第八話
リリナが魔王に会っている頃、自宅ではオリエが工事に立ち合っていた。立ち合うと言っても筋力トレーニングをしたり、剣の素振りをしたりしているだけだ。ダンジョンなどの戦いの場ではないので鎧は着けていない。普通のシャツとズボンである。しかしリリナほどでなくてもはち切れそうなおっぱいに違いはなく、動く度に服の上からでもはっきり判るほどにたゆんたゆんと揺れる。
そんな魅惑の揺動をして、男達が気にならない筈がない。しかしどっかーんとやられては堪らないので横目で覗き見るだけだ。チラチラ、チラチラ、その度に手が止まる。
「てめぇら、仕事しろ!」
チラ見に執心して手が止まりがちな弟子に棟梁が業を煮やした。弟子達は慌てて手を動かす。それを見届けた棟梁はと言うと、チラッとオリエのおっぱいに目をやってから、「さあ、俺も頑張らねぇとな」とわざとらしい口調で言いながら肩を回す。その間、またチラチラッとオリエのおっぱいに目をやるのだった。
日が変わって、オリエの場合。
道すがら、襲い来る魔物を剣で斬り伏せる。道中の半ば過ぎまでは危なげないものだ。一刀の下に複数の魔物を屠ることもしばしばである。しかしそこから先は近接戦闘の悲しさか、複数相手が厳しくなる。
「はっ!」
気合一閃、一頭の魔物を斬り捨てるが、その隙を突くようにしてもう一頭の魔物の爪に背後から襲われる。
\ぼっかーん/
魔物の爪が鎧をも貫いてオリエの肌に食い込まんとした瞬間、その部分の服や鎧を爆ぜさせながら爆発が起きた。瘴気に汚染された時から身に付いたオリエの固有魔法クッコロのパッシブ効果だ。魔物は大きく弾かれてもんどり打つ。すかさずオリエの剣が追撃する。
「はっ!」
魔物を両断。しかしオリエの鎧も破損してしまっている。
「くっ、わたしとしたことが」
悔しさを滲ませるオリエであるが、そんなちょっとした危機が一度で終わるはずもなく。
\ぼっかーん/
\ぼっかーん/
\ぼっかーん/
幾度か魔物の攻撃を受ける間にオリエの鎧の破損も進む。魔王の居室に達した時には半分以上肌を晒す状態であった。
「魔王殿! また見えたな!」
オリエは鎧のことなど気にも留めていないように魔王に言葉を掛ける。しかしそんな宣言をする間にもスライムに絡まれてしまう。
「あん……」
そして次の瞬間にはもうスライムに弄ばれるのだ。
「またもやスライムに陵辱されるなど、何と言う屈辱!」
本気でそう思っているのかさえ怪しいほどに艶めかしくも荒い息を吐くオリエ。そしていよいよ破廉恥なポーズを取らされ、見せてはいけない部分まで魔王に向けて晒された時。
「くっ、殺せ!」
\ぼっかーん/
スライムを粉々に飛び散らせるのであった。
魔王、ここまで言葉もない。
暫くしてオリエの息が整ったところで魔王が問う。
「お前は何がしたいのか?」
魔王でなくても抱く疑問だ。
しかしオリエは胸を張る。
「わたしにも判らん!」
きっぱりと言い切った。どうやら本能にでも突き動かされているらしい。
「そうか……」
二の句が継げない魔王である。
「ではまた見えようぞ!」
魔王に挨拶をしてオリエは立ち去るが、魔王、全然関係なかった。
魔王はもう無言である。
魔王の居室からの帰り道は魔物が少ない。往路で倒した分がまだ埋め戻されていないのだ。だから全裸でも安心。なんてこともなく、遭遇する時は遭遇する。
\ぼっかーん/
\ぼっかーん/
\ぼっかーん/
でもオリエなら固有魔法クッコロによってやっぱり安心だった。
ところが「ブヒッ」と言う声と共に現れた二足歩行の豚のような魔物にはそのクッコロが自動発動しなかった。人の脚のようにも見える偶数の蹄を持った脚でぶらぶらする魔物を前にオリエの足が竦む。そんなオリエに「ブヒブヒ」鼻を鳴らしながらぶらぶらする魔物が迫り、腰に前足を回して抱え上げて連れ去ってしまう。
「くっ……」
オリエはいよいよ身体が竦んで為されるがまま。連れて行かれたのは魔物の巣だ。そこに居た幾頭ものぶらぶらする魔物が「ブヒブヒ」鼻を鳴らす中、彼らの真ん中に転がされた。怖気も奔る。
そんな心情をぶらぶらする魔物が忖度するはずもなく、オリエに群がりその身体中を舐り回す。この豚の魔物は動物の転じたもので、人の女を捕らえると生殖活動をしてしまうのだ。
「豚に弄ばれるなど、何たる屈辱!」
全身を戦慄かせながら堪えるオリエ。しかしいよいよギンギンに血走った魔物にのし掛かられた時。
「くっ、殺せ!」
\ぼっかーん/
一度や二度吹き飛ばされてもめげない魔物も居る。
「くっ、殺せ!」
\ぼっかーん/
「くっ、殺せ!」
\ぼっかーん/
「くっ、殺せ!」
\ぼっかーん/
斯くして豚の魔物の巣の一つが壊滅した。
この夕方、ぶらぶらする魔物の体液で全身をぬめぬめさせながらダンジョンから戻ったオリエに、自警団がいつもにも増して戦々恐々としたとかしなかったとか。
オリエが魔王に会っている頃、自宅ではエミリーが工事に立ち合っていた。立ち合うと言っても適当に考え事をするだけだ。
大工の仕事はすこぶる順調に進む。気を散らすことも無さそうである。
「おい! こら! どう言う意味だ!?」
誰に向けたか判らない怒声を発したとか発しなかったとか。