それぞれの状況
38話
優司はヤマトとムツに指示を出した。それは魔国に戻ってリンの状況を調べること。どこに監禁されているかなどの現状を探ることを依頼した。
鬼人であるヤマトとムツであれば魔国での行動を怪しむ者もいないであろう。優司がそう言うとヤマトとムツは快く応じた。
「わかった!確かにそれは俺たちにしかできない。一度、国に戻ってからアラハバキ様へ報告し、リン殿の状況を調べよう!」
「解ったときのことだが、報告はどうすればいいかだな・・・。」
するとダグザとヘパイストが進み出てきた。
「優司様、これも試作品ですが、意思伝達装置を作ってみました。優司様が言っていた『インカム』なるものと同じような感じになるかと思います。」
ヘパイストが差し出してきた装置は元の世界のインカムの形とは程遠く、ペンダントの形をしていた。そのペンダントが2つある。
「空と時の刻印をしておりますじゃ!それを付けた者同士であれば会話が可能であると思いますじゃ!」
優司は、なるほどと思い、一つは自分、もう一つをヤマトに渡して首に掛けてみた。すると優司の頭の中での問いかけが、ヤマトの頭の中に浮かぶようである。
「これは便利だ!こんなものを作れるとは!噂通りドワーフとは凄いものよ!」
ヤマトがヘパイストを褒めると、ヘパイストは照れくさそうに笑っていた。
「しかしながら、距離がどのくらいまで離れてもいいかが未知数です。よって魔国からの呼びかけが届くかどうかが心配です。ですので、この他の連絡手段も講じておいた方が良いと思います。
ヘパイストの申し入れはもっともなことだ。どうするかを考えていると、ムツが意見を申し入れてきた。
「魔国に伝達用の魔鳥がいます。それを差し向ける様にしましょう。どこに向かえばいいかが解れば連絡は可能です。」
それならばとエルフの里を指定し、細かい所を打ち合わせた。打ち合わせが終わり、優司達はエルフの里、ヤマトとムツは魔国をそれぞれ目指して出発した。
優司の荷物の中には、体から離れても鼓動を打ち続けるヤマトとムツの心臓が大切に保管されていた。
エルフの里を目指して歩き始めた優司にコボルトのタケゾウとキヨタが話し掛けた。
「旦那・・・。俺たちも一緒に行っていいかい?」
「お願いでさぁ、一緒に連れて行ってくだせぇ!」
優司は笑いながら言った。
「もちろんだ!リン奪還を手伝ってくれ!」
コボルトの2人は諸手を挙げて喜んだ。
「ひゃっほー!良かったでやんすね、兄貴っ!」
「ああ、良かったな!」
「ところで旦那!レッサーデーモンを倒した凄い音がしたやつ。あれってなんです?」
「そうだ!忘れていた!あれは何だったんだ!?」
トールが思い出して騒ぎ出した。ルイも見たことの無い飛び道具だったので興味があるらしい。
「あれは飛び道具ですよね?どういった物なのでしょう?」
優司とヘパイストが『拳銃』の説明を始めた。拳銃の他にも類する武器を開発する予定であることを伝えた。さらに、先ほどの意思伝達装置や転移装置などを作り、リン奪還を確実に出来る様にすることを説明した。
「なるほど、優司の元いた世界の武器や道具を、この世界に作るということか・・・。」
テュールが顎に手を当てて呟いた。
「・・・いや、転移装置は無かったよ・・・。」
優司達一行はエルフの里を目指して歩いている。
一方、アスモデウスの居城ではリンが居なくなったことに気づいて騒然となっていた。
「おいっ!看守はどこだ!?エルフの娘が居ないぞ!」
アザゼルが喚き散らしている。そんなアザゼルのところに看守が怯えながら出てきた。
「も、申し訳ございません!い、いつの間にか居なくなっておりました!」
「誰か入ってきた者はいないのか!?」
「おりませんっ!わっ、私は監獄の扉の前にずっと居ました!誰も通しておりません!」
