表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/131

27話

「毛利と大祝が盟を結んだだと?!」

 大三島に放った間諜から伝えられた情報を聞いた武吉は動揺した。

 この時代の毛利は安芸の国人に過ぎない。

 そんな毛利と盟を結んだところで何になるという心もあった。

「もしや大内に刃を向ける気では?」

 隆重の言葉に武吉は息を吐いた。

「安吉が向こうについてしまったら、我等も続くほかあるまい」

 毛利にはすでに因島村上家がいる。

 さらに大祝が付いたとなれば来島も続くだろう。

 いくら能島が強大な水軍を有していようと、毛利、因島、来島、大祝の水軍すべてと戦うほどの戦力はない。

「まぁ、来てみればわかるであろう」

 武吉はそう命じると水平線に並ぶ船を眺めた。

 1800の軍勢はおよそ5日間でこの場に集結することができた。

「5日の差はでかいな」

 武吉は大祝を意識してそう言った。

 大祝は長くとも一日で常備兵を準備できるのに対して能島は4日かかる。

 この差はあまりにも大きい。

「我等も常備兵を準備すべきでは?」

 隆重の言葉に武吉は小さくうなずいた。


「そのうち、大祝に教授願うことになるだろうなぁ」


 闇夜に武吉の言葉は吸い込まれて行った。



「父上、ただいま戻りました」

 安芸の国。

 元久は元就の元へと帰還していた。

「大祝、能島、来島ですが、ご報告申し上げてもよろしいですか?」

 元久の問に元就や隆元は頷いた。


「簡潔に申しますと大祝、能島、来島いずれとも協力を得ることに成功いたしました」

 

