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第5話 ②——「予期せぬ一手、変わる盤面」



 まずはセオリー通りに、〝結界(バリア)〟の首を開戦直後のヒュドラの硬直中に仕留めた。

 これで厄介な結界を張られることはない。


 オレは愛用する巨大な武器を(かつ)いだまま、ダッシュでヒュドラに近寄りつつも、思考を巡らせる。


 ここまでは、例の〝攻略法〟を知る前からやっていたことだ。

 実際、最初の硬直中はまたとないチャンスであり、そこでどの首を狙うかと言われたら、やはり一番厄介な首を選ぶわけで、それは〝結界(バリア)〟をおいて他にない。

 〝結界(バリア)〟はもはや、使われたらその時点で戦闘継続を諦めた方がいいレベルのクソ能力だからな。


 とにかく、ここまではいい。

 問題はここからだ。

 〝攻略法〟を知る以前は、ここで残り八つの首のうち、どれが〝回復(ヒール)〟の首になるのかが(わか)らなかった……回復を使われる、その直前まで。

 そう、オレの固有能力(ギフト)である【予見(フォーサイト)】を使うことで——この能力を使い、数秒先の未来を予知すれば——()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 今までの攻略でも、この能力には何度も助けられた。

 ——まあ、それはこのヒュドラ戦に限った話じゃないが。

 ダンジョンで最も恐ろしいのは、未知なる初見の脅威だ。——特に、深層以降のモンスターは、どいつもこいつも初見殺しの凶悪な能力を持っていやがるから、この能力が無ければ死んでいたかもしれないという危機に何度直面したか分からない。

 そんなピンチを事前に察知できる我が【予見(フォーサイト)】は極めて強力であり、絶大なアドバンテージになり得る切り札となる。しかし——いや、だからこそ……その反面、使用にかかる負担も決して無視できないものだった。


 今までのヒュドラとの戦いでは、まだ能力の分からない新たな首が動くたびに、毎回【予見(フォーサイト)】を発動せざるを得ず……そうやって、すべての首の能力を事前判別するだけで、もはや余力を使い果たしてしまう有様だった。


 だが今回は……〝攻略法〟のおかげで、その必要はない。

 〝結界(バリア)〟を倒したことで、〝回復(ヒール)〟に変わった首は——元は白いネバネバを吐き出す能力である〝 白弾(ペイント)〟だった——あの首、6番だ。


 つまり、次に狙うべき首は、それ(6番)だ。


『“ケビン! サトー! 陽動は任せる! オレはヤツ(6番)をやる!”』

『“任せるでござる!”』

『“イェア! ぶちかましてこい!”』


 念話(テレパス)にて一瞬で意思疎通を済ませたオレたちは、事前に決めていた作戦通りに動く。


『“誘惑の脚光プライムライト・テンプテーション”』


「オウオウオウ! そこの卑猥(ひわい)な黒光りはまぁ、カッチカチにいきりたっちゃてYo! いっちょオレ様がゴシゴシしごいて、ふにゃっふにゃのフニャチンにしてやるゾっ! 覚悟しとけっ!」


 下品な罵声を上げながらも、まずはケビンが自分の能力(ギフト)を発動し——無駄にビカビカと光りながらも——しっかりと〝黒鱗(ブラックスケイル)〟の首の注意を一身に自分に引き付ける。


『“分身の術ファントムボディ・ジツ——誘惑の脚光プライムライト・テンプテーション”』


「タジュウッッブンシンッッ!! アェンド! ヒカリィッマシマシッッジツゥッッ!!」


 さらにはサトーも、謎の奇声を上げながらも、無数の分身を生み出しては——ニコラの能力(ギフト)によって使えるようになった、ケビンの能力(ギフト)も併用しつつ——そいつらをビカビカ光らせて他の頭の注意を逸らす。


「いいぞォお前ら! したら後はオレの番だなっ!」


 念の為に確かめたくなる気持ちをグッと(こら)えて、オレは6番の持つ能力や、これからの動き——ではなく、そこにオレが到達するための道筋を探るため、【予見(フォーサイト)】を発動する。


『“予見の瞳フォーサイト・ヴィジョン——確定予測(セレクトオーダー)”』


 自分が「これから成そうとする行動」を軸とした未来視により、6番の首を飛ばすために必要な動き方の〝予見(ヴィジョン)〟を垣間見る。

 ——これよこれ! オレの能力は本来こうして、攻撃にこそ使うべきなんだよッ!

 視えるっ、視えるぞ……ッ! ヤツの首まで、妨害を()(くぐ)って到達できるルートが!


 必殺の一撃のために愛剣に魔力を(そそ)ぎ溜めつつも、オレは〝予見(ヴィジョン)〟で見た通りに寸分の狂いなく体を動かし、ヒュドラの迎撃という無数の妨害を切り抜けると、大きく跳躍する。

 すると目の前には——目標の(6番)が迫っていた。


 ビンゴだ!


