ギッシュの町
12話
優司達は一本道をひたすら進んでいた。目指すは魔国としているが、闇雲に魔国に乗り込むのは無謀であると考えている。しかしながら勝手の解らない異世界でどう対応すればよいか考えあぐねていた。
丸1日進んで行くうちに町らしきものが遠目に見えてきた。近づいてみると周りを柵で囲われた町であった。一先ず休憩をしようと一行は町に立ち寄ることにした。
『ギッシュの町』、雑多な種族が集まる町、武装商隊などが近隣の種族の里へ行商に行くとき、一時の休憩地点として発展してきた宿場町である。
優司達は魔族の一団がここを通ったか確認し、通っていればどの方向へ行ったかなどの情報を得るつもりであった。
「とりあえず、ルリとモンチとサラは泊まれる宿屋を探してくれ。僕とヤタは魔族の情報を集めて来る。優司はフェンリルとアピスとで荷車を見張っておいて。」
カイ達はそう言って町の中へ消えて行った。どうやら俺は珍しい種族なのであまり歩き回らない方がいいらしい。よって、荷車の見張り兼留守番ということだ。
しばらくすると、カイとヤタが戻ってきた。
「優司!やっぱり魔族達はこの町を通ったらしいよ!馬車が2台と荷車が数台、魔族の種族が結構いたらしい!2日前に魔国へ向けて出発したって!」
カイ達は首尾よく情報を集めてきた。このまま魔族を追っても追いつくことは不可能であろう。仮に追いついたとしても魔族の集団に勝てる保証はない。
リンの救出が最優先であるため、無理はしないようにすることに決めた。リンの眠れる霊力が目当てである以上、力が目覚めるまでは殺すことは無い。よって、じっくりと対策を立てて行動するべきである。
少し待つとルリとモンチ、サラも戻ってきた。とりあえず泊まれる宿屋を見つけたらしい。荷車の置く場所もあるらしく、荷車の保管場所に妖獣族も泊まれるとのことだ。
優司達一行はその宿屋を目指して歩き出した。
宿屋の前に着き、食事をどうしようか話し合っていると一人のドワーフが話し掛けてきた。
「こんばんは。俺はドワーフのテュールという者だが、魔族の一団の行方を聞いて回っていたのは君達かい?」
声を掛けてきた者の方を見るとドワーフが2人と2メートル以上はあるであろう大男が近づいてきていた。
テュールの問いかけに対してサラが言い放った。
「そうだけど!何か御用ですか!?こっちは忙しいの!!」
サラを見て後ろに居たドワーフが呟いた。
「ほう、受肉したシルフとは珍しい・・・。」
そして3人は俺の姿を見た。そしてテュールが言った。
「いや、2日前に魔族がここを通ってな。そのときに珍しい種族にガーゴイルとレッサーデーモンを素手で倒されたって話してたものでな。」
「確かに、見たことのない種族のようだな・・・。」
俺はどう答えるか少し迷った。先を急いでいるときに厄介ごとを起こしたくはなかったためだ。しかし、嘘をついてもしょうがないので正直に話した。
「確かに、その魔族を倒したのは俺だが・・・。少し違うな、レッサーデーモンは素手で倒したのではなく、手裏剣を投げただけだ。弱っていたレッサーデーモンを殺したのはグレーターデーモンだよ。」
「話はそれだけかい?俺たちは先を急ぐし、今日は明日からのためにゆっくりと休みたいんで、もういいかな?」
俺は当たり障りのないように答えたが、一番後ろにいた大男が笑いながら言い放った。
「がはははっ!そうかそうか・・・、俺はジャイアント族のトールという、素手で魔族を倒すなんて信じられん!恐らく嘘だろう!俺は嘘つきが嫌いでな!本当かどうか試してみたい。決闘を申し込みたいがいいかな!?」
「まぁ、断らせるつもりはないがなぁ・・・。」
そう言って少し広い所に歩いて行った。