アザゼルは苦虫を噛み潰したような顔をして吐き捨てた。
「くっ!鬼人の、ヤシャの仕業だな・・・。」
「鬼人の!ヤクシャ族のところに行く!場合によっては戦になるかもしれん!準備をしろっ!」
「その看守は始末しろ!」
看守は悲鳴を上げながら連れて行かれた。
ヤクシャ族の村から少し離れたところにある鬼人族の村。ここはヤクシャ族と近縁種のラクシャーサ族が住んでいる村である。そこにリンを連れたヤシャが現れた。
「ラセツっ!ラセツは居るか!?」
ヤシャが村に入るなり大声で叫んでいた。そこへラクシャーサ族の男が一人ヤシャの元へ歩いてきた。
「なんだ、なんだ、騒々しい。まったく、どうしたんだ!」
「おお、ラセツ!元気か?」
ラセツと呼ばれた男は体が黒く、赤い髪をし、牙が生え、裂けた口を持つ獣の様な容姿をしていた。
「折り入って頼みがある。このエルフの娘を匿って欲しい。アスモデウスの城から盗み出してきた。」
ヤシャはリンを前に出してラセツに懇願した。
「なんだ?この娘は?」
「詳しい話は後日アラハバキ様と一緒に説明する。そろそろアスモデウスの城でも気づいたことだろう。恐らくアザゼル辺りが俺の村に軍隊を率いてやってくると思う。その時に俺が居ないじゃ不味いと思ってな!だから、この娘を俺の村に連れて行くことは出来んのだ!」
ラセツはリンに顔を近づけてマジマジと見た。するとリンが笑顔で話し始めた。
「こんにちは!私はエルフのリンって言います。お世話をお掛けしますが、よろしくお願いします。」
ラセツは内心驚いた。ラセツを見てもリンはまったく怖くない様だ。
「ほぅ、娘、俺が怖くないのか?俺は魔族の鬼人だぞ!?」
ラセツは少し凄んでみたが、リンはまったく動じずにラセツへ言った。
「怖い?何故ですか?あなたもヤシャさんと一緒で優しいおじさんにしか見えませんけど・・・。何が怖いんでしょう・・・?」
リンは本気で考え込んでいる様子であった、それを見てラセツもリンの素直さに打たれた様子だ。
「ヤシャよ、この娘は俺が命を掛けて守ろう!心配せずに帰るとよい!」
「よろしく頼む!」
そう言ってヤシャはラクシャーサの村を後にした。
ヤシャがヤクシャの村に着いて暫くすると、アザゼルが率いる軍勢が到着した。
「私はアスモデウス配下のアザゼルである!ヤクシャ族のヤシャは居るか!?居たら出てこいっ!隠し立てするならば実力を持って確かめさせてもらう!」
すると門番のヤクシャ族の男が喚いた。
「はっ!面白い!出来るものなら、やってみろ!鬼人と魔人の戦なら望むところだ!」
鬼人は直情的な者が多い様だ。アザゼルの脅しは、まったく通用しなかった。しかしながら、ヤシャが急いで門のところへ駆けつけてきた。
「コラっ!失礼の無い様に対応しろ!」
ヤシャは、そう言いながら大門の横の小さい扉を開けてアザゼルの前に進み出た。
「これは、これは、アザゼル殿、お急ぎのご様子で、いかがいたしましたかな?」
「件の娘が城から居なくなった!理由をそなたが知っているかと思って参った次第、返答やいかに!?」
「さぁ、知りませんな?私はアスモデウス様への用事を済ませた後、アラハバキ様へ報告を行い、ついさっき帰ってきたところです。」
「それでは村の中を改めさせてもらいたい!可能であろうな!」
「かまいません。事情は解りませんが、自身の城の管理不行き届きを私の責任にされても迷惑なだけですが・・・。」
「っく!解った、日を改めてアスモデウス様からアラハバキ様に申し入れ、村の中を確認させていただく!者ども行くぞ!」
アザゼルは踵を返してアスモデウスの城に帰って行った。その後ろ姿を眺めながらヤシャは笑って門番のヤクシャに言った。
「俺はこれからアラハバキ様のところに行ってくる。魔人を一人も通すな!」
命令されたヤクシャ達は気合の入った返事をしていた。




