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巨乳好きの王様と、魔眼娘の対決。

メアリーが……。

【ツヴェルク帝国・最先端素材研究所】


 俺とヨハネは共に『たたら製鉄』を始めるに至って、先に炉の完成を急いだ。何事も初めての経験のため試行錯誤が続けられていた。


 ピシィ――!


「ああ、また炉がひび割れて崩壊しそうです」

「うーん、粘土で簡単に作れると思ったが、これは意外にデリケートなんだな」


 作ったことがなければ経験値はない。当然最初からうまくいくはずも無い。そもそも「たたらの炉は粘土」で出来ている。型を作りゆっくりと水分を抜かなければならない。そうしなければ摂氏1000度の熱に耐えられないのだ。


「水分率が原因なのだから、日数を掛けて乾燥させましょう」

「そうだな、効率を考えて何機も作って試そう」


 秀才と職人が揃えば、原因追及などサクサク進む。とはいえ相手は粘土だ。それなりの時間は必要だ。腕を組み思考していると、秘書が申し訳ない顔をして現れた。


「ヨハネ様、本日は来賓の対応があります」

「匠君、悪いがデゥエンディが来るので後は頼む」


 フィルモアに訪れた際、開発中のゴーレムを見てくれといわれ、デゥエンディ自らツヴェルクまで足を運んできたらしい。。ヨハネは後ろ髪を引かれる思いをしつつ、部屋を後にした。


【散歩中のメアリー】


「もう、男って何でああも熱中すると、女のことを置き去りにするのかしら」


 炉の試作と改良は何度も失敗を繰り返し、気付けば一ヶ月近くが過ぎていた。

 完全に暇を持て余していたメアリーは、所在なさげにツヴェルクの城内を散策するのが日課になっている。



 ※※※※※



【ツヴェルク帝国・ゴーレム生産現場】


「おおこれがフィルモアと共同開発した決戦兵器なのだな」


 職人たちの手によって、漆黒のゴーレムが一体ずつ組み上げられていく。

 複雑な配線の接続に追われていたり、骨格部分に駆動用の魔導機関を取り付けていた。


「はい、魔導機関にエレキテルを加えた事で抜群の力を発揮できています」


 同じ頃、エルフの国を統べる王――デゥエンディが、工業国家ツヴェルクの技術の結晶であるゴーレムの視察に訪れていた。


「それでは、ヨハネ様との昼食会に参りましょう」


 そして彼らは総統府に移動してくる――。

 もちろんそこにはメアリーがいる。合わせたく無いやつ程、接近してしまうものだ。


「ご機嫌よう」


 廊下を悠々と進む一団にメアリーは、脇に控え失礼が無いよう挨拶をする。デゥエンディとすれ違ったのは、僅か一瞬――。


(これは眼福、ドワーフの国にも爆乳がいるものだな。あの容姿……是非手に入れたい――)


 メアリーの圧倒的な存在感を放つ胸元へ、デゥエンディの鋭い視線が一瞬だけ吸い寄せられた。そして軽く舌なめずりをすると――。


「……言わずしても分かるな。素性を早急に調べさせろ」

「はっ!」


 付き人も侍女も傍にはおらず、手に入れるには何ら障害がない「階級」と瞬時に判断したデゥエンディは、隠語を使い理不尽な一言から、騒動は始まりを迎える。



 ※※※※※



【夕刻・繁華街】


 ようやく試作の炉作りから解放された匠は、総統府を出るなりメアリーから、切実な顔で不満をぶつけられていた。


「ねぇ匠様、スケスケのやつ、この季節のツヴェルクだと寒くて死んじゃう!」


「いや、俺に下着の相談されても困るんだけど……」


 男子たるもの、下着売り場に付き合わされるのは御免被りたい。

 そう思った匠は「先に戻ってるわ」とメアリーと別れ、一足先に宿に帰ることにした。


「エルフ族・・何でこの場所にいる」


 この角を曲がれば直ぐホテルだ。何気に入り口を見た瞬間、匠の視線はある人影に釘付けになる。


(……武装している……まさか!)


