プロローグ
瑞華国。
遥か昔より水に恵まれた緑豊かな国。
だが……数年続く旱魃により、河川は枯れ果て、農作物は芽吹かない。
井戸の水はどんどん浅くなり、民は渇きと飢えに苦しんでいた。
そんな民達を尻目に、貴族は門扉を固く閉ざした。
蓄えている水や食料を民に配る者など居なかったのである。
「税を絞るだけの存在を助けて何になる?」
「多少の民畜生が死んだとしても、変わりなど幾らでもいる」
宮廷内の貴族達は、今日も苦しむ民を嘲笑う。
しかし……神仙を祖に持つ王家を持ってしても出来ないことを。
唯一人の風変わりな女がやり遂げてしまった。
「……え?
すみません、普通に泥水を濾過しただけですので悪しからず。」
破談になった縁談は数知れず。
「王都一の日陰の一族。アレが変人一家の女ぞ。」
「アレに縁談を持ち掛けてやった家々に雷が落ちたそうだ!」
王都一の行き遅れで、変わり者。
中級貴族、白家の娘。
白 明葵、二十四才独身。
「今日も、問題なく回っていますね」
風車小屋の風車が回る。
「泥水を組み上げて、樋を伝って濾過装置に流し込む全自動の絡繰を作りたいですね」
遥かに下に広がる王都を眺め、霊山の中腹で明葵は微笑む。
「愛し子、愛し子」
「今日はなにを手伝う?」
「なに運ぶ?」
その周りには人ならざる者たち。
「ふふ!
今日はもっと楽に濾過出来るように、新しい設計図を描きたいと思います!」
権力闘争に忙しい王侯貴族など関係ない。
私は私らしく!
西王母さまから教えてもらった知識で家族や友を守る!
「今日も……いい天気」
風に乗って桜の花びらが舞う。
……そう、この時の私はまだ知らなかった。
己の運命が激しく動き出す……前世からの因縁の出会いを。
「お前を誰にも渡さない。神仙だろうと、な……」
黒衣に身を包み、怜悧な美貌の大将軍に……激しい執着を向けられ、愛し尽くされてしまうことを。
……まだ、知らなかった。




