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探偵は生徒会室で踊る  作者: 竜崎
3章 千里眼
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8/8

事情聴取

 八月二十三日


 玄関から一歩踏み出すと、ジリジリと突き刺すような日差しが僕を襲った。雲一つない青空も相まって、真夏を絵に描いた天気といった感じだ。

 暑い日には専らクーラーの効いた部屋でゲームをする派の僕が何故外出しなければならないのか。原因は勇太(ゆうた)にある。


 昨日の夜だった。

 珍しく、勇太から通話がかかってきた。

「よう、神原(かんばら)

「なんだいきなり。用があるならチャットしてくれ」

「そう言うなって。チャットだと断られると思ってな」

「ゲームの誘いなら大歓迎だ。でも、そうじゃないらしいな」

 勇太は、いつになく真面目なトーンで言った。

「教授探しの件、進展があったんだ」

 教授。生徒会周りで起きた事件の実行犯達を裏で操っていた黒幕を僕らは教授と呼んで、その素性を暴くために活動している。

「進展があったのは結構だけど、通話を選んだあたり、僕に頼みがあるんだろ」

「まあね。朝倉(あさくら)先輩と合う予定を取り付けたんだ。神原も一緒に話を聞いたほうがいいと思って」

「朝倉・・・・・・ああ、予言者気どりの」

 一週間ほど前に解決した、千速新聞の情報漏洩事件の実行犯の名前が朝倉だったはずだ。

相田(あいだ)さんも誘ったんだけど、ダンス部の大会と被ってるらしいんだ。一人で先輩と会うのは心細いからさ。来てくれよ」

「分かったよ。で、いつ会うんだ」

「明日の十二時」

「それを早く言えよ」


 といった経緯で、僕はこの灼熱の中、千速(ちはや)高校の最寄りである(やしろ)駅まで来たわけだ。駅の改札前で待っていた勇太と合流し、駅前のファミレスに入った。朝倉は後から来るらしい。

「ドリンクバー二つで。料理は連れが来てから頼みます」

 勇太はスムーズに注文を済ませた。おかげで、先輩より先に飯にがっつく無礼な後輩にならずに済んだ。僕だったら何も考えずに注文していたところだ。

「ところで、朝倉さんとはどうやってコンタクトをとったんだ?」

「簡単だよ。朝倉先輩はSNSで予言者ごっこしてただろ?受験生なのにあんなことしてるってことは、よほど目立ちたがりなんだろうなって思ったんだ。だから、『千速新聞のこと詳しく知りたいです』って、興味津々なふりをしてDMを送ったんだ」

「なるほどな。自己顕示欲の高さを逆手に取った訳だ」

 僕には出来ない芸当だな。


 勇太はクラスの中でも決して目立つ生徒ではない。容姿も派手ではなく、いい意味で普通だ。性格も明るく、とっつきやすい。けれど、クラスみんなと仲がいいということもなく、僕を含む狭いコミュニティに属している。運動神経はいいのに、文化部の写真部を選んだ。

 なんとなく、人付き合いは得意だが、人と関わることに辟易している節があった。そんなところに共感して、気づけば僕は勇太と仲が良くなっていたのだろう。

 対称的に、相田は誰とでも仲良くなるタイプだ。男女問わず、先輩や教員まで広く交友関係がある。見た目は派手ではないが、整った容姿をしているので、男子生徒からの人気も高い。ダンス部では期待のホープと言われている。