『“獅子渾身(ストライク・レオ)”』


「うおおおぉぉぉぉ!!!」


 出し惜しみなどない全力の一撃が、ヒュドラの首を捉える——!


 ズパァァァンッッッ!!!


 6番の首が何かをするよりも早く、オレは愛剣である——特大剣を二つ組み合わせたような——特大両刃剣グレート・ツーヘッドソードの「獅子の咆哮(ハウリング・レオ)」を振り抜き、その名の通りに吠え立てるような迫力の決め技が、〝回復(ヒール)〟に変わりつつあったヒュドラの首を一撃で斬り飛ばした。


 ——やった……っ!


 しかし、予断は許されない。

 本来なら大技の反動でしばらく動けなくなってもおかしくないところを——サトーの『NINJA(ニンジャ)』の技の一つである【無拍子(ゼロ・ステップ)】を使うことで——無理やり立て直しつつ……なんとか体勢を崩すことなく着地したオレは、攻撃が成功した喜びに浸る間もなく、すぐさま全神経を集中させる。

 ——ここが正念場だ……っ!

 最初に続いて二つ目の首を飛ばされたヒュドラは、さりとて動揺も怒りもなく、むしろ虎視眈々とこちらの隙を狙っているからには、今の無防備なオレを放っておくはずもない。

 案の定、大技で消耗したこちらを隙ありと見たヒュドラは、ここぞとばかりに攻撃してくる。


『“ここは私が!”』


 しかしオレには、連携を極めた頼れる仲間たちがいる。


『“堅牢なる障壁プロテクション・ウォール”』

『“毒針連射(ヴェノムバルカン)”』


 ガガガガガガガッッッ!!!


 〝毒針(ニードル)〟の首が放つ連射攻撃は、ニコラが張ってくれた半球状の防御障壁が防いでくれる。

 しかし、そこでヒュドラはさらなる攻撃を放つ。


『“毒霧吐息(トキシックミスト)”』


 ブワッ——と、一気に広がる毒霧が、全周を覆っているわけではない障壁を掻い潜ってくるが……


『“風遁(フートゥン)踏鞴息吹(タタライブキ)”』


 ビュオオオッッッ!!


 すかさずサトーが風の忍術(シノビ・ジツ)を使い、その口から突風もかくやという豪風を吹きつけることで、一気に毒霧を払い飛ばしてくれる。


 たちまち晴れる視界には、すでに次なる攻撃の動きを見せる首の姿が映るが、その頃にはオレも従来の動きを取り戻していた。


 そして、体勢を立て直したのはオレだけではない。

 開幕の一撃からしばらく経ち、大魔法を放った反動も過ぎた彼女が、再び強烈な一撃を撃ち出す。


『“雷光の穿孔杭ライトニング・ドリルバンカー”』


 さっきからずっとケビンが〝黒鱗(ブラックスケイル)〟を引き付けてくれているおかげで、その魔法は誰に(はば)まれることもなくヒュドラの首の一つである——お次に〝回復(ヒール)〟へと変貌するはずだった——〝舌槍(ランスタング)〟に命中し、その頭部を吹き飛ばした。


 よしッ……!

 これで、すでに落とした首は三つ。

 次は〝毒霧(ミスト)〟が〝回復(ヒール)〟に変わるが、それで実質、四つの首が攻撃不能になったことになり、残りは五つ。


 ここだっ……!

 ここでオレが気力を振り絞り、〝回復(ヒール)〟が動く前にもう一つ首を飛ばせれば……残りは半分を切る!

 その後のレイチェルの魔法が間に合えば、相手はさらに減り、もはや残りはわずか。

 そこまでいければ、いよいよ本気で——勝ちの目が見えてくる……ッ!


 長らく停滞していた状態からようやく脱却できるという予感に、早くも心が浮き足立つが——それに惑わされることなく、オレは冷静にヒュドラの追撃を(かわ)して距離を取っていく。


『“アレックス、毒は平気ですか? 回復しますよ!?”』

『“だがニコラ、ケビンの回復は大丈夫か?”』

『“オレっちは平気だ! いいから回復しろ! ここが決めどきだろッ!”』

『“っ、分かった! 頼むニコラ!”』

『“お任せを!”』


 言うが早いか、ニコラが魔法を唱える。


『“強かなる解毒の光パワフル・ディートックスライト”』


 おかげさまで、わずかにあった毒の影響も解除され、これにて万全の状態となった。

 これなら——


 ゾクッ……


 いける——と、そう思った、その瞬間……

 オレの【予見(フォーサイト)】が、不吉な未来を予感させてきて……


『“九頭全能(ナインズヘッド)——死首再生(リビングヘッド)”』


 予想していなかったところから、オレたちの戦略を崩す最悪の一手が飛び出してきた。


 

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