↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
81/101

再会と迫る脅威。

最終新章に突入。

【ファーレン・正門前】


「やはり俺の目の前に、何かが潜んでいる……」


「団長、この霧が晴れない限り、突入するのは危険です」


 打つ手がないウィラードは、黒い霧の近くまで慎重に近づく。

 探知スキルは使えず、敵の居場所はわからないが、本能と気配は剣が届く範囲に敵がいると伝えてくれる。

 だが、奴らにはこちらの動きが全て見えている。そう思わざるを得ない。


「分かっている。この中で戦うのは自殺行為だ……」


「さすがだねウィラード団長、その判断は正しい。だがベルゼアの霧の中では、お前たちに勝ち目はない」


 悩んでいると、霧の向こうから、どこかで聞いたことのある。懐かしい声が聞こえた。

 その声の主人は――


 匠だ――。


「匠殿なのか、それしか考えられん……あっ!!」


「久しぶりですね。ウィラード団長」


 黒い霧の中から姿を現したのは、真っ黒な戦闘服に身を包む匠の姿だ。

 別れた時より精悍な顔つきで、目は鋭い。だが、目の下にはクマがあり、疲労感が出ていた。その余りの変わりように、ゴクリと唾を飲む。


「元気だったか、心配していた。無事ならいい」


「俺は今、魔王軍の総司令です。ここからは武人同士の話し合いになります」


「……何があったのだ匠殿。 聞かせてくれないか」


 ウィラードには、匠が魔人族領で何を経験したのか知る由もない。

 だが、その過去は今の匠にとって、すでに終わった話だった。

 かつてのよしみから刃は交えず、匠は懐から一本の書簡を取り出して差し出す。


「今すぐにミラードに渡してくれ。了承すれば、ファーレンから手を引く」


 短い言葉のやり取りだったが、ウィラードには十分に伝わっていた。


 去り行く背中に「あれは虚偽の結婚だ」と叫んだとしても、今の彼は受け入れないだろう。


 そもそも魔王軍を率いて侵攻をしている現状を考えれば、個人の恨みだけで動くわけもない。


「最悪だ……全てが悪い方へと導かれている……これでは、もはや止められん……」


 ゴーレム、大悪魔召喚、そして偽りの結婚。すべてが最悪の形で繋がってしまった――。



 ※※※※※



【フィルモア城・ミラードの執務室】


「ウヮハハ!!何と、あのレベル1の匠が魔王軍の総大将だと、これは愉快だ!」


「ミラード陛下、軽く考えては駄目です」


 書簡を渡されたミラードは一瞥することなく机に放り投げ、敵の大将の名前を聞き、バカにした笑いを吐き出す。

 ウィラードが説得しても、剣呑な目つきは変わらない。

 そしてファーレンを包む黒い霧の正体を暴くために、パパ・ヤーガを呼び出していた。

 考えを改めないミラードに何か言ってやってくれと、ウィラードは目線を送る。


「なあミラード。ファーレンを一夜で落とし、あの黒い霧まで生み出すなど、わしら魔導士が束になっても到底できん。強大な魔力を保持している奴が暗躍しているぞ」


 ウィラードは吹き飛んだ城壁を上空から眺め、ほぼ全てが破壊されたと考えていた。

 そのことと黒い霧の話をパパ・ヤーガに話すと、彼は即座に計算を始め答えを導き出してくれる。


「レベル1が今回の侵攻の旗振りだと、そんな訳はない。明日まで休戦というなら準備して撃退するんだな」


 もうこうなったらミラードは話を聞かない。

 ウィラードは諦めの表情を浮かべ頭を下げるだけだった。

 パパ・ヤーガも同じように呆れながらも、机の上にある書簡を拾い見る。


「なるほど、軍拡したフィルモアが問題らしいぞ、こりゃ久しぶりの大戦になるようじゃ」


 書簡には、ゴーレム、大悪魔ルシファー召喚、などミラードが休戦協定を守らなかったことが原因で、即座に放棄しないと更に侵攻を続けると明記されていた。

 猶予は明日の夜明けだ。


「全軍に指示を出して、戦いの準備を始めさせろ。それだけだ」


 頑なに助言を聞かないミラードは、早く下がれと言わんばかりに、ヒラヒラと手の平を動かしていた。



 ※※※※※



【ファーレン・高級宿】


 ファーレン侵攻当初、激しく混乱していたが、一応の落ち着きを取り戻していた。大人しくしていれば害を与えないと宣言したことと、人狼のランドルフが警備兵の殆どを倒したことで、住民は諦めるしかなかった。


