28話
来島村上家、当主の名前を間違えておりました……。以下のように変更致しております。
通総→通康
「して、風鳴丸はどうだ」
安吉は造船所を訪れると、嘉丸はそう尋ねた。
そこには海鳴丸よりも少しばかり大型でありながら、3本マストを備えたシップ型が鎮座していた。
そのすべてのマストには横帆が張られ、最後尾のマストの下部に縦帆が張られていた。
「海鳴丸に比べ、迎賓室などが少なく容易にございまする」
そう言った嘉丸の表情には疲労がにじみ出ていた。
「無理をするな。武装はまだできていないんだから」
安吉はそういうと設計図の舷側を指さした。
そこには無数の小窓が描かれていた。
「大筒、というのでしたか。どの程度進んでいるのですか?」
嘉丸の問いに安吉は額に手を当てた。
大筒の開発を始めたのはおよそ半年ほど前。
しかしながら、以降は紅衆の拡充や新型火縄銃の生産が始まったせいで鍛冶屋の数が足りていない。
「……心中お察しいたします」
嘉丸はそう苦笑いしながら言った。
観光客が無数に増えたことにより、経済的に豊かにこそなったが人手や時間が足りない。
「金だけあってもいかぬ、か」
安吉は静かにそう呟いた。
「小春、どうだ」
その後、安吉は大三島の工房を訪れていた。
小春はそこで技師たちと新型火縄銃の打合せをしていた。
「もうすぐでできそうよ」
小春はそういって微笑んだ。
「これだけで、命中率変わるんですかい?」
鍛冶の一人がそう声を上げた。
安吉はその図面を覗くと、そこには銃床が新た追加された火縄銃が描かれていた。
その見た目はまさしく木銃床を備えたライフルのようであった。
「あぁ。これだけで随分と変わる」
安吉の言葉を聞いた鍛冶は「ははぁ……」とこぼした。
「月に何丁つくれる」
安吉は小春に向きなおるとそう尋ねた。
小春はしばし考えた後「月30丁程度かな」と答えた。
この大三島に火縄銃を作る鍛冶は10家いる。
1家につき10日で1丁といったところか。
「あぁ、それで頼む。明日にでも生産を開始しろ」
安吉の命令をきいた鍛冶たちは平伏すると方々へと散っていった。
残った小春に安吉は「迷惑をかけたな」と微笑んだ。
「好きでやってるもの。気にしないで」
小春はそう言っているが、嘉丸と同じように疲労の色が見える。
安吉はその表情を見てこの家の危機をひしひしと感じた。
新たな政策を実施する人物が足りない。
今現在動いているのは紀忠、貞時、それに小春。
この3人しかいない。
越智や安香はいままで行っていた政策を維持するので精一杯だ。
「小春、少し休め」
安吉はそう言って小春を抱きしめると、彼女は安吉に体重を預けた。
「はい、すこしだけ」
「で、あるからして。縦帆は横帆に比べて、切りあがり性能に優れ――」
翌日、安吉は貞時の元へと訪れていた。
貞時は現在、航海訓練所で教官をしている。
当初、教官は貞時のみであったが現在は複数名の教官が働いている。
その全てが、貞時の取り立てた者たちであった。
「では、なぜ横帆を主に使っておるのですか?」
生徒の一人が手を上げて貞時に尋ねた。
「縦帆に比べ、追い風の際に速力を出せるからだ」
その返答を聞いた生徒は納得したようであった。
貞時はその様子を見て満足げに頷いた。
「では、ここまでに」
貞時はそういうと、教本をたたんだ。
「ありがとうございました!」
生徒たちが貞時に対して平伏する。
どうやら随分と生徒たちから慕われているようであった。
「さすがは、傅役殿」
授業を終えた貞時を茶化すように安吉は笑った。
貞時は「これはこれは太守殿。いかがなさいましたかな?」と小ばかにするように笑った。
「して、何用でございましょう?」
貞時にそう尋ねられると、安吉は自らの悩みを明かした。
「人手が足りぬ。どうすればよいと思う?」
そう尋ねた安吉に貞時はどこか嬉しそうな顔をした。
