第39話 「新たな始まり」
和平から、一週間が経った。
王都リベルナは、平和な日常を取り戻していた。
街道には商人の隊商が戻り、市場は活気に満ちていた。
衛兵の数は減り、城壁の補強工事も終わった。
戦争の痕跡は、少しずつ消えていった。
一日目
朝、あかねは一人で市場を歩いていた。
久しぶりの、のんびりとした時間。
果物屋、パン屋、魚屋。
どの店も、賑わっている。
「いらっしゃい、あかねちゃん!」
果物屋のおばさんが、笑顔で迎えた。
「おはようございます」
「戦争、終わって本当に良かったわね」
「ええ」
あかねが微笑んだ。
「みんな、安心して暮らせます」
「そうね。あなたたちのおかげよ」
おばさんが、リンゴを一つ余分に袋に入れた。
「これ、サービス」
「ありがとうございます」
あかねは、市場を歩き続けた。
他の店でも、同じように声をかけられた。
「戦争で頑張ってくれたんだって?」
「ありがとう」
「和平交渉も守ってくれたそうね」
人々の感謝の言葉が、心に染みた。
自分たちは、この街の人々を守った。
その実感が、あかねを幸せにした。
昼、六人はギルドに集まった。
久しぶりに、通常の依頼を受けるためだ。
ロビーは、平和な雰囲気だった。
冒険者たちが、依頼ボードを見たり、仲間と話したりしている。
戦争中の緊迫した空気は、もうない。
「久しぶりね、この感じ」
リーナが言った。
「ええ。平和って、いいわね」
セリアが微笑んだ。
六人は、依頼ボードを見た。
Bランクの依頼。
『依頼内容:魔物討伐(オーガ3体)
依頼主:農民組合
報酬:300シルバー
危険度:低』
『依頼内容:商隊護衛
依頼主:商人ギルド
報酬:400シルバー
危険度:低』
『依頼内容:遺跡調査
依頼主:王立歴史学会
報酬:500シルバー
危険度:中』
「どれにする?」
セリアが尋ねた。
「オーガ討伐は?」
トムが提案した。
「簡単そうだし、久しぶりの実戦訓練になる」
「そうね」
六人は、オーガ討伐の依頼を受けた。
午後、六人は北の森へ向かった。
オーガが出没している場所。
一時間ほど歩くと、オーガを見つけた。
三体。
身長四メートル、巨大な棍棒を持っている。
「行くわよ」
セリアが剣を抜いた。
戦闘が始まった。
でも、六人にとっては簡単すぎた。
セリアとダリウスが前衛で二体を引きつける。
リーナが矢で一体を牽制する。
エルミナが魔法で支援する。
トムとあかねが、隙を突いて攻撃する。
十分後、三体のオーガは全て倒れた。
「簡単だったわね」
リーナが呟いた。
「ああ。俺たち、確実に強くなってる」
トムが自分の手を見た。
「レオナルドの訓練、戦争での経験」
「全てが、俺たちを強くした」
「そうね」
セリアが頷いた。
「でも、慢心しないようにしないと」
六人は、オーガの耳を証拠として切り取り、街へ戻った。
夕方、ギルドで報酬を受け取った。
銀貨三百枚。
六人で山分けすると、一人銀貨五十枚ずつ。
「お疲れ様でした」
職員が言った。
「それと、ギルドマスターがお呼びです」
「ギルドマスター?」
「はい。二階の執務室へどうぞ」
六人は、顔を見合わせた。
何の用だろう。
二階の執務室。
扉をノックすると、中から声がした。
「入れ」
六人は、中に入った。
広い部屋。
大きな机、本棚、地図。
そして、机の前にギルドマスターが座っていた。
五十代の男性。厳格な表情。
「来たか、銀の絆」
「はい」
セリアが答えた。
「用件は?」
「座れ」
ギルドマスターが、椅子を指差した。
六人が座ると、ギルドマスターが口を開いた。
「お前たちの活躍、聞いている」
「ドラゴン討伐、戦争での功績、和平交渉の護衛」
「全て、素晴らしい」
「ありがとうございます」
「だから、提案がある」
ギルドマスターが、書類を取り出した。
「Aランク昇格試験を受けないか?」
