第41話:【経営会議の終わり】『永遠のテラリウム』の運営、ついに完全自動化。管理者の私は、ただの『箱庭の住人』へ
「船長、第600区画の時空修復作業、完了しました」
神……もとい、かつての清掃員が、かつてのような威厳を消し去り、淡々と報告してくる。
彼から漏れ出る「創造の法則」は、今やダンジョンのOSと完全に同期し、床に落ちた塵一つさえも、自動的に「高純度の宝石」へと変換されるようになっていた。
私の経営は、今や「完璧」を超えて「現象」と化した。
「お疲れ様です。……皆さんも、もう休んでください」
管理室には、ゼータ、バレル、アルド、そして神が揃っている。
以前ならここで、次なる星系の攻略や、さらに効率的な搾取計画を議論していたはずだ。だが、今は違う。
『……ふむ。演算が完了した。全銀河の全事象が、このダンジョンのログに記録されている』
『あー、もう新しい獲物を探す必要もないか。ここにある酒が、この宇宙で一番美味いしな』
彼らの言葉には、かつてのような「強欲」も「探求心」もなかった。
あるのは、ただの「充足」だけだ。
【ダンジョン・テラリウム:現在のステータス】
・経済状況: DP(富)の概念が消失。あらゆる物質がダンジョン内で生成可能。
・運営体制: 完全自動化。私の意思決定すら不要。
・管理対象: 宇宙そのものがダンジョンの第1区画へ統合済み。
私は管理ホログラムのスイッチに手をかけた。
このスイッチを切れば、ダンジョンは「管理者」という概念すら必要とせず、ただそこに在り続けるだけの『永遠の楽園』になる。
「……皆様、この経営は終わります」
全員がこちらを向く。
かつての清掃員(神)、天才剣士、天才魔術師、元・勇者。
彼らは、私という管理者の元で、神以上に自由で、人間以上に豊かな人生を送っていた。
「私は、ただのスライムに戻ります。……皆様も、好きにしてください」
私は「管理者の権限」を解凍し、全権限をダンジョンという名の「システム」へ還元した。
ポチッ。
瞬間、管理室のホログラムが消えた。
ダンジョンの壁が透き通り、宇宙の星々が、まるで壁紙のように美しく瞬いている。
私はただの、プルプルとした小さなスライムに戻った。
『……おい、船長。これからはどうするんだ?』
ゼータが俺を指先で突く。
彼女の顔に、かつてのような殺気はない。
「……そうですね。……とりあえず、今日は皆で、最高の酒でも飲みましょうか。……経営なんて小難しいこと、もう忘れました」
バレルが笑い、神が溜息をつき、アルドがボトルを掲げる。
かつての敵も、部下も、獲物も、全員がただの「住人」となった。
チャリン……。
どこからか、最後のコインが落ちる音がした。
だが、もうそれは金銭ではない。ただの、思い出の音だ。
「……あー、美味い。……経営者として最高だったけれど、やっぱりこうして、何もしない時間が一番ですね」
私は、テラリウムという名の『宇宙という名の広大な箱庭』で、最高の仲間と共に過ごす、終わりのない休暇に入った。
神だった頃には見えなかった、平和で、静かで、完璧な景色。
私の経営物語は、ここで終わり。
そして、私というスライムの、新しい物語がここから始まるのである。




