新たな勢力
77話
鬼人族の頭領、アラハバキの屋敷にヤクシャ族のヤシャが少し慌てた様子でやってきた。門番に苛立ちながら開門を促し、開門するなり急いで中へ入って行った。
ヤシャは真っすぐアラハバキの部屋を訪ねた。中にはアラハバキとラセツがヤシャの到着を待っていた様だ。
「アラハバキ様、リンが攫われたというのは本当ですか!?」
ヤシャは到着するなり連絡を受けていたリンのことを聞いた。
「うむ、本当だ・・・、ラクシャーサの子供たちが証言している・・・」
アラハバキはヤシャの目を真っすぐに見て話した。アラハバキの話を聞いたヤシャはラセツの方を向いた。
「すまない・・・、俺としたことが・・・、まさか魔人以外の魔族がリンを連れ去るとは思っていなかった・・・」
ラセツはヤシャに謝罪を行った。
「いや、済んだことは仕方がない!それよりもリンを攫って行ったのがゴズとメズで間違いないのですか!?」
ヤシャはラセツの謝罪を受け入れ、アラハバキに状況を聞いた。すると、アラハバキではなく、ラセツが答える形となった。
「間違いない、一緒に居たラクシャーサの子供達が証言している。リンを攫ったのは牛の頭と馬の頭をした者であると!」
「何故に地獄の者どもがリンを!?」
ヤシャがアラハバキに詰め寄った。
「ヤシャよ、落ち着くのだ、わしにも解らんよ!ヤマが何を考えているかなど・・・」
「どうしてエルフの娘の存在を知ったのか・・・、ラクシャーサの村に居ることをどうやって知ったのか・・・、娘の力を何に使うかなど・・・、さっぱり解らんわい!」
「しかしながら、ラクシャーサの村に居た者をわし等に無断で連れて行ったのだ。何かしらの重要なことがあるのであろう・・・!」
アラハバキは落ち着いた態度で話しているが、目の奥には鬼気迫るものが伺えた。
「いかがいたしましょう!?私としても預かっている者を無断で連れ去るなど、納得できるのもではありません」
ラセツも落ち着いている様子ではあるが、内心は怒り心頭といった状況の様だ。
「うむ、本来であれば正式に使者を使わして理由を問い質すのが一番良い方法であろうが、その様な行動をすれば魔人達に知れ渡ってしまうかもしれん・・・」
アラハバキは考えながら話している。すると少し興奮しながらラセツが話し出した。
「そうかもしれませんが!勝手に連れ去るなど言語道断です!ここは人数を集めて抗議した方が良いのではないでしょうか!?」
ラセツは自分に責任があると負い目を感じている様だ。その様子にヤシャが話し出した。
「まぁ、ラセツよ、それを言ったら俺もリンを連れ去ったのだ!その理屈は通らんよ!」
「いや、違う!俺たちは魔人達の悪だくみからリンを助けたのだ!現にエルフ達に返そうとしているではないか!」
ラセツはヤシャに食って掛かった。ヤシャは冷静にラセツに言った。
「そうかもしれないが、魔人達からすれば同じであろう!」
「しかし・・・!」
ラセツが反論しようとしたところをアラハバキが制止して話し出した。
「まあ、待て、事はそう小さな問題ではない。ヤマが動いているということはアスラ達も承知のことであろう。対応を間違えば地獄の者達とアスラ達と争うことになる。それに魔人達も黙ってはおるまい。更には亜人達も居る。下手をしたら天魔大戦以上の大戦になりかねん!」
「確かに、アスラ王もこの事に関係しているでしょうなぁ・・・」
ヤシャが言うとラセツが繋いだ。
「では、インドラとの争いにリンの力を使おうとしているのですか!?」
「いや、アスラ達は自分たち以外の力をもって戦おうとは思わんであろう!きゃつらは勝利が目的ではないのでな・・・。戦いそのものが目的であるからのぅ・・・」
「では、一体何の目的でリンを連れ去ったのですか?」
アラハバキの話にラセツが興奮しながら聞き返した。
「ふむ、アスラというよりはヤマに都合があるのではないかのぅ・・・」
「よし!ヤシャよ、地獄に赴いて調査してきてはくれんかの?リンの居場所と連れ去った理由を調べてくれ!」
「はい!かしこまりました!」
ヤシャはアラハバキの命令を承諾した。その目はやる気に満ちている様子であった。
「私は何をすれば宜しいでしょうか?このまま黙っていることなど出来ませぬ!」
ラセツは自分の役目をアラハバキに要求した。
「うむ、お主にはアスラ王の元へ行ってもらおう。なに、ご機嫌伺いよ!それとなく魔人達がエルフの娘を攫ったことと娘が行方不明になったことを世間話程度で行ってくれ!その反応をしっかりと見極めてきて欲しいのだ!」
「なに、もうすぐヤマトとムツが亜人達を連れてくることであろう。その者たちに状況を話して協同した方が良いであろうからの・・・」
「はっ!かしこまりました!」
「決してリンの名前は出すのではないぞ!あくまでも魔人達の動きとして話すのだ!」
「はいっ!早速行ってまいります!」
ラセツとヤシャはそれぞれの役割へ赴いた。