「Aランク!」
六人は、驚いた。
Aランク。
冒険者の中でも、上位十パーセントしかいない。
高度な技術、豊富な経験、強力な実力が必要だ。
「でも、私たちはまだBランクになって……」
セリアが言いかけた。
「三ヶ月だ」
ギルドマスターが続けた。
「普通なら、Bランクは最低一年は続ける」
「でも、お前たちは違う」
「Sランクの魔物を倒した」
「戦争で数百人の命を救った」
「レオナルドの訓練も修了した」
「お前たちの実力は、既にAランクに匹敵する」
「だから、試験を受ける資格がある」
六人は、顔を見合わせた。
Aランク。
ずっと目指していたランク。
でも、まさかこんなに早く試験を受けられるとは。
「どうする?」
ギルドマスターが尋ねた。
セリアが、他の五人を見た。
みんな、頷いている。
「受けます」
セリアが答えた。
「よし」
ギルドマスターが満足そうに微笑んだ。
「試験は、一週間後だ」
「内容は?」
「三つの試験がある」
ギルドマスターが説明した。
「一つ目、筆記試験。冒険者としての知識を問う」
「二つ目、実技試験。戦闘能力を測る」
「三つ目、実地試験。実際の依頼をこなす」
「全てに合格すれば、Aランクだ」
「分かりました」
「準備しておけ」
ギルドマスターが、六人に手を振った。
「頑張れよ」
「はい」
ギルドを出た後、六人は興奮していた。
「Aランク試験!」
リーナが嬉しそうに言った。
「ついに、ここまで来たのね」
「ええ」
セリアが微笑んだ。
「EランクからAランクまで」
「約四ヶ月」
「早かったわね」
「でも、密度の濃い四ヶ月だった」
エルミナが続けた。
「色々あったわね」
「ええ」
あかねが頷いた。
「グレートベア、エルドランド王国、影の翼、ヴィクター、ドラゴン、戦争」
「全部、大変だった」
「でも、乗り越えた」
ダリウスが言った。
「みんなで、一緒に」
「そうね」
トムが微笑んだ。
「これからも、一緒だ」
「『銀の絆』として」
「うん」
三日目
六人は、Aランク試験の準備を始めた。
まず、筆記試験の勉強。
冒険者としての知識。
魔物の生態、魔法の理論、地理、歴史、法律。
様々な分野を学ぶ必要がある。
六人は、王立図書館で勉強した。
広い図書館。
天井が高く、無数の本が並んでいる。
「魔物の弱点、覚えないと」
リーナが、本を読みながら言った。
「トロールは火に弱い」
「ワイバーンは翼の付け根が弱点」
「ゴーレムは魔石を破壊すれば倒せる」
「私は、魔法の理論を勉強してるわ」
エルミナが言った。
「四大元素の相性、魔力の流れ、詠唱の短縮法」
「結構、難しいわね」
「俺は、地理を勉強してる」
トムが地図を広げた。
「自由都市連合の都市、街道、危険地帯」
「全部、覚えないと」
あかねは、医学書を読んでいた。
この世界の薬草、毒、病気。
現代日本の医学知識とは違う部分も多い。
でも、共通点もある。
あかねは、両方の知識を融合させようとしていた。
五日目
実技試験の訓練を始めた。
地下訓練場で。
レオナルドも、手伝ってくれた。
「Aランク試験の実技は、厳しいぞ」
レオナルドが説明した。
「試験官は、元Sランク冒険者だ」
「お前たちと本気で戦う」
「五分間、耐えられれば合格だ」
「五分間……」
セリアが呟いた。
「レオナルドさんとの最終試験は、一分間だった」
「それより長いのね」
「ああ。だから、もっと訓練が必要だ」
六人は、連日訓練した。
連携技「シルバーチェイン」の精度を上げる。
防御陣形を強化する。
持久力を高める。
全てが、試験のために必要だった。
七日目
試験の前日。
六人は、早めに休んだ。
明日に備えて。
でも、あかねは眠れなかった。
不安だった。
Aランク試験。
合格できるだろうか。
窓の外を見ると、星が綺麗に輝いていた。
その時、左手首が少し温かくなった。
