第35話 雪の下
第2章開幕!!
※主要登場人物等は別途で掲載している設定集に掲載しております。
「ほい!! こっち塩ラーメンあがったよ!!」
「はい!!」
「師匠!! 材料が足りないです!!」
「まじか!! 手が空いている奴、悪いが材料を切ってくれ!!」
「「「はい!!」」」
目まぐるしく注文が入る厨房で、鍋を振り、湯切りをしてどんぶりに麺をよそい、形を仕上げて給仕を担当している人に渡す。
その間にも新しい麺をお湯の中へと投入し茹でていく。
俺の後ろでは三兄弟に加えて、この日の警護役として残っていたアンドレとミラにも、材料をカットしてもらい、別の器に用意してもらっていた。
新年になり、休業の間にみんなで体を休め、いざ開店日になったので店を開けるために外に暖簾を出しに行くと、そこにはすでにお客さんがずらっと並んで開店を待っている状態だった。
慌てて、店の中へと戻ると同時に、お客さんも店に入ってくる。俺は警備役の二人に列の整理を頼み、厨房の中へと急いで入った。
この『5日だけ』の休業日があったことで、店の中はかなり忙しくなっていた。
予想はしていた。だから前もって材料などは大量に切っておいたし、スープに関しても新たな寸胴の発注をしておいたので、それをフル回転で仕込んでいく。それでも間に合わないくらい忙しい。
「余裕が無いな!!」
「そうですね……休憩どうしましょうか?」
ひとりごとをつぶやいたつもりだったが、どんぶりなどを下げてきたナルミに聞かれていたようで、厨房とお客さんの入りを見ながら問いかける声が返される。
すでに開店から2時間たち、お昼近くになっても一向にお客さんが減る様子がない。
しかし、出来れば俺はブラックな環境に職場をしたくはないので、休憩はしっかりと取ってもらいたいと考えている。考えているができるかどうかは今の状態を見る限り難しいだろう。
「俺の事はイイから、先に厨房の中の人と、給仕の方を交代しながら賄いを食べてくれ!!」
「「「わかりました!!」」」
返事をする余裕が無い人はこくりと頷き、返事ができる人は大きな声で返事を返してくれる。
俺は急ぎ麺をゆでている場所から移動して、この日の賄を作っていく。簡単なものしかできないから、この日は切り分けておいた野菜くずと、茹で時間を確認するために茹でておいた麺を使い、ジャペッパとラー油を混ぜた焼きそばを作っていく。時間に余裕ができた人から食べていけるように、かなり大量に作る。
そうして、順々に賄いを食べていく従業員たちを見ながら、俺はまた麺を打つ作業に入った。
♢♢♢♢♢
「ふぅ~……」
「今日はかなり混んでましたね……」
お客の足が一旦途切れたところで、暖簾を一時下げ、俺たちの休憩時間へと入った。
時計を見るとすでに午後の3時を過ぎていたが、これは前世でも似たようなものだったので仕方がないと納得する。
「すまんな遅くなってしまって」
「いえいえ……。こうしてテッタさんと一緒に食べられるんですから役得ですよ?」
休憩に入るまでに賄いを食べることができなかったフユとともに、客がいなくなったテーブルに座って二人で焼きそばをすすった。
俺の方を見てにこりと微笑むと、箸を焼きそばに向けるフユ。
「夕方からの営業までは休んでいていいから」
「そういうわけにはいきません。しっかりと準備しておかないと何があるかわかりませんから」
上品に麺を口に運びながら、フユが頭を左右に振った。
そうして俺とともに賄いを食べ進めていく。
開店とともに忙しくなっていたのには訳がある。このフクキタリという世界は、実のところ新年を祝うという習慣が、一部の上層部の人たちにしかないらしい。
上層部というのは王族や貴族、前世でいう所のお役所仕事をしておられる方々。
それ以外の一般人に関しては、新年という概念はあるものの、休みになることは無く、商売をする人はもちろんだが、一般層の人たちは何かしら働くか動きがある。
冒険者なども新年になったから休むという事は無く、冒険者ギルドも1年中扉は開いている。
つまりは、昨年度末に開店した『北の方』で食事をすることができるようになったけど、ここ数日間閉まっていたために、食事をする場所が少なくなってしまうため、働く人たちにとって温かいものが食べられる場所が閉まっているというのは、この寒い地域ではかなり生活にも響くという事なのだ。
俺たちが休みの間は、孤児院の子たちが作っているシュウマイの屋台も休みにしているから、ダブルでがっかりする人が多くいたという事になる。
