第37話 訪問者
もう言ってしまおう。
新たにメニューに加えたタンメンは好評だった。メニューに加えた初日はそこまで受注する数は無いと思っていたのだが、この町の人たちは新しいものが好きなのか、それとも、今までにない料理というものに興味が有るのか、いつものようにラウルさんがお店の方々と来店したことに端を発し、その場で4つの注文が入る。
テーブルの上に置かれた4つのどんぶり、それを見てラウルさんたちはこくりと頷き、じゃらりと音を立てて箸をとるとすぐに、どんぶりに盛られた山盛りの野菜と格闘を始めた。
そうしてずるずると音を立てながら啜る麵と、熱をくわえられた野菜のうまみが溶け込んだスープまで静かに平らげていく。
「……ぷふぁ。これも旨いな……」
そんなラウルさんの言葉が合図となって、それからタンメンの注文がはいるようになった。
夕方になり、夜の部の営業を始めるために暖簾を出しに外へと出ると、店の前にはモウおなじみになっているご領主様ご家族が並んでいた。
「新しいラーメンができたんだって? それはもう食べにくるしかないじゃないか!!」
「あなたったらもう……すみませんねテッタさん」
鼻息の洗いノイアーさんの事はほっておいて、しっかりと「あらあら」とか言いながらも、まだ寒い中で一緒に並ぶ奥様と子供たち。
「いえいえ。お待たせしましたね。どうぞお入りください」
「あぁ!! まってました!!」
どかどかと入っていくマイア―さんの後に続いて入っていき、ご領主様一家が来るといつも座る座敷席の方へと歩いていく。
その様子を見つつ、並んでいるお客さんに声をかけて、俺もまた厨房へと戻っていった。
いつもなら、この後は何もないのだが――。
「師匠!!」
「ん?」
その日の店じまい後、三兄弟がそろって俺の所へとやってきて、真剣なまなざしで俺に声をかけてきた。
しかし、それ以上は何も言わないで俺の方をじっと見つめている。
「あら? ここに皆さんいらっしゃいましたか」
店の奥からスッと姿を現すフユ。
俺は店が終わると次の日の仕込みをすることが多いので、居住区などにはいないことも多いが、きっと兄弟が居住区に居ない事に気が付いて確認に来たのだろう。
「えっと……私が居たらまずいですか?」
「ううん!! まずくないよ!!」
フユ様子を伺い、困って声をかけるとリークが返答する。
「師匠!! フユねぇちゃん!!」
「ん?」
「どうしました?」
声を張り、おれたちの事を呼ぶとすぐリークが頭を下げる、それに倣って二人も頭を下げた。
「な!? なんだ!? どうした!?」
「あ、あの……」
俺も困って返事を返すと、リークがスッと厨房奥のドアを指さす。
「なんだ? 何かあるのか?」
「えっと……ちょっと来てください」
「あ、あぁ……」
フユに視線を向けるとこくりと頷いたので、三兄弟に連れられて厨房奥のドアの方へと移動し、ガチャリと音を開けてドアを開けた三兄弟が、そこで何やら誰かと話をしていることに気が付く。
「ん? 誰かいるのか?」
「えっと……」
スッと指でフユに指示を出し、何か持つように合図をする。
そうして一気にドアを開いて外へと飛び出した。
「え!?」
「あ!?」
「ん!?」
急に飛び出してきた俺とフユに驚きの声御が上がる。
俺もとっさに身構えたが、しかしすぐにその警戒を解いた。
「な、なんだ? こ、子供と……女の人?」
「どういう事でしょう……」
「し、師匠!! この人たちは悪いことしてません!!」
リーク達三兄弟が女性たちを守るようにして前に立つ。
「……一体どういうことか説明してくれるか?」
「も、もちろんです」
そうして、一旦その三人に店の中へと入ってもらうことにするのだが、さすがに厨房裏から入ってもらう事はできない。この厨房は秘密もあるし、汚されてしまうとまた掃除をし直さないといけない。
なので、フユに言って表の入り口のカギをかけさせ、兄弟には表から入ってもらうように誘導してもらう。
その間に俺は湯を沸かす準備をする。
そうして入ってきた女性とその子たち。
――ん? この親子は獣人族の人達か……。しかし……。
この町では普通に暮らしをしている獣人族の人たちも多いし、以前にあったいざこざもあるにはあるが、大半の方々は獣人族の人たちとも仲良く暮らしをしている。
なので、暮らしていくには困らない程度の生活はしているはずなのだが、今目の前にいる三人はそんな生活が感じられない。
この雪降る北部にいるのに、薄手の服が一枚だけで、しかもところどころ穴が開いているし、履いているスラックスもボロボロで薄汚れている。
靴も、元がブーツなのか靴なのかわからないほどにズタボロになっていて、素足が見えている部分もある。
――何があった?