紋章だ。
でも、痛くはない。
優しい温もり。
まるで、励ましてくれているかのような。
あかねは、紋章に手を当てた。
「ありがとう」
小声で呟いた。
紋章から授けられた力。
地の力、風の力、光の力。
全てが、自分を強くしてくれた。
だから、大丈夫。
試験も、きっと乗り越えられる。
あかねは、そう信じた。
その夜、セリアとあかねは部屋で話していた。
「明日、いよいよね」
セリアが言った。
「うん」
あかねが頷いた。
「緊張する」
「私も」
セリアが微笑んだ。
「でも、楽しみでもある」
「Aランクになれば、もっと難しい依頼に挑戦できる」
「もっと多くの人を助けられる」
「そうね」
「あかね」
セリアが、あかねの手を握った。
「あなたと出会えて、本当に良かった」
「え?」
「あなたがいなければ、私はここまで来られなかった」
セリアが続けた。
「あなたの優しさ、あなたの強さ、あなたの力」
「全てが、私たちを支えてくれた」
「そんな……私こそ、みんなに助けられて……」
「お互い様よ」
セリアが微笑んだ。
「それが、『銀の絆』だから」
「みんなで支え合う」
「みんなで成長する」
「うん」
あかねも微笑んだ。
「これからも、一緒だよね」
「もちろん」
セリアが、あかねを抱きしめた。
「ずっと、一緒よ」
試験当日
朝、六人はギルドに集まった。
試験会場は、ギルドの大ホール。
既に、他の受験者たちが集まっていた。
十人ほど。
全員、Bランクの冒険者。
みんな、緊張した表情をしている。
「多いわね」
リーナが呟いた。
「ああ。Aランク試験は、半年に一回しかない」
ダリウスが説明した。
「だから、受験者が集まる」
やがて、ギルドマスターが現れた。
「受験者諸君、おはよう」
ギルドマスターが挨拶した。
「今日から三日間、Aランク試験を行う」
「一日目は筆記試験」
「二日目は実技試験」
「三日目は実地試験」
「全てに合格した者だけが、Aランクになれる」
「覚悟はいいか?」
「はい」
受験者たちが答えた。
「よし。では、筆記試験を始める」
受験者たちが、試験会場に案内された。
長い机が並んでいる。
一人一人、席に着いた。
試験用紙が配られた。
問題数は百問。
時間は三時間。
「では、始め」
ギルドマスターが合図した。
あかねは、試験用紙を見た。
問題は、予想通り難しかった。
魔物の生態、魔法の理論、歴史、法律。
でも、一週間の勉強が役立った。
あかねは、一問ずつ丁寧に答えていった。
鑑定能力も、少し使った。
分からない問題の答えを、推測するために。
三時間後、試験が終わった。
「お疲れ様でした」
ギルドマスターが言った。
「結果は、明日発表する」
受験者たちが、ホールを出た。
六人は、外で答え合わせをした。
「魔物の弱点の問題、できた?」
リーナが尋ねた。
「うん。トロールは火、ワイバーンは翼の付け根」
あかねが答えた。
「私もそう書いたわ」
「魔法の理論は?」
エルミナが尋ねた。
「四大元素の相性、書けたわ」
セリアが答えた。
みんな、それなりに答えられたようだ。
合格できるだろうか。
不安もあるが、期待もある。
「明日、結果が分かるわ」
セリアが言った。
「今日は、ゆっくり休みましょう」
「そうね」
その夜、六人は宿の部屋で休んだ。
明日は、実技試験。
元Sランク冒険者との戦闘。
五分間、耐える。
それが、課題だ。
でも、六人には自信があった。
レオナルドとの訓練。
戦争での経験。
全てが、自分たちを強くしてくれた。
だから、大丈夫。
きっと、合格できる。
六人は、そう信じて眠りについた。
明日への期待を胸に。
新しい冒険への第一歩として。
Aランクへの道が、目の前に開けていた。
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