 その言葉を聞いて目に見えて安堵の表情を浮かべたのは小早川隆景であった。

 水軍を率いる彼としては村上水軍を仲間に得ることができて非常に安心していた。

「それと能島でこのようなものを」

 元久はそういうと背後に置いていた火縄銃を彼らの前へと出した。

「これは、種子島ですね?」

 まず手に取ったのは元春であった。

 彼の吉川家では毛利家での試験に先んじて銃兵隊を組織している。

「これは大祝で造られた火縄だそうです」

 元久の発言に元春は言葉を詰まらせた。

 今この日の本で火縄銃の生産に成功しているのは伝来地である種子島。そして堺やその周辺に過ぎない。

 その中で十分な兵力も資金も持つ大祝、それに彼らの同盟相手である村上水軍が量産に成功した。

 これは大きく周辺地域のパワーバランスを崩すものであった。

「これを買い付けることは?」

 静かに話を聞いていた隆景はそう声を発した。

 今や大祝とは盟友である。

「200両と」

 その言葉を聞いた元就は大きく唸った。

 南蛮製の火縄銃は現在500両程度。

 堺や国産のものは370両程度なのを考えれば破格の値段と言えよう。

「大祝はそれを何丁持っているのだ?」

 その問いに元久はにやりと笑うとこう告げた。

「300丁有しているそうな」

 その言葉に一同はどよめいた。

 火縄銃だけで大祝が有する資産はおよそ60000両。

 円になおせば90億円に相当する。

 石高にすればおよそ9万石。

 安芸の国全体でおおよそ15万石であった。

 彼らにはこれを一括で購入する資金などあるはずもなく一同は頭を抱えた。

 大祝がせめてその半分でよいというのなら、即決で出せないこともない。

 その為に毛利家は今まで金銭をためてきたのだ。

「元久よ、大祝と交渉しなんとしても値下げを成功させるのだ」

 元就の命令に元久は暫し躊躇ったのちに「承知」と平伏した。



「……とういうわけでして」

 一週間後、元久は大山祇神社を訪れていた。

 今回は評定の間ではなく、安吉の私室に通されていた。

「いらした理由は理解致しましたが……。よくも何度もここを訪れようと思いましたね」

 安吉は感心したようにそう言った。

 ここ大三島は元久や毛利家に対し強い怨念を抱いている。

 事実、彼を安吉の私室に通す間にも何度か襲撃されかけている。

「しかし、大祝殿が抑えてくださるではないですか」

 大祝家の客人として元久を迎えている以上何かあれば大祝家の恥となり、危険地域だと思われる。

 そうなれば街にあふれている商人たちや公家衆がいなくなる。

「虎穴に入らずんば虎子を得ず。ですかな?」

 安吉の問いに元久は静かに笑った。

「して、火縄銃1丁を100両で。という話でしたか」

 その言葉に元久は小さく頷いた。

 どこかその様子が上司から無茶ぶりをされたときの自分のようで可笑しくなってしまった。

「代わりに、300丁の火縄銃を一括で」

 元久の言葉に安吉は目を見開いた。

 すでにこの大三島では旧式の火縄銃の生産は終了している。

 今現在抱えている旧式の火縄銃はもはや産業廃棄物と化しているのだ。

 それが、1丁100両で売れるのなら大歓迎だ。

「合計30000両。ですかな?」

 安吉の問いに元久は「すぐにでも」と答えた。

「……では、こちらから二つだけ」

 その言葉に元久は息をのんだ。

 当然だ、ただ半額で売りつけるわけがない。

 市場価格に対し、半分以下の値を付けたというのにさらに値下げするはずがない。


「我等村上家による瀬戸内支配の容認。そして大内の持つ唐との貿易権」

 

 その言葉を聞いた元久は口をポカンと開けた。

「後者はともかく、前者は毛利が容認したところで……」

 元久の言葉に安吉はにやりと笑った。

 たしかに今の毛利はただの安芸を支配する国人にすぎない。

 そんな毛利が村上家による瀬戸内支配を容認したところでそれに反発する勢力は無数にある。

 河野にしろ、三好にしろ。

「河野も、三好も落ち目ですから。それに毛利殿はどうやら『大志』を抱いているようですし」

 安吉の言葉を聞いて元久はにやりと笑った。

 史実の毛利はたった1代で毛利家の最盛期を築き上げた。

 そして息子の隆元は領土維持路線を続け、領土を守り抜いたが孫の輝元の代で没落した。

 隆元の時代に、もしも領土拡張していればどうなっていたのやら。

「して、後者は。我々が裁可するまでもないと思うのですが」

 元久の問い。

 そもそも大内の持つ貿易権は幕府や朝廷から委任されたものだ。

「毛利殿から朝廷に推挙していただけると信じております」

 安吉はそう言った。

 いくら公家や朝廷とつながりのある大祝家と言えど単独で貿易権を得られるはずがない。

 毛利からの推挙には吉川や小早川からの推挙が付随する。

「……承知仕りました。父に伝えましょう」

 元久の言葉を聞いた安吉は「ご武運を」と笑うと右手を差し出した。

 彼はそれに迷うことなく同じく右手を差し出すと握り返した

 元久は満足げに微笑むとその場を出ていった。



「お疲れ様」

 元久の去った部屋には代わりに小春がいた。

 彼女は障子の外で元久と安吉の会話に聞き耳を立てていた。

「100両は安かったかな」

 そう後悔するように笑った安吉。

 小春は静かに首を振ってそれを否定した。

「それ以上に、得たものがあるじゃない」

 小春の言葉を聞いた安吉は「やっぱりそう思うか」と答えた

 元久の仕草、口振り。

 そのすべてを見てある収穫があった。


「毛利元久は転生者である」 



どうも皆様こんにちは。

ブックマークも1000を超え、もう間もなく1100にさし迫っております。


前作でも到達しなかった領域に足を踏み入れます。

高揚感と共に不安で一杯ですが、どうかご声援のほどよろしくお願いいたします。


感想でいただける言葉は大変励みになっております。

どうこか、ご一筆のほどよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