自らを頼ってくれた安吉に微笑ましさを感じている。
「今や水夫の人材は有り余っておりまする。なぜですかな?」
そう、政策を執る人間はいない。
しかしながら、水夫はこの大祝ではあまり始めている。
現在この航海訓練所を卒業した者たちは大三島に来る商人たちの持つ船の船員となっている。
「ここのような学舎を作ってしまえばよいのでは?」
その言葉に安吉はハッとした。
現代で言うところの水産学校や海上技術学校を創設したが、それ以前の問題があった。
「算術を教える学校を創設する」
安吉はそういった。
理財に優れた人材がいれば、小春や嘉丸の負担も減るというものだ。
「貞時、しばし手伝ってもらうぞ」
安吉の言葉に貞時はうんざりしたような表情を浮かべた。
「あまりこの老体を酷使なさいませぬように……」
天文19(1549)年1月のこと。
安吉は訳あって海鳴丸に乗り込んでいた。
「わざわざお前さんがいかなくとも……」
そう言ってあきれ顔をしているのは紀忠であった
今回の安吉に同行するのは紀忠と紅衆30名。
安吉はこの度近衛に呼び出されて京へと登ることとなった。
「新年のあいさつならば書状で済ませればいいだろうに……」
紀忠はそう言って悪態を吐いた。
もう間もなくで風鳴丸が完成するという矢先にこのような呼び出しを喰らったのだ。
不満も溜まろう。
「これを機会に堺の職人を追加で大祝に呼び込むとしようか」
どこかウキウキとした声色に紀忠は微笑ましさを感じていた。
やはり安吉と小春の二人はどこか子供のようで、好ましい。
「小春もつれてきてあげたほうがよかったかな」
そう言った安吉の表情はとても穏やかなものであった。
「久方ぶりでございまする」
安吉は京につくと朝廷に呼び出された。
上座に座るのは関白、近衛前久。
左右には数多の公家衆が顔を連ねている。
「やぁやぁ大祝殿。一昨年ぶりであるな」
近衛は安吉にたいしてそうニコニコと笑った。
よくもまぁぬけぬけと嘘をつけるものだと感心する。
大山祇神社の落成記念式典に近衛が出席したのは確かに2年前ではあるが、それ以降もなんどかお忍びで大三島を訪れているという話は知っている。
「その節は大変お世話になりました」
安吉はそう言って頭を下げた。
「衛門衆も随分と面倒を見てくれているようだな」
紅衆が御所での護衛をする代わりに大三島に来た衛門衆。
彼らは今紅衆となるべく修練に励んでいる。
「学に富んだ者がおおく、随分と楽させて戴いておりまする」
安吉がそう頭を下げると近衛は満足そうに笑った。
そして、扇をパシリとたたくと口を開いた。
「大祝にいる衛門衆の最高官位は従五位上であったかな」
従五位上とは官位のことで、上から言うと13番目の官位に当たる。
「大祝殿は養父上が官位を持たれてはいるが、お主はもっておらなかったのう」
そう言われた安吉はギクリとした。
実際最初は戸惑った。
公的な役職自体は近衛衆のほうが格上であるのにかかわらず、大祝家では安吉から近衛衆に何度も命令を行うこととなった。
「そこでお主に役職を任じようと思う」
その言葉を聞いて安吉は背筋が伸びた。
「ありがたき幸せにございまするが……。一体どのような役職にございますか?」
今現在めぼしい役職は各地の実力者によって占められている。
もちろんいくつかの官位に空席はあるものの、そのどれもが近衛衆のもつ従五位上よりも格下の物であった。
安吉の問いに近衛は扇を広げ、口元を隠した。
そして、端から口元を覗かせるとニヤリとわらった。
「正五位下、瀬戸内守に大祝安吉を任ずる」
どうもみなさま、こんばんわ、
雪楽党と申します。
ブックマークも1111を超え、日々飛んで喜んでおります。
誤字報告、ありがとうございます。
皆様のおかげてこのような躍進を得られたと思っております。
どうか今後ともよろしくお願いします。
ps. 感想、レビュー。よろしくお願いします。




