反し
20話
しばらく山道を歩くとダグザが話し始めた。
「そろそろ日が暮れますじゃ!この辺で野宿が出来る場所を探しましょう!日が暮れてからでは準備が大変ですからのぅ」
俺たちは全員賛同して野宿できる場所を探した。幸いにも直ぐに少し広い場所が見つかり、焚き火と食事、寝床の準備を各人始めた。
食事も終わり、全員が焚き火を中心に輪となって座った。新しい仲間も加わったので、今までの経緯やそれぞれの身の内などを話し合った。
「優司、今日の戦闘のことだが・・・、ちょっと聞いていいかい?」
テュールが改まって聞いてきた。
「ん?なんだい?改まって」
「一番初めにスプリガンの頭目の首を切り落としただろ・・・。剣を抜くと同時に・・・。あれは何ていう技なんだ?」
「ああ、あれは・・・。『抜き』・・・。いや、『居合』という技だよ。」
「各流派で色々な呼び方があるんだけどね。木ノ葉流武闘術では『抜き』と言うんだ。その他は『抜刀』とも言うかな」
「俺の持つ日本刀は斬ることに特化した剣だから、切りやすい様に刀身に反りが入っている。鞘にも同じように反りがある。この反りを使って刀身を走らせる。そして一気に刀身を抜き放つ。速度が速いから威力が高く、相手を狙いやすい技なんだ」
「なるほど、居合か・・・。」
「恐らく全員が感じたと思うんだが・・・、優司が剣を抜いてスプリガンの首を斬る動作が全く解らなかった・・・。優司の腕が動いたと思った瞬間にスプリガンの首が落ちてたって感じだったんだよ・・・。」
「一体、どうやってやるんだい!?」
珍しくテュールが技の詳細を聞いてきた。俺は丁寧に答えることにした。傍らでカイが目を輝かせて聞いている。
「もともと居合術は座りながら刀を抜き放つ技なんだ。」
「俺の世界の日本という国は長らく『武士』という戦闘を生業とする集団が国を治めていてね。だから戦闘での技が発達したんだ。俺の木ノ葉流武闘術もその一つで、この日本刀もそこから産まれたものなんだよ」
「戦闘は立ち上がっているときだけに起きるとは限らない、座っているときでも寝ている時でも敵に襲われる可能性がある。だから、その体制での訓練を必ず行うんだ」
「座っているときに剣を抜く場合、脚が使えないから動作に制限が掛かる。その制限を克服するのが『体幹』なんだよ」
俺はこの世界でも解るように丁寧に細かく説明した。
「体幹?どういうこと?」
カイが食いついてきた。
「そう、体幹。体の末端である手や足といった部位を動かすのではなく、体の中心を動かして、その動作を末端に伝えるんだよ」
「体の中心・・・。」
カイが呟いた。
「なるほど、体幹か・・・。それと、三人目のコボルトを斬ったときなんだが、剣を持つ手に違和感があったんだ・・・。あれも技かい?」
俺は正直、かなり驚いた。テュールがあの乱戦の中でそこまで視ることが出来ていたとは・・・。
「よく視ていたね!確かに違和感があったと思う。右から斬っても左から斬っても『順手』だったからね」
全員、俺の話を無言で聞いている。
「普通、右利きの者は右から左に斬り抜くときは右が前の『順手』になる。そして、左から右に斬り抜くときは『逆手』になる。逆手の場合は、攻撃に体重が掛けづらく、剣も持ちづらいから片手になる。よって威力が弱くなる。それを克服するために左右を切り替える訓練をするんだよ」
「その切替のことを木ノ葉流武闘術では『反し』と言うんだ。この『反し』は単純に右手と左手を入れ替えるってことじゃない。さっき体幹の話をしたけど、体幹で左右の入れ替えをするんだよ」
「体幹で左右を入れ替えて、その力を肩から肘、手、切っ先の順に伝えていくんだ」
「体の中での動作だから表からは見えずらい。だから、いきなり首が飛んだと思うし、違和感としての認識になるんだ。もちろん、戦う相手も解らないよ。だから勝てるんだけどね」
「まぁ、言うのは簡単だけど、やるのは難しいよ!しっかりとした練習が必要だし・・・。それに、体に歪みがあると出来ないから・・・。」
俺は、木ノ葉流武闘術の基本中の基本を話した。するとダグザが言った。
「なるほどのぅ、聞いていると優司殿の木ノ葉流武闘術は『体の扱い方』を重視するような感じですかな?」
俺はダグザの問に関心しながら答えた。
「その通りだよ!木ノ葉流武闘術は、いついかなる時も自分の心と体を制御できる状態を保つ。これが目的なんだ!」
みんな関心していたが、カイが素朴な質問をしてきた。
「でも、すごい技とか無いの!?特別な技とか!これを出せば必ず勝てるみたいな!」
俺は、カイが一般的な反応をしたので可笑しかった。若く、強さに憧れる者の典型的な思いであるからだ。すごい技やすごい武器に憧れる典型的な男の子である。恐らく、普通の男の子であれば必ず通る道ではないかと思ったりする。
俺は武術の先輩として、カイの剣術の師匠として、しっかりと答え教えた。
「ないよ!特別な技なんて。奥義も極意も!」
「でも、いつも練習している『型』は!?あれは、ここぞっていう時に出せば勝てる奥義じゃないの!?」
カイの武術に対する憧れを壊すことに戸惑いを覚えた。しかしながら、カイの憧れを正さないと命に係わることなので俺は続けた。
「型は先人たちが経験を積み重ねて作った教科書だよ。型の中にある技を学ぶための。だから技を理解して身に着ければ型は必要なくなる。いずれ全ての型を使わなくなる。」
「だからと言って型を学ばないのはダメだ!!型は基本の技が凝縮された教科書だから。『型』の中にある基本の技『その時にするべき体の形』を自分の体に浸み込ませる必要がある。だから『型』を反復練習するんだよ」
とまどうカイを見つめながら、俺は更に続けた。
「木ノ葉流武闘術の教えの中に『基本に勝る奥義無し』っていう言葉がある。どんな威力の強い奥義があったとしても、全て基本の延長線上である。だから必要なのは基本だという意味だ。そして、基本っていうのは『当たり前の理』のことなんだよ。その『当たり前の理』を理解して技として身に着ける。それが出来て初めて強くなれるんだよ」
「基本に勝る奥義無し・・・。」
カイは繰り返し呟いていた。その様子を見て俺は『カイは大丈夫』そう確信した。