そういう事もあって、この『北の方』の開店を心待ちにしてくれていた方々が、仕事に行く前、仕事中、仕事帰りに店に立ち寄ってくれた。
心待ちにしてくれるほどに、俺の店を思ってくれているという事が少しばかり嬉しい。
――まぁ、そう唾を飛ばしながら熱弁を奮っていたラウルさんがいたから知ったんだけどね。
もちろんラウルさんは初日の開店前に並んでいた。
「これから夕方まで仕込みをするんだけど、足りなくなりそうなものってあるかな?」
「スープと、焼き豚じゃないですかね?」
賄いを食べて一息入れた俺の問いかけに、リークが答える。
「ん? そんなに減ったのか?」
「スープは作り足ししていたものがあるので、ここからまた作り始めれば何とかなりそうですけど、焼き豚が足りなくなりそうですね」
「あぁ、確かに『塩豚』が良く出てたからなぁ……」
麺を打ちながら、注文を聞いていた限り、結構な数が出ている印象があった。
「なら、今から少し作っておくか……あとは無いか?」
「焼きそば用の麺が足りないかもしれません」
「へぇ~。意外と注文する人がいるんだな」
実のところ、新メニューとして加えたはいいけど、あまり人気は無いだろうなと思っていた。
「あのパリッとした食感と掛けてある熱々のアンで、体と心もが温まると人気なんですよね」
「なるほどな……」
「男性はやっぱり肉系のラーメンが、女性に関してはさっぱりしているラーメンが、今日の所は良く出てますね」
注文を聞いているナルミとフユが、今日のデータとして教えてくれた。
「でもシュウマイも良く出てますよね」
「そうなのよね。シュウマイとラーメンの組み合わせってよく合うみたいで、結構皆さんが一緒に食べていかれるんですよ」
「そうだろうな。俺がいたところじゃ、ラーメンのお供と言ったら――というものがあったからな」
「そうなんですか? それはシュウマイですか?」
「いやそれはな……」
少し考えてみる。
――今はラードというか、動物性油脂が採れるようになったから、油という点では何とかなるか……。しかし動物油だからくどくなりすぎるかな……。あとは中に入れる野菜だけど、キャベツか白菜みたいなものがあればいいんだけど……。
「この地方では、こういう丸くて緑色の葉が重なるようになっている野菜ってあるか?」
「あぁ、テッタさんの仰られているのはキャベンですかね?」
顎に指をあてて考えていたフユが答える。
「あるのか!? 市場とかで見たことが無いんだが……」
「あるにはあるんですが、確かこれから先が収穫される時期だったはずですけど……」
「なるほど……季節ものなのか……」
「あ、いえ、実は温かくなってから採れる野菜なんですけど、冬期間に雪の下で寝かせておくと甘くなるんで、今もたぶん雪の下にあると思います……」
「あぁ!! 雪下キャベツか!! あるにはあるのか。そうするとまたいろいろと作れるようになるな……」
俺の脳内にはいろいろな料理のレシピが浮かんでは消えていった。しかし、『今』作るとしたら、アレに挑戦するしかない。
「ちょっと市場に行ってくるよ」
「では私もお供しましょう」
過ぎに着替えて店を飛び出すおれの後を、フユとアンドレが追いかけてきた。
♢♢♢♢♢
もうすでに新しい野菜を補充している軒先に、俺が顔を出すと、店の主人が俺に気が付いてにこりと微笑む。
「すみません。キャベツ……いや、キャベン? はもうありますか?」
「お!? ちょうどいいところに来たね。今日が収穫初日で、今から並べるところさ」
「おぉ!! 買います!! と、とりあえず10個!!」
「え? 10個もかい?」
「はい!!」
お試しという事もあるし、使えないときには違うものを作ればいいかと、10個買うことに。
ぴこん
「ん?」
聞きなれた音が脳内に響く。
【雪下キャベン 雪の下で熟成されたキャベン。甘くなっていて煮込み料理などに最適。ロールキャベンが食べたいです!!】
おなじみの気持ち駄々洩れな文字列を見てちょっと笑ってしまう。
「まぁ、作れないことは無い……か」
「何ですか?」
メッセージにも似た文字列を見ながらこぼした独り言。それを隣にいたフユが聞いていたらしい。
「あ、いや何でもない。さぁこれを使ってアレを作るぞ」
「あれ?」
不思議そうに俺を見つめているフユの事は気にせず、俺は店の中でさらに食材探しをするのだった。
お読みいただいた皆様に感謝を!!
新章はアレを作る所から!!
次回
第36話 私は食べられます!!
お楽しみに!!




