後日談:厄介予備軍
ギルバートとクロエの子供がちょこっとだけ
数年後、2男2女に恵まれた公爵家では、子供たちと公爵家に関わりのある子どもたちが庭を駆け回っていた。
遊んでいる中で長男の支えになる子供を見極め、徐々に選別していく。
当然幼い頃から、公爵家の支えになれるよう教育している者は残り、ただ単に公爵家とつながりを持とうとするだけの家の子供は除外された。
10歳になったとき、クロエが令嬢と母親と面談をし、侍女やメイド見習を希望していればそう言った教育をするように侍女長に預けた。
婚約者になりたいと願う令嬢には、お茶会には招待するが、婚約は長男次第であることをきちんと話した。
そして、やはりいた、厄介な女予備軍が。
「おばさま、遊びに来てもいいでしょ?ね、来てもいいでしょ?
だって、家は隣だし、ハルもあたしが来てくれた方が嬉しいだろうし」
「こら、公爵夫人に向かってなんて口を利くの!やめなさい。
申し訳ありません、公爵夫人」
母親は必死で頭を下げる。
以前ライラが住んでいた屋敷は3年ほど前に叙爵されたばかりの男爵が住んでいる。
隣に住む際に挨拶に来た男爵に、
「他の貴族たちと顔つなぎができるから」
という理由で公爵家への出入りを許可した。
ただし、娘が10歳になるまで、という期限を設け、ユーナの2つ上の兄も一緒に過ごさせた。
母親は平民出身だったため、あまり貴族社会のルールを教えられずにいたのだが、他の貴族家から教師を紹介してもらい、2人の子供にはきちんと教育を受けさせた。
2年ほどして、兄の方は自分が貴族になった事をきちんと理解するようになり、公爵家に来ると妹の傍若無人な振る舞いを止めるようになっていった。
公爵家の長男ハルバートはその姿を見て、彼を信頼し、自分の側近候補として側に置くようになった。
妹のユーナはそれをハルバートが自分の事が好きで、わざと兄を側に置いているのだ、と勘違いした。
「兄ちゃんがいればあたしに会えるしね、ハルはあたしの事が好きなんだ~」
自宅で嬉しそうに話すユーナを見て、兄は父と母にあまりユーナを公爵邸に行かせない方がいいと伝えた。
どうやら妹は自分が貴族になった事で舞い上がっており、雲の上の高位貴族の令息に対して目に余る行動をとっている事に気がついてないのだ、と。
そして、まだ子供とはいえ、身分の差をきちんとわきまえさせないと貴族社会では生きていけない事を両親ともにしっかりと話しきかせた。
その後、ユーナは自由に公爵邸に行くことは許されず、兄から誘われた時にだけ出入りするようになった。
そして10歳の面談の時のユーナの態度でクロエはライラを思い出した。
「ユーナさんは今後公爵邸の出入りは禁止させてもらうわ。
それから、息子を愛称で呼ぶ事も止めてちょうだい、よろしいわね?」
「なんで?どうしてよ!」
「黙りなさい!ユーナ!!」
クロエはライラを思わせるユーナを気持ち悪く思い、怒りが湧いてきた。
パンッと音を立てて扇を開くと、顔の半分を隠しながらじっとユーナを見た。
突然の事にユーナも驚き、騒ぐのをやめた。
「ユーナさん、貴女は選ばれなかったの、おわかり?」
クロエの低い声はユーナの耳に届いた。
そして、今まで感じた事のない圧力を感じた。
「あ、あ」
「わたくしの言った事はわかったわね?男爵夫人よろしいわね?」
「はい、誠に申し訳ありませんでした」
そう言って腰が抜けたようになったユーナを連れて退出していった。
家に帰ると男爵夫人は夫にすべてを話した。
威圧されて驚いていたユーナだったが、時間が経つにつれ、
「ハルは絶対あたしを待ってるわ。
兄ちゃんだけ公爵邸に行くだなんてずるいし!」
そう言いだしたのを聞いて、男爵夫妻はどうしたらよいのか、と公爵邸で知り合った貴族の仲間に相談をした。
その時ライラの話を聞き、ユーナが同じ道をたどるのでは?と危惧され、せっかく貴族の仲間として認めてもらえ始めた夫妻はユーナを貴族令嬢として育てることをあきらめた。
平民時代の伝手をたどって、中規模の商会の下働きとして雇ってもらえた。
馬車を使っても半日はかかる距離の為、めったに帰ることはできない。
始めは嫌がって泣いてばかりだったユーナも、一緒に入った年頃の女の子達が何度も話しかけてくれるうちに気を取り直した。
まだ10歳という事もあったのか、次第に仕事を覚えるようになり、同僚の女の子達と仲良くできるようになった。
始めの頃は心配で週に2度も様子を見に来ていた男爵夫人も、次第に元気になっていく姿を見て、胸を撫で下ろした。
商会の下働きとはいえ、夕方にはきちんと勉強の時間をとってもらえる。
ユーナは時間と共に公爵家での思い出を忘れていった。
数年後、兄に婚約者ができ、顔合わせのために男爵家へと戻ったときの事だ。
兄の婚約者は子爵家の3女で、公爵家の侍女として働いているらしい。
皆で話をしている時、ユーナはふとハルバートの事を思い出した。
幼かったとはいえ、公爵家の嫡男に対してなんて振る舞いをしていたのだろうか、と顔色を悪くした。
「あら?ユーナちゃん顔色が悪いけど大丈夫?」
「ええ、ちょっと昔の事を思い出してしまって」
「ああ、ハルバート様に失礼な事をしたって思い出していたのか」
「兄ちゃん!」
「大丈夫だよ、父上と母上がきちんとお前を奉公に出したことで公爵家からは何も言われなかったよ」
兄の言葉にユーナはほっとした。
「いきなり貴族になってしまって私達皆慌てていたのね。
ユーナは貴族令嬢のマナーが難しいって泣いていたし」
「お母さん、やめて~、今はちゃんとマナーを学んだのよ~」
ユーナは商会の下働きでしっかりと勉強をし、侍女養成学校に通ったのだ。
今は伯爵家の侍女として働いている。
兄や母親からの黒歴史の暴露に顔を赤くするユーナだった。
そんな家族の姿を見ながら、男爵は自分の選択が間違っていなかった事に安堵していた。
高望みをして娘ともども破滅していくよりも、身の丈に合った生活をした選択は間違っていなかったと改めて思うのだった。