俺の記憶では、この三人に見覚えが無い。結構な人口がいるので会っていない人たちもいるだろうけど、それでも言い方は悪いがここまで『汚れている』人にはあったことがない。
「実は昨日――」
そう切り出したのはリークだった。
お昼の休憩をして、足りない材料を取りに保存庫へと向かう時、物音に気が付いてそれを確認しようと音を追いかけた。
すると、店の裏手にあたるもの陰で動く何かを見つけ、そっと近づいてみるとこの女の人と子供が2人藁で編まれた外套を付けて座り込んで震えているのを見つけた。
心配したリークが声をかけると、子供二人がお腹がすいているというので、戻ってルークとリザに声をかけ、自分たちの賄を少しだけ持ち出して子供たちへと与えた。
女性は母親だといったみたいで、一緒に食べるように勧めたけど、子供だけでいいと断ったそうだ。
そうして、もし食べるものが無くて困っているのなら、明日もここにきてというと、今日も昼間に来たそうなのだけど、さすがにこれはどうしようと兄弟で相談した結果、まかないを少し分けた後、夜に俺に相談することにしようと話し合い、そうして再びここに来てほしいとお願いして今に至るというわけらしい。
「なるほどな……」
話をしている間に沸いたお湯を、いつの間にかお茶にして持ってきてくれたフユ。それを落ち着きながら飲む親子を見つつ、俺はカウンター席で頷いた。
「まずリーク、ルーク、リザ」
「はい!!」
名前を呼ばれてリークが返事をかえし、2人も俺の方を向く。
「相談できて偉いぞ。何ができるかを考えて、俺に相談しようと思ったのは偉い」
「えへへ……」
「だがな? 昨日会ったならその日に相談するってこともできただろ? なぜしなかったんだ?」
「そ、それは……」
俺に言われてしゅんとするリーク。
「あ、あの!!」
「はい」
リークが言われたことで、気の毒に思ったのか、女性が俺に声をかけてくる。
「わ、私がいけないんです!! こんな子供にまで心配をかけてしまって……。私が今日もここに来なければこんなことにはなってません!! どうかその子を叱らないでやってください!!」
「……えぇ~っとですね、叱っているわけじゃないんですよ」
「え? でも、どうして連れてきたんだって事じゃ……」
俺も言い方が悪かったなと反省しつつ、スッとリークの頭をなでる。
「いえ、俺が言いたかったのは、昨日言ってくれれば俺もそれに向けて動けたのにってことですよ」
「え?」
俺の言っていることに疑問が浮かんでいる様子で困惑する女性。
「あの、テッタさんはさんはですね、昨日話してくれたら、昨日あなた方を助けることができたのにって言ってるんですよ」
「え?」
見かねたフユが、俺が言いたかったことを代弁してくれる。
それに俺が頷くと、リーク達兄弟もほっとした表情を浮かべた。
「たぶんお前たちの事だから、そんな事を相談したら俺を困らせるとでも思ったんだろ? でも、今日もこの方々が来たからどうにかしたい。でもできない。それで事後に俺ってところ。違うか?」
「「「……」」」
三人でこくりと頷いた。
――間違いなくこの子たちは優しく育ち始めてる。でもまだ大人に、他人に助けてもらうという事にためらいがあるんだろう。
「俺はお前たちのなんだ?」
「し、師匠です!!」
「なら、困ったら相談してこい。遠慮なんてするな!! 俺はお前たちの師匠でもあるが父親でもある。そう思ってるんだからな」
「……はい」
三人が頷いたところを見て、俺は三人の頭をなで、そうしてスッと立ち上がった。
「フユ」
「はい」
「皆起きてるか?」
「はい!!」
「じゃぁ、手伝ってくれるように声をかけてきてくれ」
「わかりました!!」
俺が何をしようとしているのか理解したフユが、足早に奥へと歩いていく。
「えっと、お名前をお聞きしても?」
「あ、す、すみません!! 私がアライと申しまして、この子がラス、この子がカルと申します」
――ん? アライでラスとカル? あぁ、その耳ってもしかしてアライグマさんですかね? 女性の耳を見ながらそんなことを思ってしまった。
「あの?」
「あ、えっとですねあなた方……」
「は、はい……」
何を言われるのかと少しだけ身を引いて構える女性。
「お腹すいてません?」
「へ?」
少しだけ間が抜けた返事を返してしまった女性ににこりと笑みを返すと、ちょうど手が空いていたメンバーが店の方へと入ってきた。
「さぁ、何か作ろうか」
フユから話を聞いていたメンバーは、何も言わずただ笑顔でこくりと頷き、エプロンをするなど、静かに準備を始めるのだった。
お読みいただいた皆様に感謝を!!
アライ ラスとカル
もうわかりますよねw
次回
第38話 新たなキキ
お楽しみに!!




