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後日談:厄介な女

ライラのその後です。

かなりうっとうしいので、苦手な方はバックしてください。


「ねえ見て~今日の私の衣装はあの『マダム・ラ・ファムリータ』のよ~。

素敵でしょ~?うふふふ~、ギルがね、私の為に贈ってくれたの~」

くるくると回りながらライラがそう言って笑う。

「ギルはね~私の為に色々贈ってくれるのよ~、見る?」

そう言ってライラは箱を持ってきてその蓋を開けて見せた。

「素敵な宝石でしょ~、ギルが私を迎えに来たらこの宝石でアクセサリーを作るのよ~」

うふふふ~、と言いながらライラはまたくるくると回っている。


「これが噂の辺境の厄介者か?」

「そうだよ、本物だ」

「噂以上だな、しかも宝石って石ころばっかりだったんだけど?」

「あの女の頭の中では愛しいギルからの宝石になってるんだよ」

「あの服は支給品だろう?どこがドレスなんだ」

「それを言うとものすごい勢いで暴れまわるから絶対に言うなよ」

「うへ~面倒くさい」

「あ、これは忘れちゃいけないが、外部の人間との接触は決してさせないように。

これは監視員が代わるたびに必ず伝達される事項だからな」

「そんなに厄介なんだ・・・」

「以前やらかしてるらしいからな、その時の監視員はしばらく辺境回りに配属されていたよ」

「辺境回りってかなり危険なんだよな?」

「だから気をつけろってことだ」


ライラは開拓の仕事をしながらいつか迎えに来るギルバートを待っている。

いまだに来られないのはクロエがギルバートを縛り付けているからだと思っている。

そして、少しずつ壊れていくライラは支給品の服をギルバートからのドレスの贈り物だと、開拓中に見つけた奇麗な石をギルバートから贈られた宝石だと思うようになっていた。

そんなライラは監視員が交代する度にドレスや宝石を見せびらかすのだった。


以前「それは支給品の作業着だし、ただの石ころばっかじゃねえか」などと言ってしまった監視員がいたのだが、それを聞いたライラが両目をガッと見開き、

「クロエがクロエが悪いのよ!!あんたに何がわかるのさ!!

ギルを呼んできて!早く呼んで来い、このくそ野郎!ギルを呼べーーーーーーーー」

そう言いながらその監視員に掴みかかり、顔をひっかき、そのあたりの石で殴りつけたりと暴れまわり、監視員は結構な怪我を負わされたことがある。

それから監視員が交代する度にライラについての引継ぎが優先事項とされている。

時々外部の者に接触してギルバートへの手紙を渡そうとするため、他の開拓者たちよりも監視の手がかかり、かなりの厄介者になっていた。


そんなライラも30年も経ち、ようやく釈放された。

「ようやく厄介な婆とお別れだな」

「すごいよな、今でもギルとやらが迎えに来ると思ってるんだから」

「ある意味怖いな、ギルってやつも気の毒に」

「騎士団から連絡をするらしいから、俺はそのギルの安全を祈るよ」

30年も経つとギルバートが公爵令息だということも忘れ去られ、ライラの執着はギルという名前の男ということだけしかわからなくなっていた。


「やっとギルに会えるんだわ、待っててねギル」

そう言って王都まで歩く姿は鬼気迫るものがあり、誰もライラに近寄ろうとしなかった。

刑期は30年だったが、服役中の賃金は支払われるためライラは結構なお金を手にしていた。


「まずは宿に泊まって身支度をしないとね」

そう言って町にある大きめの宿屋に入ったが、今の身なりでは入れてもらえなかった。

イライラを抑えながら小さめの宿に泊まり、久々の風呂に浸かった。

開拓地では水で体を拭くか川で体を洗うくらいしかできなかったのだ。

「ふう、ギルに会うまでにドレスを新調しておかなくちゃ。

そうだ、マッサージとネイルもしてもらわないと」

そう言ってふと自分の手を見ると、日焼けし、やせ細ってしわが寄っていた。

髪も洗ってみたがキシキシと音がし、白い髪が垂れている。

顔も触ってみると、ぼこぼことしている。

恐る恐る浴室内の鏡を見た時、そこにはすっかり年を取り、日焼けし、腰の曲がった老人がこちらを見返してきていた。

「嘘、嘘よ、そんな!こんなんじゃギルに会えないわ」

そう言ってライラは泣き崩れた。

夢から覚めた気がした。


「クロエ、ライラの刑期が終わったらしい、騎士団から連絡があった」

「そうですか」

「一応公爵家からの監視をつけておいたから、心配はいらない」

「ありがとうギル様」

そう言って微笑み合う二人は年齢を重ねていたが、夫婦仲良く誰が見ても微笑ましかった。


数日後、ライラにつけていた監視からはライラがある小さな農村にとどまり、住み込みで仕事を始めたと報告を受けた。

現在の自分の姿を見たライラの心は折れ、それでも生きていくために仕事をしなければいけなかったのだが、見た目老婆のライラを雇う者はなく、たどり着いたのが農家の住み込みの仕事だったそうだ。

監視の者はその農家の雇い主に金を渡し、定期的にライラの情報を送ってもらうことにしたため、今後ライラが王都へ戻る様子があればすぐにわかるのだという。


「ようやく厄介な女から解放されたよ」

「本当に、わたくしたちの子供たちには厄介な人物を近寄らせないように気を付けませんと、ね」

「ああ、君にも苦労をかけた」

「本当に」

そう言って二人はクスクスと笑い合った。

「「「「おじいちゃま、おばあちゃま~」」」」

長男の子供たちが駆け込んでくる。

まだよたよたと走る孫、それをニコニコと眺めている長男夫婦。

それぞれ孫を抱きしめ、ギルバートとクロエはまた目を合わせて微笑むのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 最初はこんなヤツいるよね〜と思いながら読み進めていくと、あれ??かなりヤバイヤツ!? というかヤバイヤバイコワイコワイ………!!! 作者様 ここまでよくぞ書けました! 現代版ストーカーです…
[一言] 人間この時にならないとわからないのもかわいそうだなと・・・ こういう話を見るたびにざまぁwwwと思うのでなく反面教師にしなければと身をつままれる想いです。
[気になる点] 刑期30年でそんなに年寄りになるか?
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