第32話 「王都の異変」
訓練が終わって、二日が経った。
六人は、久しぶりにゆっくりと朝を迎えていた。
一ヶ月間、毎朝六時起きだった。
でも、今日は八時まで寝た。
贅沢な時間だ。
「久しぶりに、ゆっくり寝られたわ」
リーナが、伸びをしながら言った。
「ええ。体が軽いわ」
セリアも微笑んだ。
朝食を取った後、六人はギルドへ向かった。
新しい依頼を受けるためだ。
ギルドのロビーは、いつも通り賑わっていた。
六人は、依頼ボードを見た。
Bランクの依頼。
様々な内容が、掲示されている。
「どれにする?」
セリアが尋ねた。
「これは?」
リーナが、一枚の依頼書を指差した。
『依頼内容:盗賊団『黒狼団』討伐
依頼主:商人ギルド
報酬:800シルバー
危険度:高
詳細:東の森を拠点とする盗賊団を討伐せよ。盗賊は二十人以上。リーダーはCランクの元冒険者』
「盗賊団か……」
トムが呟いた。
「二十人は、多いな」
「でも、私たちなら大丈夫」
エルミナが自信を持って言った。
「一ヶ月の訓練で、強くなったもの」
「そうね」
セリアが頷いた。
「じゃあ、これにしましょう」
六人は、カウンターで依頼を受けた。
「気をつけてください」
職員が言った。
「黒狼団は、狡猾です。罠を張ることで有名です」
「分かりました」
昼過ぎ、六人は東の森へ向かった。
街から二時間ほど歩いた場所にある。
森に入ると、すぐに緊張が走った。
木々が密集し、視界が悪い。
盗賊の罠があるかもしれない。
「慎重に行きましょう」
セリアが指示した。
六人は、慎重に森を進んだ。
トムが、地面の不自然な凹みを見つけた。
「待て。罠だ」
トムが、小枝で凹みを突いた。
すると、落とし穴が開いた。
深さは五メートルほど。底には、尖った杭がある。
「危ない……」
「さすが、罠で有名なだけあるわね」
六人は、罠を避けながら進んだ。
一時間後、森の奥に盗賊のアジトを見つけた。
木造の小屋が、五つ並んでいる。
周りには、柵が張られている。
そして、見張りが数人いる。
「あそこね」
セリアが確認した。
「作戦を立てましょう」
六人は、茂みに隠れて作戦会議をした。
「まず、見張りを静かに倒す」
セリアが説明した。
「それから、小屋に突入する」
「リーダーを捕まえれば、他の盗賊は降伏するはず」
「了解」
トムとあかねが、見張りに近づいた。
二人は、音を立てずに移動した。
一ヶ月の訓練で、体術が格段に上達していた。
見張りの背後に回り、一瞬で気絶させた。
音を立てずに。
「よし」
六人は、アジトに突入した。
小屋の扉を蹴破る。
中には、盗賊たちがいた。
二十人ほど。
全員、武器を持っている。
「冒険者だ!」
盗賊の一人が叫んだ。
「やれ!」
盗賊たちが、一斉に襲いかかってきた。
でも――
六人は、圧倒的だった。
セリアの剣技は、以前より遥かに速く正確になっていた。
一撃で、二人の盗賊を倒す。
リーナの矢は、百発百中。
動く標的でも、確実に命中する。
エルミナの魔法は、連続で放たれた。
魔力コントロールが完璧になり、疲れない。
トムの体術は、洗練されていた。
盗賊の攻撃を避けながら、確実に急所を突く。
あかねの槍術も、見違えるほど上達していた。
レオナルドに教わった技を、完璧に使いこなす。
ダリウスは、魔力を込めた剣で盗賊たちを圧倒した。
五分後、全ての盗賊が倒れていた。
気絶しているだけで、命に別状はない。
「すごい……」
あかねが呟いた。
「私たち、本当に強くなったんだ」
「ええ」
セリアが微笑んだ。
「レオナルドさんのおかげね」
その時、奥の部屋から一人の男が出てきた。
三十代。筋肉質の体。顔に傷跡。
黒狼団のリーダーだ。
「お前たちが、俺の部下を……」
男が、剣を抜いた。
「元冒険者か」
ダリウスが剣を構えた。
「ああ。元Cランクだ」
男が構えた。
「でも、お前たちには敵わないかもな」
「降伏しろ」
セリアが言った。
「これ以上戦っても、無駄だ」
「……分かった」
男が、剣を下ろした。
「降伏する」
六人は、盗賊たちを縛り上げた。
そして、街へ連れて帰った。
夕方、ギルドで報酬を受け取った。
銀貨八百枚。
六人で山分けすると、一人銀貨百三十三枚ずつ。
「いい報酬ね」
リーナが嬉しそうに言った。
「ええ。それに、簡単だったわ」
エルミナが続けた。
「一ヶ月前なら、もっと苦戦してたはず」
「本当に、強くなったのね」
六人は、宿へ戻った。
夕食を取り、部屋で休んだ。
明日も、新しい依頼を受ける予定だ。
その夜、あかねは一人で街を歩いていた。
少し、散歩がしたかった。
街の明かりが、綺麗に輝いている。
平和な光景。
あかねは、幸せを感じた。
でも、その時――
突然、遠くから爆発音が聞こえた。
ドォン!
