第1話 終わりと始まり
※新連載です。
当分はこちらを重点に執筆掲載していきます。
迫りくるキラリと光る刃、少しだけ見開かれたくらい瞳、半開きに薄ら笑うクチ。少しずつ俺の方へと近づいてくる。
「ハハッ……」
意外と、そんな状態でも冷静な自分に驚く。何より目の前で迫る『刹那』な瞬間。
聞いていた通りにスローモーション――いや、動画を一コマずつ見ているような感覚。
「うっ!?」
最初に感じたのは、相手の生ぬるい息遣い。そして次に熱さ。不思議なものだ。覚悟をしていたものが先に来ると思っていたのに、感じる順番が違うだけでこんなにもはっきりと違いを感じている自分が。
「ちっ……しねよ」
「な?」
「ぐはぁ……い、いてぇ……な」
「へへっ。邪魔してんじゃねぇよ。こうなるのはお前のせいだからな? オッサン」
「きゃぁぁぁぁぁ!!」
「に、にげ……ろ」
俺の方を向いて大きな声を出し叫ぶ少女に、俺は倒れこみながら手を伸ばす。
「で、でも!!」
「良いから行けよ!! 邪魔なんだよ!! せっかく助けようとしてるのに……無駄にすんな!!」
「…………」
「……君だけでも……な?」
「っ!?」
そうして腰震える足を動かし、少女は俺たちを残して去っていく。
「はっ……恰好つけたつもりかオッサン。終わりだよアンタ」
「まぁいいさ……若い子を守れたならな」
「……ちっ。しらけた。あぁ~あしらけちまったよ。じゃぁなオッサン。せいぜい長生きしてくれよ?」
「て、てめぇ……」
腹部から染み出す熱く赤い液体。それを見て口角を上げる相手の目は、とても冷めていて光が失せていた。
そうして俺を一瞥した相手はくるりと身を返し、静かに歩いて去っていく。
「ま、まぁ……何とかなった……か?」
痛みを訴える腹部を抑えていた手を上げてみる。
「はは……やっぱり痛てぇじゃねかよ……」
そうして足に力が入らなくなると、自分の体重を支えきれなくなり、そのまま倒れこんだ。
そうして俺は意識を失った。
♢♢♢♢♢
「……ここは?」
むわぁっとむせるような蒸し暑さに気が付き目を開ける。
「あれ? 俺ってどうな――」
「起きられましたか?」
「え?」
自分の後ろから聞こえる鈴が鳴るような声と表現した方がいいのか、なんというか頭にも耳にもすごく心地よく感じる音色。
慌てて体を起こし、声のした方へと顔を向ける。
「え? えっと……どちら様ですか?」
「この世界といいますか、この星と言った方が甲斐さんにはわかりやすいですかね? この星はフクキタリといいます。そのフクキタリを管理しております女神の一人でパリピュアと申します」
腰を90度程までまげて俺に頭を下げるすんごく美人。
――え? パリピ? えぇ~そんな名前の……。
「そうなんですよ夜な夜な街に繰り出しては大勢と騒いで……って違います。そのパリピではありません。パリピュアです」
「え!? す、すみません。 というかい今の聞こえてるってこと!!」
「はい。女神ですから」
にこりと微笑むその美人さん。
さらさらと音が鳴りそうなほどまっすぐ腰まで伸びた金色の髪に、くりくりと大きな濃緑の瞳。小さいけどぷっくりとピンク色のクチ。それらが小さな顔にバランスよく配置されている。着ているものも真っ白なドレスのようなワンピースのような装い。
――え? どのこのアイドル様ですか? あ、そんなところに立っていると透けちゃいますよ?
