。それから歯磨きなどを済ませて家を出た。
昨日のうちに雪原にはメッセージを入れておいたから今日は早く来てくれているだろう。古宮はそんなことをせずとも、よっぽどのことがない限りクラスにいるのは確定だから連絡は特に入れていない。ちなみに反町は『起きれたら行く』とのことで信用はしていない。
「……お」
雪原の家の前を通り掛かると、ちょうど雪原が家から出てきたところだった。
眠たげにあくびをしていて、まだ俺が近くにいることには気づいていないようだ。
「おはよう、雪原」
「んー……? 浅川か。おはよ。ふぁぁ……」
もう一度あくびをして俺の隣に並ぶ。
「眠そうだな」
「いつもより起きる時間が30分も早いからね。誰かさんのせいで」
「悪かったって」
「別にいいよ。それで?話ってなんなの?」
二度手間になるから古宮や反町がいるところで話したかったが、折角一緒に学校に行ってるのだから今話してもいいだろう。
「榊先輩のことだ」
「ふーん?」
それから俺は雪原に榊先輩との今の状況、弟のことを伝えた。
話を聞き終えた雪原は十堂と違って一切考えるようなフリを見せず俺を見据えて言い放った。
「興味ない」
「お前なら絶対にそう言うんじゃないかって思ってたよ……」
俺はため息を吐く。
雪原にこういう事を訊ねると決まって『興味ない』と答える。どんな話でも最後まで嫌な顔一つ見せずに聞いてくれるのはいいところなのだが、相談に乗ってくれないという事に関しては残念である。
頭の良い雪原が力になってくれれば解決へと大きな一歩を踏み出すことが出来るような気がするのだが、本人がそれを望まないのなら無理強いすることはできない。
「というか、なんでそんな夜乃会長の内面に入り込もうとしているわけ? 夜乃会長の弟のことを知りたいから? 自分が弟の代わりのような扱いを受けるのが嫌だから?それとも――」
雪原はまっすぐに前を見つめて言った。
「夜乃会長が好きだから?」
「……」
俺が榊先輩のことを好き?
確かにあの人はいい人だ。優しいし、頼りになるし、料理だって上手い。好きか嫌いかで聞かれたら好きだ。けどそれは一人の女性として。ではなく、仲間として好きということであって恋愛の好きとは違う。
「どうなの?浅川」
「俺が榊先輩の内面を知りたい理由は、先輩が弟と仲直りしないで俺に固執するのかってことだ」
俺ははっきりと告げる。
「なるほどね」
一つ頷いて雪原は俺を見る。
「でもね、浅川。深追いは厳禁だからね。夜乃会長を傷つけることになるかもしれない」
「分かってる。てかそれ昨日十堂にも言われたわ」
「ふふ。確かにあの子なら言いそう」
雪原は含み笑う。
気づけばもう学校の校門が見えるところまで来ていた。
「恋歌にも聞いたのなら、私に聞かなくても良かったと思う」
「なぜ?」
「だってあの子頭いいもの。私と同じでね。だからきっと考えてることは似たようなものだと思う」
「自分で自分の事頭いい言うな」
「事実だし」
そう言ってふふんと鼻を鳴らす。
「ところで、次夜乃会長とご飯食べるのはいつ?」
「今日」
「ベストタイミング。なら今日もう一度弟のことを聞いてみるべき」
「本当に十堂と同じこというんだな。てかなんだ?興味ないとか言いつつ今日はきちんと意見してくれるんだな?」
「私は恋歌と同じことを言ってるだけ」
「でもそれはお前の意見でもある」
「……たまにはこんな日があってもいいかなって」
そう言い切って校門をくぐった。
まっすぐに下駄箱に向かって靴を履き替え、教室に向かう。
「……おはよう、二人とも」
「おっす」
教室に入ると本を読んでいた古宮とその近くでゲームをしていた反町が挨拶してくる。
「おはよ」
「おはよー」
自分の席にカバンを置いて古宮の席の周りに集まる。
「それで、話ってなんなんだ?」
携帯ゲーム機をポケットにねじ込んで反町は口を開く。
「……なんの話?」
事情を知らない古宮が首を傾げる。