「何!?」
あかねは、音の方向を見た。
街の北部から、煙が上がっている。
火事だ。
いや、違う。
爆発だ。
あかねは、急いで宿へ戻った。
「みんな!」
あかねが部屋に飛び込んだ。
「どうしたの?」
セリアが驚いて尋ねた。
「爆発が! 街の北部で!」
「何!?」
六人は、急いで外へ出た。
街は、混乱していた。
人々が、右往左往している。
衛兵たちが、北部へ走っている。
六人も、北部へ走った。
爆発があった場所は――
王宮だった。
巨大な建物。王都の中心にある。
その王宮の一部が、破壊されていた。
壁が崩れ、煙が上がっている。
「王宮が……」
セリアが、息を呑んだ。
衛兵たちが、必死に消火活動をしている。
そして、負傷者を運び出している。
六人は、衛兵隊長に駆け寄った。
「何があったんですか?」
セリアが尋ねた。
「爆発だ」
衛兵隊長が、険しい表情で答えた。
「王宮の北翼が、爆破された」
「誰が?」
「分からん。でも、これはテロだ」
衛兵隊長が続けた。
「エルドランド王国のスパイかもしれん」
「エルドランド王国……」
あかねは、ドキッとした。
自分たちを追っている国。
「最近、エルドランド王国との緊張が高まってる」
衛兵隊長が説明した。
「今日の外交会談で、決裂した」
「エルドランド王国は、自由都市連合に領土の割譲を要求してきた」
「当然、我々は拒否した」
「それで、報復としてこの爆破か……」
衛兵隊長が、拳を握った。
「卑劣な……」
その時、王宮の門が開いた。
一人の男性が、出てきた。
五十代。立派な服を着ている。
高官らしい。
「みなさん!」
男性が、大声で言った。
「私は、外務大臣のアルバート・クロンウェルです」
「本日の爆破事件について、発表します」
周囲の人々が、静かになった。
「本日、王宮北翼が爆破されました」
「死者三名、負傷者十名です」
「犯人は、まだ捕まっていません」
「しかし、証拠から、エルドランド王国の関与が疑われます」
ざわめきが広がった。
「エルドランド王国は、本日の外交会談で、我々に不当な要求をしてきました」
「そして、我々が拒否すると、このような暴挙に出たのです」
「これは、宣戦布告に等しい行為です」
外務大臣が、真剣な表情で続けた。
「自由都市連合は、この暴挙を決して許しません」
「明日、緊急議会を開き、対応を協議します」
「市民の皆さんは、冷静に行動してください」
外務大臣が、王宮の中に戻った。
人々は、不安そうに話し合っていた。
「戦争になるのか?」
「エルドランド王国と?」
「どうなるんだ……」
六人は、顔を見合わせた。
「戦争……」
セリアが呟いた。
「まさか……」
「でも、可能性はあるわ」
エルミナが言った。
「エルドランド王国は、領土拡大を狙ってる」
「自由都市連合は、それに抵抗してる」
「衝突は、避けられないかもしれない」
あかねは、不安だった。
戦争になったら、どうなるのか。
自分たちは、どうすればいいのか。
エルドランド王国は、自分たちを追っている。
もし、戦争になって、エルドランド王国が勝ったら……
あかねは、考えたくなかった。
「大丈夫」
セリアが、あかねの肩を抱いた。
「私たちは、強くなった」
「どんなことがあっても、一緒に乗り越えるわ」
「うん……」
あかねは、少し安心した。
でも、不安は消えなかった。
翌日、街は緊張に包まれていた。
衛兵が増員され、巡回が強化された。
王宮の周りには、厳重な警備が敷かれた。
そして、緊急議会が開かれた。
六人は、ギルドで待機していた。
何か依頼があるかもしれない。
午後、議会が終わった。