俺は少し考えたが決闘を申し受けることにした。ここは無下に断ってもめるよりも相手をしてやり過ごした方が無難に思われたからだ。トールと名乗ったジャイアント族の男はいかにも単純そうな男だったので。
相手に怪我をさせる訳にもいかず、さらに言えば素手で魔族を倒したことを確認したいとのことなので、あえて素手で相手をすることにした。
腰に差していた日本刀をカイに渡し、大男の前に出て行った。ふと周りを見ると見物人が目を輝かせながら集まっていた。
ドワーフのテュールはやれやれという表情でこちらをみている。俺は目の前の大男が右手に持っているメイスを確認した。
「・・・重そうな鉄槌だな・・・。しかし大男の余力なら問題なく振り回せるだろう・・・。」
そう思っていたらトールが鉄槌を振り下ろしてきた。俺は空蝉で左半身に躱し、重い鉄槌を振り下ろしたので前屈みになったトールの左顎を右回し蹴りで打ち抜いた。
トールと呼ばれたジャイアント族の大男は、脳震盪を起こしてそのまま前に崩れ落ちた。
周りは一瞬の出来事に静まり返っていたが、少したつと歓声が上がった。
「すげぇ!兄ちゃん、ジャイアントを蹴り一発で倒しやがった!!」
周りは興奮に包まれているが、テュールと呼ばれたドワーフが真剣な表情でこちらを見ている。そして、静かに俺に言った。
「見事だ!どうやら魔族を素手で倒したのは本当みたいだな・・・!俺とも一つ手合わせしてもらっていいか?」
戦士であるドワーフのテュールも血が騒ぐのであろう。俺は心よく申し入れを受けた。
テュールは防御型の戦士の様だ。左手に盾と右手に柄の長い戦斧を持っている。盾越しに俺を見ながら腰を落として少しづつ間合いを詰めてきている。
俺は木ノ葉流舞で誘いを掛けてみた。それは、こちらから少し間合いを詰めてみることだ。恐らく間合いに入ったと思い、戦斧を繰り出してくるだろう。
仕掛けてみると、やはり戦斧を振りかざしてきた。俺は間合いを詰めた勢いを殺さず、戦斧の柄の内側に潜り込んだ。
両手で戦斧の柄を取り、左に体捌きを行い、テュールの戦斧の勢いを止めず、戦斧の柄を船のオールを漕ぐ要領で回してテュールを投げた。
テュールは一回転して地面に叩きつけられた。一瞬、肺の中の空気を吐き出す状態となり、苦しそうにもがいていた。
俺はテュールに近づき、苦しそうに俺を見上げているテュールに手を差し伸べた。
テュールは、しばらく肩で息をしていたが、ゆっくりと俺の手を取って立ち上がった。呼吸を整えながらやっとの思いで言った。
「み、見事だ!完敗だよ!」
それを見て周りにいた見物人たちは更なる歓声を上げていた。
改めてテュールが話しかけてきた。
「いやいや、まいった!完敗だ!魔族だけではなくドワーフとジャイアントの戦士をも素手で倒すとは・・・!剣を使ったらどうなるんだ?」
そういっているうちに、もう一人のドワーフに介抱されていたジャイアント族のトールが目を覚ました。
「ぐあぁぁぁぁ・・・!んっ・・・!?どうした・・・?何があった?」
トールは何があったのか、まったく呑み込めていないようだ。介抱していたドワーフに事と次第の説明を受けてようやく納得した様だ。そして俺に近づいてきた。
「いやぁ、凄いな!俺を蹴り一発で倒すとは!俺は確実に戦鎚で仕留めたと思ったんだが・・・。いきなり消えたと思ったら衝撃が来た。」
「気が付いたらテュールも倒したってんだから、大したもんだ!」
「お詫びに晩飯を奢らせてくれ!もちろん連れの連中全員だ!」
そう言いながら俺たち全員を酒場へ押し込んできた。
俺たちは荷車が心配だと言ったら、まだ名乗っていないドワーフが黙って荷車のところへ行き、何やら法術の詠唱の様な事をして戻ってきた。
「盗難防止の法術を掛けたから、もう大丈夫だ!」
「・・・盗難防止の法術!?さすが異世界、何でもありなのね・・・。」
俺はそう思いながら酒場に入って行った。