「いえ、だからアイドルじゃなくて女神ですって。え? 透けちゃう? きゃっ!!」
顔を少し赤くして立っている場所を変える。
そりゃまぁ太陽を背にしてたらその姿がすっきりと見えちゃうのは仕方ないでしょ。
「うう……甲斐さんって意外と……」
「え? なんです?」
「あ、ううん!! いえ、なんでもありませんよ? ところで甲斐さん」
「はい?」
明らかに話をそらそうとする女神様。しかし出来ている俺はそれをスルーして返事を返す。
「どこまで覚えていらっしゃいますか?」
「どこまで? どこまでって……あ、そういえば俺って腹を刺されたんじゃ……」
思いだして自分の腹を見る。しかし刺されたような傷跡もなければ出血していたような跡もない。
「甲斐さんはあの日、地元の協会会合へとお出かけになりまして、結構お酒を飲まれました。その後帰宅途中で裏路地から聞こえる悲鳴を聞きつけ駆けつけ、そこで襲われそうになっていた女子高校生を助けようとして、男性に腹部を刺されました」
「そ、そうですね……刺された……はずですね」
「そのまま甲斐さんはお亡くなりになられたのです」
「あぁ~……やっぱりそうですか。出血が多かったみたいなのでそうなるかなぁっとは思ってましたね」
「……」
無言で俺を見る女神様。
「なんですか?」
「いえ、意外とその……甲斐さんは冷静だなと思いまして」
「ん~……。まぁそうなっちゃうことは覚悟してましたしね。それで」
「はい?」
「その女子高生は助かったのですかね?」
「はい。そのまま近くにいた人に救援を呼び、取って返して甲斐さんのもとへ駆けつけたのですが……」
「……うん。その子が無事ならいいんですよ」
「あの……」
うんうんと納得していると、女神さまが顔を曇らせる。
「どうしました?」
「言いにくいのですが……」
「はい」
「あの場で甲斐さんが亡くなるのは予定外の事だったそうでして……」
「は?」
申し訳なさそうに頭を下げる女神様。
「その女子高校生は、その後に偶然通りかかった男性4人に助けを呼び、その中の一人が空手の指導員でして、その方が撃退して誰もケガしない――というのが地球の女神様の予定になっていたと……」
「え? じゃぁ……俺は無駄死に……?」
「い、いえ!! 無駄死にってことは無いですよ!? 立派じゃないですか!! 力ない女子高生を助けるために駆けつけたのですから!! ね? 落ち込まないでください」
「まぁ……そうですね。そういうことにしておきます。はぁ……」
女神さまが慰めてくれるけど、結構精神的には来ている。まさか俺のとった行動が上の『予定外』だとは。
「そ、それでですね……」
「……はい」
「地球の女神様から問い合わせが来まして、この星――この世界へと転移していただこうかと思っておりまして」
「転移……ですか?」
「はい」
こくりとうなずく女神さま。
「残念ながら甲斐さんの肉体はすでに荼毘にふせられておりまして、地球ではもう肉体がないのです。そういう理由でそのまま何もなかったとは出来ないのです」
「なるほど?」
「ですので、この世界で新たに肉体を作り、その肉体へと精神を転移させることにしました」
「ふむ?」
「現在、甲斐さんはこの世界で18歳程度の肉体になっておりまして、できる限り前世でのお顔を再現させていただきました。そして転移していただくという事で、スキルをお付けしました」
「スキル?」
「前世での経験が能力として可視化されたものですね」
「なるほど?」
「……よくわかっていませんね?」
「すみません。さっぱりです」
はぁ~っとため息をつくパリピュア様。
「それはおいおいでいいです。甲斐さん、この世界に新たな風を通してみませんか?」
「新しい風……とは?」
「ふふっ。あなたには新風を吹かせることができるだけの経験がありますよね」
「経験って言ってもラーメン作るくらいしかないですよ?」
「…………」
静かにコクコクとうなずく女神様。
「よろしくお願いしますね?」
「え? あ、ち、ちょっと!!」
すうっと消えた自称女神様。
こうして新たな世界で、ラーメンを作ることしか経験してこなかった男の生きるための奮闘が始まる。
「え? ちょっと女神様!! ここはどこですかぁ~!!」
何も説明がないままに、俺は見渡す限り青々と草が生い茂る草原の中で置き去りにされた。
『あ……説明するの忘れちゃった。てへっ』
ちょっとドジな女神さまからの贈り物――新しい世界での生活。
「まぁいっちょやったるか!!」
草原の中で一人あらたな人生が幕を開けた。
お立ち寄りいただいた皆様に感謝を!!
連載作品を書く時は毎回この『後書き』にもちょっとしたことや、執筆余談などを書き込んでいるのですが、今回も書いていきます。
初回のあとがきですが、この作品の主人公について。
出身地のモデルになっている地域は、『日本三大ラーメン』の一つです。
それがどのように反映されていくのかはお楽しみに。
次回
第2話 けもみみだと……!?
お楽しみに!!




