魔族の待ち伏せ
36話
優司達の居る位置から少し離れた街道にレッサーデーモン達が待ち伏せている。一人の鬼人がレッサーデーモン達に詰め寄っているところだ。
「おいっ!本当に来るんだろうな!?もう一週間は経つぞ!何度も場所を変えてグール達も参っている!今度外れたら帰るからな!」
「待ってくれ!必ず来るから!」
「まあまあ、ヤマト殿。やつらは必ず来ます。」
ヤマトと呼ばれた鬼人は、オーガ族の偉丈夫であった。魔人であるレッサーデーモン達に頼まれて助太刀をすることになった様である。
鬼であるグールを10体連れ、鬼人であるゴブリン族のムツと一緒に加わった様であるが、幾日も待たされて苛立っている様子であった。
「何故、必ず来ると断言できるんだ?そいつらは何が目的で我々魔族に敵対するんだ?」
「義理でお前らに付き合っているが理由を言えないとは、どういうことだ!?」
「天族ではなく、亜人が魔族と敵対するなど、ありえん話だ!」
「理由を説明しろ!理由を!」
「それが奴らが必ず来るという確信なんだろ!?」
ヤマトというオーガ族の男がレッサーデモン達を捲くし立てている。怒鳴られているレッサーデーモン達が苦しい言い訳をしている。
「いや、ヤマト殿、我々も詳しくは知らないんですよ!」
「そうなんですよ!珍しい種族の亜人に、いきなり襲われたと・・・。その者が妖族を引き連れてしつこく追いかけて来るので返り討ちにするように命じられただけなんです!」
「何でも、その珍しい種族は素手でガーゴイルとレッサーデーモンを倒したそうです。ということは、かなりの戦士だと思われます。もしかしたら伝説のマスラオかもしれません。それなので鬼人族のオーガの中でも最強と謳われるヤマト殿にご助力を願ったのです。」
「ふんっ!その話が本当なら十分楽しい話ではあるが、その者が来ないことには話しにならん!今日一日待ってみて来なければ帰るからな!」
オーガのヤマトは散々喚き散らしてからゴブリン族のムツのところに歩いていった。
「やれやれ、これだから鬼人族は嫌なんだよ・・・。脳みそも筋肉でできているからな・・・。」
「よせっ!聞こえるぞ!」
「まあまあ、脳筋のおかげで御しやすいんだから、多少は我慢しないと・・・。」
レッサーデーモンの三人はコソコソと話しあっていた。
「ヤマトよ、そうカッカするな・・・。魔人達の都合は知らんが、助太刀を了解した以上は最後まで付き合わんと・・・。」
「それに、アスモデウス率いる魔人達の様子を見る様にアラハバキ様から命ぜられている以上は同行は致し方ないことだ。」
ゴブリンのムツがヤマトを宥めている、ゴブリン族のムツはオーガ族のヤマトと違い細身の体をしている。しかしながら、オーガと比べてのことで見かけは体格の良い人間の様だ。人間との違いは額に生えている二本の角である。
オーガとゴブリンは共に額に角が生えていて、体が大きい方がオーガで小さい方がゴブリンと言った所か。恐らく近しい種族なのであろう。
「ふんっ!何が伝説のマスラオだ!大げさに言いやがって!」
ヤマトは吐き捨てる様に言い放った。
優司達は街道の近くまで来ていた。優司はダグザに回り道などがないか聞いてみた。
「ダグザよ、待ち伏せしている魔族達の後ろに回り込むことは出来ないかな?できれば一人も逃がしたくはないんだ!」
「そうですなぁ、確か小道の様なものがあったかもしれないですじゃ・・・。」
ダグザが曖昧に答えたが、ヤタが回り道のことを話した。
「大丈夫だよ!道ではないけど、奴らの後ろに回り込むことは可能だよ!」
優司達はヤタの案内で待ち伏せをしている魔族達の後ろに回り込んだ。
「奴ら、来ねえなぁ・・・。間違いなく追ってきているのかねぇ・・・。」