「ウガァァァァ!」


 街を掌握した匠は、高級宿に入り疲れを癒していたが、魂を削った影響が再燃して、ベッドの上で匠はもがき苦しんでいた。


「匠様ぁぁ、代償に十年……いえ、もう少し削れましたかねえぇぇ、このまま進行を続けるのであれば、あと10回ほどですかねえぇぇ」


「グハァ!構わない……ミラードを屠ることが出来ればそれで満足だ」


 復讐に燃える匠は苦痛に喘ぎながらも、決意は揺るがない。

 その強い信念と純粋な復讐心に、アビルゲイは恍惚とした笑みを浮かべる。


「あぁぁ、なんと美しいのでしょうぉぉ、これほどの心の震え、堪りませんねぇぇぇ」


「趣味が……悪い……悪すぎだぞ」


 苦痛に喘ぐ目の前で、恍惚な微笑まれれば、さすがの匠も殺気を滲ませる。

 歪む顔に、殺意が混じり始めるとアビルゲイは全身を大きく使い、大ぶりな所作で深く頭を垂れて膝をつき、服従の姿勢を示した。


「それは失礼しました。お礼としてドレインタッチでその苦痛を和らげてあげましょう」


「ああ、助かった……だが、礼は言わないぞアビルゲイ」


 アビルゲイは苦しむ匠の背中に両手を当て、生命力を分け与える。

 すると途端に顔色が良くなり、苦痛に歪んでいた表情が和らいでゆくのだった。



 ※※※※※



【翌朝・商業都市ファーレン】


 翌日、時間になってもミラードから返事が来ることは無かった――。


「ミラードから返事は来ませんでしたねぇぇぇぇ」

「ああ、想定済みだ。さあ、今日中にフィルモアを落とそう」


 匠が考えた電撃作戦が先行させたベルゼアの誘導によって、幕を開けようとしている。

 突然魔法陣が光はじめ、単身、匠はその中に消えていく――。


【フィルモア城・転移魔法陣】


 早朝の早い時間、場内の転移魔法陣には人影がなく、静まり返っている。

 突然、魔法陣が光り輝き、真っ黒の戦闘服に身を包む匠が姿を表す。


「さて、終わりにするとしよう――」


 我が囚われし力を解放する――。


 魂を削ることに躊躇しない匠は、また蘇りの指輪を使い、制限されている力を解放した。


「 ――出雲神速剣・七の形『う』


 まず初めに匠が狙ったのは、魔法士が待機している宿舎だ。

 近衛騎士団の宿舎は反対側にあり、ぶっ壊すには城ごと叩き切るしかない。だがそれではミラードを目の前で屠れないので狙いはしない。


 ドギャァァァァ――ン!!


 斬撃の衝撃波は凄まじく、城を大きく揺らし、宿舎は木っ端微塵に破壊される。


「さて次は、花道だな」


 ドギャァァァァ――ン!!


 残された時間はわずかだ。ギリギリまで匠は斬撃を次々と繰り出す。

 次に狙ったのは正門へと続く城壁、東西の通用門、そして魔道機関がある城後方を抉るように斬撃を繰り出した。


「はぁはぁ、流石に魔力が尽きそうだ――」


「匠様、お迎えにあがりました」


 隠蔽魔法を解除したベルゼアが突如現れる。

 そして、匠に肩を貸し、引きずられるように転移魔法陣へと向かい、光の粒子となって消えた――。


「まさか、今の黒服……タクちゃんなの」


 斬撃の爆発音を聞いた華菜はもちろん飛び起きた。

 窓ガラスが飛び散り、城内は地震のように揺れ、天井から降り注ぐ落下物を避けながら、おぼつかない足取りで原因を探していた。

 そして転移魔法陣がある広場を望むと、消え去る黒服を目撃したのだ。


「タクちゃん……本来の力が戻ったんだね……けど……許してくれるかな」


 魔王軍の侵攻という現実よりも、あの黒い背中が匠だったという事実が、華奈の胸を締め付けていた。

 嬉しい気持ちが湧き上がる反面、嘘の裏切りを許してくれるか正念場に立たされ、暗い気持ちがだんだんとせり出てきてしまう――。


【ミラードの寝室】


「わ、わわわ……なんなんだ、これは一体なんだ……」


 返事を出さなかった結果が、斬撃の爆発音で飛び起きるとは思ってなかった。

 城が幾度も大きく揺れ、ミラードは初めて地震を経験したらしく、ベッドの脇で震えていた。


「ミラード陛下、奇襲です。すぐに着替えてお逃げください」


 近くで寝ていた執事は、パジャマ姿のまま現れる。

 彼もまた恐怖で顔が引き攣り、それでも職務を全うしようとしていた。


「待機中の魔法士はどうなったんだ。奴らが対応すればいい」


「それが、宿舎ごと潰され、今は救助作業中なのです」


「第三近衛騎士団を緊急招集だ!」


 フィルモア城に残る戦力は、第3と普通科連隊だけだ、第一は現場で夜を明かし、第二はファーレン奪還の為昨晩のうちに移動していた。

 そして第三は、ファストワイバーンの飼育場近くの宿舎に移動していたので、被害を免れていた。


「陛下、正面と、東西の門が全て破壊され、城の結界が霧散してしまいました」


「これが、匠の答えなのだな、至急華奈の身柄を拘束するんだ」


 ミラードが即座に思いついたのは、匠の弱点である華奈を使うつもりだ。

 だが、自分が起こした愚策によって、そんな手はもう通用しない。


「報告します。待機中の魔法士は、ほぼ全滅。バキ・ラカンに数千の魔王軍が姿を現しました!」


「ふむ、慌てるな。ゴーレムを出して蹴散らすのだ!」


(来い来い、此方にはまだまだ隠し球がある。そう簡単に落とせると思うなよ)


 悪辣な王は、自分が勝てると信じているのか、下卑た笑みを浮かべている。

 しかし、その笑みが消えるまで、もう長い時間は残されていなかった――。


宜しければブクマ評価お願い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。