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魔王へのレクイエム  作者: 浜柔
第六章 勇者として
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第八十四話

 ノルトは最初に勇者の記録を読む。勇者は魔王に付きもののため、魔王の手掛かりが見つかるかも知れないのだ。


 ――議会は勇者召喚の決議をしてしまった。


「陛下、無念にございます」

「ブグートは山脈を越えなかった故に彼らは止まったが、ラインクは既に侵入しておる。拒否権を発動するだけでは止まるまい」

「しかし、魔王出現に先んじて勇者を召喚してしまっては、何が起きるか判りませぬ」

「そうは言うが、魔王に備えるあまりに国が滅びては何にもならぬと言う、彼らの気持ちも解らぬではないのだ」

「お戯れを。勇者召喚は国で収まる問題ではありませぬ」

「帝国にもそれが解らぬ者が多くなった。魔王を信じてはおらぬのであろうな」

「ラインク王を魔王と定義すれば良いとまで言う始末で、情けない限りでございます」

「ラインクの非道が魔物の如き所行である故であろうな」

「それでも人には違いありますまい」

「それもこれも魔王が最早伝説の中に在るのみだからであろう。我が国でさえこうなのだ。仮にラインクにそれを訴えたところで聞く耳を持つまいよ」

 ログリア帝国は魔王に対抗するために生まれ、代々その役割を引き継いでいた。

「口惜しい限りにございます」

「まったくのう」

 皇帝は頷いた。そして表情を引き締める。

「こうなっては、そなたにまた辛い役目を負わせねばならぬ」

 勇者召喚には十数名の召喚魔法士を必要とし、その召喚魔法を調律して同期させる調律魔法も必要とする。しかし現状でそれだけの調律魔法を行使できるのはヘライトスしか居ない。他の調律魔法士は未だ修行中の身で、調律できるのは十に満たない召喚魔法に留まる。そのため、ヘライトス以外が行えば、まず間違いなく失敗する。そこが問題なのだ。調律魔法に失敗すれば、術者は最悪で死に至る。そして魔法の数にして能力の倍するような調律を行えば、間違いなく最悪の事態に陥ってしまう。それを避けようとして召喚魔法の数を減らせば、成功しても勇者のまがい物が召喚されるだけとなる。

「ははっ。心得ております」

 ヘライトスは若い魔法士のためにも引き受けざるを得なかった。

 勇者召喚が行われたのは翌日のこと。

 皇帝や貴族、多数の騎士らが見守る中、ヘライトスが調律魔法の祝詞を朗々と詠い上げる。それに遅れて十五人の召喚魔法士が勇者召喚の祝詞を詠う。僅かに時間差を置きながら起動された十五の召喚魔法が調律魔法によって重なり合い、一つになって発動する。

 勇者召喚は為された。


『は?』

 ハヤトはたった今まで遊んでいたテレビゲームの画面がテレビごと無くなったことに当惑した。周囲のがやがやとした騒がしさに目を向けると、ローブ姿や鎧姿、教科書の挿絵でしか見たことの無い中世の貴族のような姿の大勢の人物に取り囲まれている。

『コ、コスプレ会場?』

 よしんばそうであっても、たった今まで自室に居たものがこんな場所に居る答えにはならない。見知らぬ場所に放り出されたこの状況に、心が不安に蝕まれて行く。異様な雰囲気を醸し出す大勢の人物に注目されるのにも恐怖を感じる。ガチャガチャと音を立てる鎧や武器がそれを更に掻き立てる。

「・・・、・・・・・・・・・・・・・」

 ローブ姿の老人が話し掛けて来たが、言葉が全く解らない。外国語のようだ。

『こ、ここはどこですか?』

 身体(からだ)が震えるのを堪えて話し掛けてみても、相手は目を瞬かせながら首を傾げる。

「・・・・・・・・・。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 やはり老人の言葉が解らない。

『誰か日本語が解る人は?』

 尋ねても、老人は首を横に振るばかりだ。

 諦めて口を噤むと、老人は周りを取り囲んでいた人々と話し合いを始めた。いつしかそれは言い合いに発展し、最後は鎧姿の男が声を荒らげる。その鎧姿の男は怒りの形相を浮かべ、ずかずかとした足取りでハヤトの許までやって来た。

『あ、あの……』

 ハヤトは恐怖に押し潰されそうになりながらも、どうにか問い掛けてみた。しかし、その鎧姿に乱暴に腕を掴まれ、引っ張られる。

「・・!」

 老人が駆け寄って来て、鎧姿と口論を始めるが、周りを取り囲んでいた殆どは鎧姿の味方らしく、数人が駆け寄って来て鎧姿の代わりに口論を始めた。その隙にとばかりに腕を掴んでいた鎧姿に、ハヤトは無理矢理立たされた。そして気付いた老人が止めるのも聞かない鎧姿に引き摺られるように、そこから連れ出されてしまった。


 時間は召喚直後に戻る。

「勇者様、よくぞお越しくださいました」

 ヘライトスは勇者として召喚した少年に話し掛けた。しかし言葉が解らない様子だ。何かを問い掛けて来たようだったが、今度はこちらがその言葉が解らない。

「申し訳ございません。勇者様のお言葉が私共には理解できません」

 更に何か問い掛けて来るが、言葉が解らないので答えようが無い。それどころかこのままでは何の説明もできないのだ。

 協議が必要だ。

「言葉が通じませぬ。そのため、最初に言葉を憶えていただかなければなりますまい」

「それには何日掛かる?」

 魔王の伝説に懐疑的な、所謂(いわゆる)反伝説派の騎士団長ワーグが問い掛けた。

「日常会話ができるようになるだけでも、早くても一年は掛かろう」

「一年だと? 何を悠長な」

「しかし、意思の疎通ができなければ何も始まるまい」

「そんなものできなくとも、戦うことはできる」

「戦えるかも判らないのに戦わせようと言うのか?」

 ヘライトスは少年が見るからにひ弱だったため、とても戦えるようには思えなかった。

「そんなもの、戦ってみれば判るではないか」

「何を馬鹿なことを……」

「こっちはあんたのように悠長にはしてはおられんのだ!」

 ワーグは話を切るとずかずかと勇者へと歩み寄る。そして乱暴にその腕を掴む。

「立て!」

「止めぬか! 無理を通そうとすれば必ず災いになるぞ!」

「また伝説の話でもしようと言うのか? そんな暇は無いと言った筈だ!」

「何故解らぬ……」

 勇者には協力を求めるだけで、何かを強制することはできないのだ。強制したことに反発されて敵対され、それが魔王をも倒す力の持ち主なら世界の破滅だ。ところがワーグらは勇者は何でも自分達の言うことを聞くと思い込んでいる。力で強制できるようなら戦いの役には立たないことを理解しているかも怪しい。

 ヘライトスが尚も反論しようとすると、幾人もの貴族や騎士が立ち塞がって、ワーグと同様の言葉を繰り返す。その間にワーグが勇者の腕を引いて連れ出してしまった。ヘライトスの「待て」の言葉も虚しく響くだけだった。


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