 僕は勇太や相田よりも頭の回転が早いという自信はある。だが、コミュニケーション能力をはじめとする、対人能力に関しては二人には全く敵わない。


 そんなことを考えながら、ドリンクバーでオレンジジュースを注いでいると、男子高校生が一人、入店して来た。

 店員に人数を聞かれると、待ち合わせですと答えたので、この人が朝倉だと分かった。


「俺は、一年三組の楢崎(ならざき)勇太です。こっちは、同じクラスの神原啓吾(けいご)。今日は時間を作っていただきありがとうございます」

「ああ、よろしく」

 朝倉は一言呟いた後、すぐにスマホを取り出して、いじり始めてしまった。

「あのう、朝倉先輩?」

 たまらず、勇太は声をかけた。

「ん?相田さんまだ来ないの?」

「あー、さっき急用で来られないって連絡ありまして・・・・・・」

「相田?なんであいつが?」

 昨日の時点で相田が来ないことは分かっていたはずだ。疑問に思って勇太を見ると、目が泳いでいた。

 こいつ、相田をダシにして朝倉を呼び出したな。

「なんだ、来ないの?じゃあ、帰っていい?」

 このまま帰られるとまずい。

「待ってください。騙し討ちみたいになってしまったことは謝ります。実は、僕ら生徒会の手伝いで先輩の話を聞きに来たんです」

 ここは一発、ハッタリでどうにかしよう。

「生徒会、てことは才木(さいき)の奴か。何度言っても情報提供者の情報を渡すつもりはない」

「事情が変わったんです。先輩のためにも、協力をお願いします」

「事情?」

「はい、先輩の投稿が先生に見つかったんです。生徒会の情報漏洩として問題視されているそうです」

「それで?」

 平静を装っているが、朝倉の表情が曇り始めていた。もちろん、教員にこの件が見つかった事実はない。

「情報提供者のことを教えてくれれば、才木さんが教員に掛け合って、朝倉さんに責任が向かないようにしてくれるそうです」

「協力しないとどうなる」

 朝倉の顔が更に曇った。あと一息だ。

「情報漏洩を企てた犯人の共犯として、処分が下るかもしれませんね」

「・・・・・・」

 朝倉のスマホをいじっていた手が止まった。

「分かった。話すよ」


「六月の初めにDMをもらった。有名になりたくないかって」

「誰からですか」

「分からない。千速生ということくらいしか。男子か女子かも、学年も分からない」

 矢部の時と同じで、アカウント上には個人を特定できる情報が何もないのだろう。

「具体的なやり取りを教えてもらえますか」

「千速新聞の内容が毎週木曜日の十七時頃に送られてくるんだ。それを確認して投稿する。これまでに三回、情報提供を受けた。情報提供以外のやり取りはほとんどしてない。というか、全部無視された」

 やっぱり、やり口が矢部(やべ)の時と酷似している。朝倉に情報を提供したのも僕らが追っている『教授』と見て間違いないだろう。とすると、もう一つ確認すべきことがある。

「もしかして、柏木(かしわぎ)さんについて聞かれませんでしたか」

「あ、聞かれた。でも、なんで知ってるんだ?」

 なんでと聞かれると困るな。適当に誤魔化すのが得策だろう。

「同様の話を持ちかけられた人が居たんです。その人は結局、投稿はしなかったんですが、柏木さんについて、質問をされたらしいんです」

「ふうん。俺も聞かれたけど、嵐が不登校になった理由は知らないから、ロクに答えられなかったな」

「嵐、って呼んでるんですか?柏木さんのことを」

 勇太が質問した。

「二年の時クラス一緒だった。特に仲が良かった訳じゃないけど、クラスのみんなが(あらし)って呼んでたから俺もそう呼んでる」

 柏木と朝倉は去年、同じクラスだった。ということは、柏木に近しい人物を知っているのではないか。

「当時のクラスで、柏木さんと親しかった生徒を知りませんか。情報提供者は柏木さんと関わりが深い人物だと思うんです」

「うーん、嵐は結構生徒会室に入り浸ってたイメージがあるな。クラス内で言うと・・・・・・石山(いしやま)とかかな」

 初めて聞く名前だ。これまで生徒会のメンバーからは一度も出てこなかった。

「石山のSNSアカウント教えてやるよ。あと、こいつのも」

 そういって、勇太とのDMに二つのアカウントが送信された。

 一つは石山俊介(しゅんすけ)。柏木と関わりのあった生徒。

 そして、もう一つは情報提供者のアカウントだ。

「まあ、お前らから何か送っても反応があるとは思えないけどな」

 朝倉は嫌味っぽく言った。

「朝倉さんはまだそいつとやり取りしているんですよね」

「ああ、夏休み明けたらまた新聞の内容を送ってくるはず」

 ということは、教授は新聞の内容を朝倉に伝えるために、生徒会室に忍び込む可能性がある。

「では、僕らや教員が探っていることは内密にお願いできますか。これまで通りのやり取りをしてもらえれば、尻尾を出すかもしれないので」


 結局、朝倉は飯も食わずに帰ってしまった。

 本当に相田が目当てだったんだろうか。

 勇太と昼食を済ませ、僕はある行動に出る異にした。

「勇太、教授のアカウントを僕にも転送してくれ。ダメ元でメッセージを送ってみたいんだ」

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