SCENE182 スピアの帰国
数日後、私はいよいよ日本を発つことになった。お別れの記念にということで、シュンとラティナには記念品をいただいたわ。
私は空港に立っている。そこには、見送りにイオリがやって来ていた。
「まったく、なんで私がこいつを見送りに来なきゃいけないんだ」
イオリは何か文句を言っているわね。
とはいっても、自分がやらかしてきたことを思い起こせば、イオリの反応はよく分かるわ。シュンのことをかなり大事にしているみたいだもの。
そんなシュンを攻撃した私のことを気に入らなくて、当然というわけね。
「できれば、二度と会いたくはないな」
はっきりと面向かって言われてしまったわ。本当にイオリってばはっきり言ってくれる人だわ。かえって好感が持てるというものよ。
「そうは言いましても、私は日本のダンジョンに興味を持ってしまったわ。またビザ申請ができるようになったら、来させてもらうわよ。ボーイフレンドと一緒にね」
「お前の彼氏も、探索者なのか?」
「イエス」
イオリからの質問に、私ははっきりと答えている。
私のボーイフレンドであるランスは、そこそこの実力を持った探索者。幼馴染みで、夏くらいまでは一緒にダンジョンに潜っていたわね。
そういえば、久しぶりに会うことになりそうだけど、どんな顔で迎えられるのかしらね。なんだか、あんなことがあった後だと、どういう顔で会えばいいのか分からなくなってくるわ。
でも、合うからにすっきりとした気持ちで会いたいわね。
私はそっと自分の胸に手を当てて落ち着こうとしていた。
そんな風に思っていると、イオリが私に再び声をかけてくる。
「恋人同士で探索者っていうのも珍しいな」
「そうかしらね。割と多いと思うけれど」
「そうなのか? 私の周りじゃ、そういうのがいなくてな」
「たまたまでしょ」
どうやら私とボーイフレンドの両方が探索者をしていることを珍しがっているみたい。
でも、私の出身であるアメリカでは、そんなに珍しいことじゃないわ。なんなら、家族丸ごと探索者っていう家すらあるくらい。でも、イオリに言わせれば珍しいことみたいだわ。これも国の違いによるものなのかしらね。よく分からないわ。
『ロサンゼルス行きの旅客機に搭乗予定のお客様、ただいまより搭乗手続きを開始いたします』
オゥ、いよいよ搭乗手続きが始まってしまうわ。
はあ、いよいよ日本ともお別れか。いろいろ嫌なこともあったけれど、結構楽しかったわ。殺されかかったのも、今じゃいい思い出ね。
「イオリ」
私は荷物を持って、見送りに声をかける。
「なんだ」
「楽しかったわ。また会いましょう」
「私は勘弁してもらいたいな。瞬に手を出すようなやつと仲良くしたくはない」
「大丈夫よ。もうあんなことはしないから。それじゃあね」
私はにっこりと微笑むと、搭乗手続きをしにカウンターへと向かっていった。
飛行機の中で、私はシュンからもらったうろこと、ラティナからもらった護石をじっと眺めている。
ダンジョン産の道具は、ものによってはこうやって機内に持ち込める。装飾品としてごまかせたりするものね。
それにしても、シュンのうろこはとてもきれいだわ。ラミアプリンセスだから、蛇のうろこと大差ないけれど、込められた魔力がとんでもないわ。それでありながら、まったく周囲に影響を及ぼさないようにコーティングされている。だからこそ、こうやって機内に持ち込めたんだけどね。
「絶対、また日本に行くわよ」
うろこと護石を眺めながら、私は改めて強く決意をしていた。
やがて、長時間のフライトを終えて、私は故郷の地を踏んだ。
到着ロビーへと姿を見せた私を、よく見知った人物が出迎えてくれている。
「おかえり、スピア」
「ランス。本当に迎えに来てくれたの?」
荷物を持った私は、ボーイフレンドの姿を見つけて、笑顔を見せている。
「当然だろ。ガールフレンドが戻ってくるというのに、出迎えない男がいると思うかい?」
「そうよね。うふふ、ありがとう、ランス」
駆け寄った私は、荷物を持ったまま、ランスと頬をくっつけ合って挨拶をしている。
「それじゃ、俺の家まで移動しようか。ジャパンでのことを洗いざらい話してもらうよ」
「オーケー。とりあえず、リベリオンギルドは抜けたから。それだけは先に言っておくわ」
「了解。まったく、あんなギルドだと知っていたら、ハニーを預けなんてしなかったんだけどね。すまない、俺の調査不足だ」
まったくもう。ランスが謝ることなんてないのに。
あのギルドは、私が分かった上で首を突っ込んだもの。ただ、それを伝えなかったのは悪かったかしらね。ええ、反省しておきましょう。
とにかく、今回の日本への来訪は、かなり収穫があったことは間違いないわ。そのことは、ランスの家に着いてから余すことなく伝えるつもりよ。
だけど、あれこれ報告したら、私はランスからこっぴどく怒られてしまったわ。殺されかかったのは事実だからしょうがないけれど、まさかここまでとは思わなかったわ。あまりの剣幕だったので、私はしゅんとするしかなかったわ。
「これでしばらくは国外には出れないだろうから、その間、しっかり反省するんだぞ」
「分かっているわ、ランス。さすがに懲りたわ」
私が反省したことで、ランスの説教タイムは終わり。
その後は、とにかくダンジョンのことで盛り上がったわ。あの配信も見ていてくれたから、それはもう夜遅くまでね。
語り尽くした私たちは、いずれ二人揃って日本のダンジョンに挑戦することを確認し合って、その夜はゆっくりと休んだわ。