「あれ? 昨日隼人からメッセージ来なかったか?」
「古宮は朝絶対に早くいるから特に何も連絡してなかったんだよ。お前は連絡入れないと来るのギリギリだろ?」
「ああそういうこと」
反町は納得したようにポンと手を叩いた。
「……これが、信用の差」
「約束は守ってるんだから別にいいだろ!?」
「はいはい分かったから反町は黙ってて」
「なんでお前は俺に対してだけそんなにあたり強いの!?泣くよ!?そろそろ泣いちゃうよ!?大体さ――」
「黙って」
反町の全力の嘆きを雪原は最後まで聞かず『黙って』の一言で一掃した。
あまりの威圧に反町はそれ以降余計なことを話すのをやめた。
「はい浅川。話をどうぞ」
「お、おう。じゃあ遠慮なく」
俺は話を聞く準備万端の古宮と、少しテンションの下がっている反町に話を始める。
話の途中で何度かツッコミや疑問などに答えていた為、話が終わる頃にはもうホームルームが始まろうとしていた。
「――まぁこんな感じだ」
「……んと、何となく、分かったけど…」
「だな……」
古宮と反町は顔を見合わせる。
「どうした二人とも?」
「……この問題は、ハルカたちがアドバイスするより…自分で、考えた方が、いいと思うの」
「というと?」
「……これは、浅川くんと、夜乃先輩の問題……。ハルカたちに、聞くより…自分で、考えるべき、だよ」
「俺も遥香ちゃんと同じ意見。多少はアドバイスするけど、結局は二人のことだからな」
「そうか」
確かに二人の言う通りだ。
これはあくまで俺と榊先輩の問題なのだから。
「今日の昼は榊先輩と取ることになってる。その時に少し話をしてみようと思う」
「それがいい。無事解決出来ることを祈ってる」
「……今日だけで、解決できたら、きっと…苦労はしない」
「別に今日中に解決しろってわけじゃねーよ。そりゃすぐ解決できるならそれがベストだろうよ。けどこれは、はっきり言えばそう焦ってまで解決するようなことでもないだろ」
「……そうだね。浅川くん…次第」
「安心しろ。焦って解決しようとなんてしてないから」
なんだかんだで真面目に考えてくれるこいつらに感謝しないといけない。やはり持つべきは友達である。
チャイムが鳴ると同時に担任の先生が教室に入ってきてホームルームを始める。自分の席に戻って気だるげに連絡事項を話す担任を適当にスルーしながら俺はスマホを弄っていた。
『今日の昼、少し話があります』
メッセージを送信するといつも通りすぐに返信が来た
『わかったー』
返事を確認してからスマホを閉じた。
同時にホームルームが終わったらしく、反町が俺の席に来た。
「どうした?まだ話の続きがあるのか?」
「いや違う。一限の宿題やり忘れていたから見せて欲しい」
「お前少し良いこと言ったあとにそれはないわ」
「……」
俺はため息をつき、反町は悔しそうに唇を噛んだ。
「ほらよ」
カバンからノートを取り出して反町に渡す。
「サンキュー助かった。つもりちゃんに借りようと思ってたんだが寝てるから無理だった」
「あの短時間でもう眠りについたのか」
「……つもりちゃん、寝付くの、早いからね…。しかも、眠り深いから、なかなか起きない」
机に突っ伏している雪原を見て古宮は苦笑いする。片手で持っている本のページが窓から入り込んできた風でパタパタと音を立てていた。
「一限爆睡確定だな」
「俺も一限寝てようかな。昼に備えて」
雪原を見習って机に突っ伏す。
「……戦いに、行くみたい」
「ある意味戦いに行くようなもんだ」
目を閉じて睡眠モードに入る。
「ま、頑張れ」
「……頑張れ。浅川くん」
友人のエールを聞きながら俺は睡眠の世界に身をゆだねた。
to be continued
どうも心音です。
だいぶ話がグダグダしてるの大変申し訳なく思っています。暖かい目で応援してもらえるとものすごく嬉しく思います。
次の話で少し進展があるのかないのか。ではまた三日後に会えることを




