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41話

 ドドォン……。

「殿!」

 常木は思わず叫んだ。

 彼は軍を引き連れ、武忠を救援すべく向かっていた。

 だが、武忠のいるであろう方向から火薬の破裂する音が響き渡った。

 河野勢は火薬を用いる兵器は持っていない。

 つまりこれは来島勢から発せられたものだ。

「常木殿! 前からお味方の船が!」

 隣にいた兵が声を上げた。

 呆然とする常木は虚ろな脳で周囲を見渡すと、目の前から2艘の関船と1艘の小早が向かってきていた。

「……なにがあった」

 静かにつぶやいた。

 いや、脳では理解していた。

 だが認めたくなかった。

「常木殿にございまするか!」

 近づいてきた味方の船から兵が声を上げた。

 よく見れば関船の1艘は武忠の乗る船であり、無数の穴が穿たれていた。

「いかがした!」

 常木はそう尋ねた。

 すると兵は「横づけしまする!」と言ってきた。

 常木が右手を上げて了承を伝えるとゆっくりと常木の乗る船に横づけした。

「ご報告……。申し上げまする」

 常木の船に乗り移った兵は跪くと涙を浮かばせた。


「我等本隊は敵の大将との決戦にて、壊滅! 木城武忠様は銃撃により重傷を負われました!」

 