 武装している4人が遠巻きに入り口付近に立っている。護衛とは違う動き、そもそも安ホテルにVIPが来るはずもない。

 その瞬間、匠の脳裏に、魔王城を発つ際、レオンの言葉が鮮烈に蘇った。


 ――デゥエンディには、決してそのメアリーの姿を見せるな。


 その言葉を思い出した瞬間、匠の全身から血の気が引いた。

 大急ぎでメアリーの元へと引き返した――。


【繁華街】


「ふがふが!?」


 店に向かうと、予感は最悪の形で的中していた。メアリーは《《ま》》《《た》》頭から袋を被せられ、エルフ族の連中によって連れ去られようとしている。


「メアリー!」


 匠は全力で駆けた。


「待ってろ必ず助ける」

「ふが!、ふがふが!」


 あと一歩だった――。


「くそっ!」


 エルフたちは冷笑を浮かべたまま空間魔法を発動すると、歪んだ光が弾け、メアリーごと姿は掻き消えた――。



 ※※※※※



【総統府・ヨハネの執務室】


「ヨハネ! 大変だ!メアリーがデゥエンディに誘拐された!」


 慌ててヨハネの元へと駆け込み、息を切らせながら経緯を話す。すると、作業着姿のヨハネは一瞬で表情を険しくした。


「デゥエンディの野郎、我が国で何をしてやがる……! 」


 ヨハネは曲がった事をする奴は許せない性分だ。直ぐに特殊部隊の出動をきめ、全力でメアリー嬢を救うと約束をしてくれた。


「とりあえず君は急ぎなさい」

「助かる。ありがとう」


 匠は特殊部隊と一緒に、奴が泊っているホテルへ転移魔法を使い、救出に向かうのだった。



 ※※※※※



【デゥエンディが滞在する高級ホテル】


 一方、拉致されたメアリーが目隠しを外されたのは、デゥエンディが貸し切っている最高級宿の一室だった。

 目の前には、下卑た笑みを浮かべるエルフの王。メアリーは即座に得意の魔眼の力『魅了』を発動させ、この危機を脱しようと試みる。


 だが――。


「ククク、無駄だ。我が『アンチスキル』の前には、魅了の小細工など一切通用せん」

「なっ……!? 魅了が、効かない……っ!?」


 魔力を完全に霧散させられ、メアリーは一気に大苦戦へと追い込まれる。

 迫りくる貞操の危機。怒りゲージがマックスに達したメアリーは激怒して抵抗するものの――。


「パラライズ&アンドレッシング!」


 パラライズと空間魔法を駆使した、趣味が悪すぎる呪文を詠唱する――。


「やーん、勝手に服が脱げていく〜、や、やめて……っ!」


 デゥエンディの無慈悲な剥ぎ取り魔法によって身体の自由が奪われ、透明な侍女が服を脱がすように、丁寧に衣服が虚しく一枚、また一枚と剥がされてゆく。


「いいねいいね、その悲壮感に満ちた顔が最高!これは何度やっても堪らんな」


 あられのない姿には巨乳は必需なのだろう。完全に悦に入り、下劣な妄想を爆発させる変態戦闘狂の王。

 だが少しだけ救いだったのは、もこもこのあったか下着を履いていて、とりあえず完全に裸体を晒していないことだった。


「ククク……あと一枚で終わりだ。安心しろ、俺の寵愛は格別だぞ」


 デゥエンディの指先が、最後の一枚へゆっくりと伸びる――。


 ――バァァァン!!


「そこまでだ、この変態エルフ!!」


 メアリーの絶望が極まる寸前、部屋の扉がへし折れ、ツヴェルクの特殊部隊と共に匠が突入してきた。


「チッ、邪魔が入ったか……! 無礼者どもが、消し飛びおれ!」


 ドォォォン!!


 デゥエンディが無詠唱で風魔法を放つ――。


「ぐあっ!」


 暴風が部屋を薙ぎ払い、魔導銃を構えた特殊部隊が二、三人まとめて壁へ叩きつけられた。


「くっ……!」


 咄嗟に低く身構えた匠は、腕で顔を庇い、一歩踏み止まるのがやっとだった。


「クッソ、力を解放するしか無いのか――」


 匠が『鍵』に抗い、内なる力を強引に引き出そうと一歩踏み出した、その瞬間だった。

 デゥエンディの超至近距離で衣服を抱えたメアリーの瞳が、妖しく怪異な輝きを放った。


「――調子に乗るのも、大概にしなさいよぉぉ!!」


「ぐはぁ!なぬ……!? 身体が、固……っ!?」


 メアリーがデゥエンディに頭突きを食らわせた――。


 怯んだその至近距離から、隠し札である『石化の魔眼』を放った。

 勝利を確信し、視線は匠へ向いたままだったデゥエンディは、アンチスキルを発動する暇もなく直撃を受けた。


 ビキビキビキ――。


 デゥエンディの上半身が石へと変わっていく。


「ぐはあぁぁ、クッソアンチスキル……」


「ふんっ、このスケベエルフ、そのまま完全な石像になっちゃえば良かったのよ」


 さすがは魔法の達人。すぐさま発動したアンチスキルで辛うじて頭部の石化だけは免れた。

 とは言え数時間は指一本動かせないだろう――。


「大丈夫かメアリー!」


「助けにきてくれて、ありがとうございます匠様!」


 戦いに勝利したメアリーは満面の笑みを浮かべ、匠の元へ駆け寄ろうとした。

 ここまでは良くある展開なのだが――。


 ビリッ――。


 石化したスケベエルフの指に引っ掛かっていた、もこもこの防寒下着が裂けた。


「ひゃん!」


 メアリーは真っ赤になって胸元を押さえ、その場にしゃがみ込んだ。


(……この話だけは、一生触れないでおこう)


 顔を真っ赤にしてしゃがみ込むメアリーを見て、匠は――この件だけは墓場まで持っていこうと固く誓った。


 こうしてツヴェルク帝国を揺るがせた誘拐事件は、メアリーの頭突きと石化の魔眼という、誰も予想しなかった決着によって幕を閉じた。


 そしてこの事件を境に、匠とヨハネは国境を越えた"職人仲間"として、玉鋼の完成へ向けて歩みを加速させていくのだった――。

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