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ライラの裁判が行われ、ライラは侯爵令嬢に対する2回の暴力行為と拉致監禁、ドレス強奪の罪が確定した。
裁判はハイアット侯爵家の強い要望から非公開で行われ、ギルバートとクロエは被告席からは見えない場所から傍聴していた。
次々と出てくる証拠と証言、ライラの自宅から押収された日記などから誰が見ても有罪であった。
だがライラはそれをすべて否定し、クロエの策略だと叫び続けた。
裁判を非公開にしたのはライラの発言でありもしない噂が広まるのを防ぐ狙いもあったのだ。
ライラは実家からも除籍されており平民として罪を償うことが決まった。
「ギルを呼んで!ギルがきっと私の無実を証明してくれるから」
最後までそう言って抵抗していたが、ライラは辺境の地での開拓労働30年が言い渡された。
「辺境の地での開拓労働ですか」
「ああ、ライラを処刑してしまうと色々邪推する者が出てくるかもしれないからね。
今後二度と会うことはないよ」
「ギル様、寂しいですか?」
クロエがそう問いかけると、ギルバートは苦笑しながら答えた。
「寂しいというより僕たち公爵家の間違った対応が生み出したのだと思うと、少し同情するね。
だからと言って、何をしてもいいわけじゃないし、自業自得の部分が大きいと思うよ」
「そうですわね、あれだけ人の話を聞かないで思い込まれると、どうしていいのかわかりませんもの」
「もう忘れよう」
そう言って傍聴席にいた全員は空いた被告席を振り返ることなく立ち去った。
ライラの家族は爵位を返上し、家財を売り払ってできる限りの金を慰謝料としてハイアット侯爵家に届けた。
かつて娘だったライラがご令嬢に迷惑をかけたことを深く詫び、今後は平民としてライラとは関わりなく生きていくことが綴られた手紙を読み、ハイアット侯爵は慰謝料の半分だけを受け取り、残りは家族の生活の為に使うように返した。
ライラの家族が無関係なのは裁判でも証明されており、父親と母親が娘を変えられなかった後悔の言葉が真実であると思ったからである。
が
クロエは結婚式までの日々を忙しく過ごしながら、ギルバートとの交流を深めていった。
ギルバートの幼馴染達はそれぞれ公爵家と関わる仕事をしたりして、ギルバートを支えた。
その婚約者達もクロエを支える良い関係が築けていた。
そして、ギルバートとクロエの結婚式の3週間前、『マダム・ラ・ファムリータ』に怪文書が届いた。
そこにはギルバートの本当の花嫁である自分のサイズにドレスを調整するように書いてあった。
驚いたオーナーが慌てて公爵家にその手紙を見せたところ、公爵家の護衛騎士たちが店を守ることになった。
「変な手紙が来たんですって?」
「ああ、おそらくあいつだろうな」
「でも王都への立ち入りは禁止になっているはずですわ」
「一応騎士団には報告してあるし、辺境へ確認をとってくれるそうだから大丈夫だと思うけど」
「けど?」
「あれだけ厄介な思考だからね、念のために護衛を増やすよ。
クロエもなるべく外出は控えてほしい」
「そうですわね、お茶会のお誘いなどありましたけれど、結婚後に伺うことにしますわ」
ライラの厄介さはクロエ自身が二度も経験させられている。
騎士団で確認が取れるまでは侯爵家も護衛を増やして警備を固めたのだった。
式の3日前にようやく騎士団から連絡が来た。
ライラは辺境の地で確認できたそうだ。
手紙はやはりライラが出したもののようで、辺境へ旅に来ていた馬車が休憩している際に御者に近づき手紙を託したという。
その際、
「私、侯爵令嬢に陥れられてここに送られちゃったの。
この間新聞でもうすぐあの意地悪な女と結婚するって書いてあって・・・。
でも本当のギルの花嫁は私なの。
ギルがもうすぐ迎えに来てくれるのよ。
結婚式は私とギルで挙げるの、だから『マダム・ラ・ファムリータ』にこの手紙を届けてほしいの。
サイズを直してもらわないといけないから、ね。
手紙を届けてくれたら結婚式後になっちゃうけど、
ギルが沢山お礼をするわ」
そう言ったらしい。
何故そんな話を信じたのか・・・。
御者いわく、多分頭が行かれているんだろうが、万が一にも本当だったら謝礼がもらえるかもしれない。
ただ手紙を届けるだけなら罪にもならないし、という軽い気持ちだったとか。
騎士団からは今回の件は現地の監視員の失態であり、ライラが今後誰かと接触できないように更に辺鄙な場所への移動をさせたうえで、更に監視を厳しくすると言ってもらった。
ギルバートとクロエはようやく厄介な女から解放され、無事に結婚式を挙げることができた。
大勢の人から祝福され、次代の公爵家は大いに繁栄した。
ここで完結といたします。
後日談などを後日また書いていきたいと思います。