外務大臣が、発表した。
「自由都市連合は、エルドランド王国に対し、厳重な抗議を行いました」
「そして、犯人の引き渡しを要求しました」
「エルドランド王国が、これに応じない場合、我々は軍事的措置も辞さない構えです」
軍事的措置。
つまり、戦争だ。
街は、さらに緊張した。
その夜、六人は宿の部屋で話し合った。
「どうなるかしら」
リーナが不安そうに言った。
「戦争になるのかしら」
「分からない」
セリアが答えた。
「でも、可能性は高い」
「もし、戦争になったら……」
エルミナが続けた。
「私たち冒険者も、動員されるかもしれない」
「動員……」
「ああ。戦争になれば、国は全ての力を総動員する」
ダリウスが説明した。
「冒険者も、例外じゃない」
「でも、私たちは……」
あかねが言いかけた。
エルドランド王国から追われている。
もし、動員されて、エルドランド王国と戦ったら……
捕まるかもしれない。
「大丈夫」
セリアが、あかねを見た。
「私たちは、自由都市連合の市民よ」
「エルドランド王国じゃない」
「だから、堂々と戦える」
「そうね……」
あかねは、セリアの言葉に少し勇気をもらった。
でも、まだ不安は残っていた。
その時、部屋の扉がノックされた。
「どなた?」
セリアが尋ねた。
「ギルドマスターです」
外から声がした。
「開けてください。重要な話があります」
六人は、顔を見合わせた。
ギルドマスターが、わざわざ来るなんて。
セリアが扉を開けた。
ギルドマスターが、入ってきた。
五十代の男性。厳格な表情。
「失礼します、銀の絆の皆さん」
「どうぞ」
ギルドマスターが、椅子に座った。
「実は、重要な依頼があります」
「依頼?」
「はい。王宮からの、極秘依頼です」
ギルドマスターが、封書を取り出した。
「あなたたちに、爆破事件の犯人を捕まえてほしいのです」
「犯人を……」
「はい。衛兵も捜査していますが、進展がありません」
「だから、優秀な冒険者に依頼することになりました」
「あなたたちは、ドラゴンを倒した実績がある」
「レオナルドの訓練も修了した」
「この依頼に、最適です」
ギルドマスターが、封書を渡した。
「報酬は、金貨五十枚です」
「金貨五十枚……」
六人は、驚いた。
これまでで、最高額の報酬だ。
「ただし、危険です」
ギルドマスターが警告した。
「犯人は、エルドランド王国のスパイかもしれません」
「捕まえる過程で、命を狙われる可能性があります」
「それでも、受けますか?」
六人は、顔を見合わせた。
危険な依頼。
でも、この街を守るために必要な依頼。
セリアが、他の五人を見た。
みんな、頷いている。
「受けます」
セリアが答えた。
「よろしいですか」
ギルドマスターが微笑んだ。
「ありがとうございます」
「詳細は、明日王宮で説明します」
「朝九時、王宮の正門に来てください」
「分かりました」
ギルドマスターが去った後、六人は再び顔を見合わせた。
「大きな依頼を受けちゃったわね」
リーナが言った。
「ええ。でも、やるしかないわ」
セリアが決意を込めて言った。
「この街を守るために」
「そうね」
あかねは、窓の外を見た。
王都の明かり。
この街を、守りたい。
人々を、守りたい。
そのために、犯人を捕まえる。
あかねは、決意した。
明日から、新しい戦いが始まる。
爆破事件の犯人を追う戦い。
そして、その先には――
エルドランド王国との、大きな対決が待っているかもしれない。
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