 常木は兵の報告に何も答えなかった。

 内心では察していたのだ。

 しばらく黙った後、別の兵に「狼煙を上げ、撤退を命じろ」と命じると、武忠の船へと乗りうつった。

 甲板から指揮台のある上部構造へと入っていくとその中には横たわる武忠の姿があった。

「常木……か」

 かすれた声で武忠はそういった。

「顔も見ずによくわかりますな」

 常木が冗談で返すと武忠は鼻で笑った。

 常木は静かに歩いていき、武忠の傍らに腰を下ろした。

「思えば、長ごうございましたな」

「お主のおかげでここまでこれた」

 武忠は静かに微笑むと「ガハッ」と血を吐き出した。

「我が領地、兵は道宣様にお返し致す」

 その言葉に常木は目を見開いた。

 武忠に親族はいない。

 常木と武忠が出会うきっかけとなった戦。

 彼の手勢には唯一の弟が含まれていた。

 正室を設けてはいたが、その間に子供はない。

「早めに養子でも取るべきでしたな」

 常木はそう言って笑った。

 その冗談に武忠は「どこの馬の骨ともわからぬ家にわが領民を取られるぐらいなら道宣様にお返しいたすわ」と笑った。

 最後まで、領民を想ういい君主だ。

「城までは拙者が指揮させていただきまする」

 常木は立ち上がるとそう言って外へ出ようとした。

 だが、武忠に呼び止められた。

「介錯を……。頼む」

 その言葉に常木は動揺した。

「貴様に殺されれば悔いもない」

 かすれた声で常木を睨みつけた。

 その瞳は酷くまっすぐで介錯を乞っている人間の物とは思えない。

「兵に死ぬなと言うくせにご自分が苦しくなったら自害されるのですか」

 常木の冗談に武忠は何も答えずにジッと彼の瞳を見つめた。

「……真にございまするか」

 震えた声で尋ねた。

 武忠は静かに頷いて応じた。

 常木はしばらく答えることができなかった。

 目を閉じて逡巡した後、静かに「承知」と答えた。



「もうそろそろで来島だ!」

 安吉はそう声を上げた。

 目の前の岬を超えれば来島城が見えるはずだ。

 順当に敵が来島城周辺に展開していれば敵を後方から襲撃できるであろうルートを通っている。

「恐らく赤松門右衛門は来島勢と合流しているはずだ」

 安吉はそう考えていた。

 島影の奥には来島城があるはずでそこからは何度か狼煙が上がっているのを見ていた。

 現在は霧中での戦闘を反省し、先頭を風鳴丸がすすみ、その後ろに越智隆実の軍勢が続く。

 最後尾に海鳴丸が続く隊列となっている。

酉舵とりかじ一杯!!」

 安吉は鋭く左転を命じた。

 この岬を超えれば左側に来島城が見え、それを包囲する河野勢がいる……はずだった。

「なんだこれは」

 安吉の目に飛び込んできたのは水面に浮かぶ無数の木片と水死体。

 あたりには異臭が漂いただならぬ雰囲気であった。

「おぉ! 安吉殿!」

 そんな声が前から聞こえた。

 安吉が視線を向けるとそこには通康の姿が。

「安吉様!」

 小早が一艘近づいてくると上に乗っていた将が嬉しそうに声を上げた。

「おぉ! 赤松か!」

 安吉はそれに手を振って応じた。

「今まで何をしておられたのですか?」

 赤松の皮肉にも聞こえる問い。

 安吉は眉をひそめることもなく「敵に奇襲されていた!」と爽やかに笑った。

 それを聞いて表情を曇らせたのは門右衛門であった。

 先鋒大将である門右衛門の最大の役目、それは敵の奇襲を未然に防ぐことにある。

 それに失敗した挙げ句、自らは呑気に前進していたともなれば叱責は免れない。

「誠に申し上げ──」

 門右衛門はそう言って頭を下げようとした。

 しかし安吉は自らの言葉で以って遮った。

「敵の首はいくつ上げた?! 通康殿の扶けになれたか?!」

 安吉は背後の部隊に「戦後処理を手伝ってこい」との旨を伝えると自らは門右衛門の小早を横付けさせ、戦の経緯を聞いていた。

 門右衛門はところどころ自らの手柄を誇りながらも、通康の武勇を讃え、最後には自らの兵を讃えた。

「良く戦った」

 安吉は門右衛門の肩を叩くと、大げさに称賛した。

 そして安吉は風鳴丸に戻るとそばで錨を落としていた海鳴丸に向かって声を上げる。

「抜錨! 展帆せよ! 目指すは河野氏本城、湯築城!」

 安吉の言葉に二隻の帆船から歓声が上がった。



「……ここは」

 場所はうって変わり恵良城えりょうじょう

 湯築城よりもやや北にあり海岸線に面する恵良山山頂に位置する山城であった。

 幸田によって気絶させられた利通は幸田の息子、三治郎によってここまで戻ってきた。

「お目覚めでございまするか」

 目を覚ました利通に声をかけたのは三治郎であった。

「……戦は、どうなった」

 利通がそう尋ねると三治郎は「惨敗にございまする」と応じた。

 幸田の所在を訪ねようとしたがすんでのところで息を飲み込んだ。

 ここに幸田ではなく、三治郎がいる。

 つまりはそういうことであった。

「木城の隊はどうなった」

 利通は静かに訪ねた。

 三治郎は震えた声で。

「……壊滅、木城武忠殿ご自害。幸い、常木殿は生き残られておりまする」

 その言葉を聞いた瞬間、利通はホッとした。

 常木は通宣が自らの直臣にしたがるほどの逸材だ。

 もし仮に討ち死にでもされたら、利通は多大な叱責を受ける羽目になる。

「村上は強いな」

 利通は静かにこぼした。

 だが、彼の瞳から闘志の炎は消えていない。

「残る兵を集め、籠城の用意だ。大祝や来島が攻めてくるやもしれん」

 利通の言葉に三治郎は「すでに用意は済んでおりまする」と答えた。

 おや、と驚く利通をよそに三治郎は言葉を続けた。

「誠に勝手ながら、敵勢が迫ってきておりましたので代わりに用意を進めさせていただきました」

 三治郎の言葉に利通は感心すると同時に少しばかり焦った。

 どの程度の敵が迫っているのか、誰が指揮しているのか。

 利通は何も知らなかった。

「敵は? どれほどの数だ」

 利通の問に三治郎はふっと微笑むと口を開いた。


「三好勢、15000がお味方の城を蹴散らしながら迫っておりまする」


 ついに、日本の副王とまで呼ばれた男が動いた。

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