「来るだろうよ!なにせ娘を攫われたんだ・・・。」
「でも自分の娘って訳じゃないんだろ!?他人の娘の為に命を掛けるかね?」
「ヒューマンらしいからな・・・。来るだろうよ・・・。」
レッサーデーモンは三人で話し合っていた。そこへ話し掛けるものがいた。
「よう!待っている者たちは俺たちのことかい?」
レッサーデーモン達は来るだろうと思っていた方向とは逆から現れた優司達に仰天していたが、すぐさま戦闘体制を整えた。
「き、貴様ら!なんで後ろから!?」
「ガーゴイルっ!やれっ!」
ガーゴイルが一体、率先して飛び出してきたが、優司が野太刀で一刀の基に切り捨てた。
レッサーデーモンが魔術の詠唱を始めるも、ルイの光の矢で黙らされた。
残りのガーゴイルとレッサーデーモンの一体は、優司達にあっという間に倒された。
残ったレッサーデーモンの一体が少し離れたところに居たオーガ達の下へすっ飛んで行った。
「奴らが来た!出番だ!」
「うるさいっ!黙っておけっ!」
「ムツっ!グールを出すな!無駄死にさせるだけだ!」
オーガのヤマトはゴブリンのムツへ叫んだ後、ゆっくりと優司達に近づいて行った。背中には巨大な諸刃の剣が背負われている。
「お前もクレイモアを使うのか!確かに見たことの無い種族だな!クレイモアも変わった形をしている。」
「俺はオーガ族のヤマトという。一騎打ちを所望したいが、受けてくれるか?」
2メートルぐらいの伸長で体格の良いヤマトが優司に一騎打ちを所望してきた。優司は快く承諾した。
「いいだろう」
優司が承諾するやいなや、2人は剣を抜き、間合いを取った。
数秒間、お互いに微動だにしない状態が続いたが、仕掛けたのは優司の方であった。
優司は大上段に野太刀を構え、その状態で少し間合いを詰めた。ヤマトはその動きを察知し、正眼に構えていたクレイモアを一度自分の右に水平に引き、優司の胴を薙いできた。
間合いを詰めたと思った優司は、間合いを詰めていなかった。そして、少し左斜め後ろに下がり、ヤマトのクレイモアを寸前で躱した。
刹那、優司の野太刀はヤマトの首元を目掛けて振り下ろされた。全員が優司の勝利とヤマトの死を予想したが、優司は寸前で野太刀を止めていた。
「なぜ斬らん!?お前の勝ちだぞ!」
「勝負は着いた。殺すには惜しい剣士だからだ!」
「俺に生き恥を曝せというのか!?」
「生き恥?なんだ、それは?生きていることが恥なのか?」
「勝負に負けて生きているのは屈辱でしかないっ!そんな恥を曝して生きていたいとは思わん!斬れっ!」
「俺は勝負に負けても生きていることが恥だとは思わない。」
「勝負するために生きているのか?勝負をするために強くなるのか?」
「お前の強くなる理由は何なんだ?」
「・・・・」
「今の自分より強いヤツがいた、いつかそいつに勝てる様になろう。それでいいんじゃないか?」
「強さは目的を達成するための一つの要素だ!目的そのものではない!」
「俺はお前より強くてもマリアを守れなかった・・・。リンを攫われた・・・。もっと強くならないと・・・。」
優司はヤマトを諭す様に話した。みんなが優司とヤマトのやり取りを静かに見つめている。そんな時、大きな羽音がした。音のした方を見ると生き残ったレッサーデーモンが逃げるところであった。
「くそっ!ヤマトめ!散々文句を言ってたくせに負けやがって!覚えてろよ!」
レッサーデーモンは捨て台詞を吐き、飛び去ろうとした。ルイが慌てて弓を引き絞る。しかし、それよりも先に轟音が響き渡った。
「ダァーン!」
見ると優司が『拳銃』なるものを発砲していた。レッサーデーモンは鈍い悲鳴を上げて落ちていた。二度と羽ばたくことはできなかった。




